創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(567)創造性をはばむもの(2)



創造性をはばむもの(2)
『アイデア』1966年7月号

                    
           ハーブ・ルバーリン



広告の罪


話題を変えましょう。米国では、広告はまったく愚かなやり方をとっています。
米国人の知性を低く評価した結果、私たち自身がそうしてしまったのです。
私たちはティーン・エイジャー程度の知性の偉大で巨大な消費怪物をつくりあげました。
そして私たちの生み出したものの大半は、彼らにうったえるように企てられたものです。


責任は誰にあるのでしょう。
それはコピー・テストのような、古くさい、効果のない、型にはまった、流行遅れの、当てにならない、信頼できない、価値のない調査方法を完全に信じてきた私たち自身なのです。
調査関係者たちは、大衆の意見のとるに足らないような例をひきだしてきて、大胆にもクリエイティブ・マンにどうやったら最大多数の見込客に印象づける広告をデザインし、書けるかということを教えようとするのです。


何かがどこかで間違っています。
最近の統計学がコピー・テストの価値を示しているのなら、私たちはそのリサーチ費用を知力があるクリエイティブ人種、すなわち上出来のアートディレクターやコピーライターをさがすように教えられてしかるべ
きでしょう。
それも気のきいた言葉やきれいきれいのデザインで名声を得た人ではなく、驚くほど知的な観客の心にアピールするような知的な広告を創造することによって名声を得た人をさがすためにです。


さて、数字でそれを明らかにしてみましょう。
米国で作成された広告の85%が無視されているのです。
残りの15%の中の3%が否定的に受けとられており、また70%はあいまいな反応、あるいは好感をもってむかえられています。


それでは一体、誰が愚かなのでしょうか? 
私たちにどうやって広告をつくるかを指図している人々でしょうか、それとも、それらの広告を読まない
人々なのでしょうか?
広告は大体において愚鈍であり、同じ理由から醜いといえます。
どれくらい愚鈍で美しくない形態になっていられましょうか?


向上する大衆


次に洗練されていない、美的でない、知的でない、理解力のない私たちの観客が、今日、何をしているかを述べましょう。
プロ野球を見に行くよりも美術館へ行く人の方が多くなっています。
その倍の人が音楽会へ行きます。
バレーやオペラも若い人向けの200以上もの研究集会などもあって栄えています。
ラジオも文化的なカムバックを演じています。
250AM局があるニューヨーク市には45もFM局があって知的な放送をやっています。
ニューヨーク市の画廊は、この2O年間に20店から325店まで増えました。
そして通信販売の大御所シーアズ・ローバックでは、200ドルから300ドルの絵画を3年年賦で売ってもいます。
美術品も扱っています。


『エロス』誌 エディトリアル・デザイン" Black & White"

テレビがあるにもかかわらず、米国人は今まで以上に本を読んでいます。
この25年間に7億5,000万冊ものぺーバックが売れています。
そして図書館では、10年前の2倍もの利用者を受け入れています。
それに、郊外に住む家庭婦人で、絵を描かない人のことを聞いたことありますか?
でしょう? 
どれくらい愚鈍で美しくない状態になっていられましょうか?
そしてどのくらい期間?
愚鈍さが模倣をはぐくんでいます。
模倣は主体性、個性を潤渇させます。
しばらく「傾向を作出す人」について話してみましょう。
傾向は確信家によってつくられるのではありません。
革新家は多量に模倣される原型を創ります。
そしてこの模倣が傾向になるのです。


模倣の罪


広告というは、私には1%の革新との99%の模倣からできているように思えます。
革新家の個性は遅かれ早かれこの模倣という迷路によって消えてなくなってしまいます。
そしてこの模倣という迷路は、自分自身でオリジナルなものを創り出すより、他人の成功したものを模倣して生計を得た方が簡単だと思っている人びとによって、不滅のものにされているのです。

プロモーション

ザ・サウンド・オブ・ミュージック

模倣が傾向を創り出し、傾向は創造的な考え方に足かせをはめます。
その傾向にしたがったあげく、誤った安全さの中に落ち込む人びとをここちよく眠らせてしまうのが傾向です。
彼らがもう一度模倣しなおさなければならないと悟るのは、革新家がもう一度何か新しいものを創造した時だけです。(上田純子・訳)


>>(了)

ハーブ・ルバーリン氏とのインタヴュー 目次
>>1 『エロス』誌のこと
>>2 育ちとクーパー・ユニオン校時代
>>3 親友ルーイス・ドーフスマン氏
>>4 広告づくりは好きなんだけどね---
>>5 「ノン・グラフィック」について
>>了 あなたの関心はいま、何に集中していますか?