創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(409)アル・ハンぺル氏とのインタビュー(3)

 ベントン & ボウルズ社
 取締役副社長兼クリエイティブ・ディレクター


「選ばれてあることの、恍惚と不安---二つ、われにあり」だったか、太宰治ヴェルレーヌ(?)の詩句の一片を、作品の冒頭においていたのを、若いころに拾った。
言葉を変えていうと「自信と逡巡、自惚れと反省」---若さは一つの特権であり、精神的貪欲の源泉であろう。


<<アル・ハンぺル氏とのインタビュー(1)


若い時には、不安にいつも襲われた


chuukyuu「人生信条をお持ちですか?」


ハンペル「「私の人生にですか? 私はとても幸運だったと思っています。ほんとうのところ、若い時には、自分がこんなに成功するなどとは夢にも思いませんでしたね。
ずいぶん前のことですが、ニュージャージーでライターだった頃は、広告業界のすべての人が恐くてしかたがなかったものですよ。
そしていつも『あーあ、私は絶対にあんなに華々しくはなれないだろうな』と言っていましたね。
というのは、私には自分がすぐれているとは思えなかったのです。
そして思うのですが、優秀な人でもそのほとんどがこの不安というものを持っていると思うのですよ。
だから自分が十分すぐれてはいないと思うからこそ、もっとよくなろうと努力を重ねるわけです。
私はこの不安を克服しようとしました。私は、決して、自分が一番すぐれているとは思いませんでした。
しかし、努力しているうちに、自分はあの男よりもすぐれている、また、あの男よりもすぐれているというように、少しずつわかっていくものです。
そしてある日、自分がたくさんの男よりもすぐれているこ気がつくのです。こうして確信が生まれ、この確信が私たちをさらによりよいものにするのです」


作品よりも人物を見てライターを決める


chuukyuu「コピーライターの才能をすばやくみきわめるコツがありますか?」


ハンペル「そのことは最近、他の人からも尋ねられましたが、とりたててコツはないように思います。
いろいろな男性、女性が私のところへ作品を持ってきますが、その作品よりも私は人物を見て判断します。
つまり、その人の反応や質問への応答ぶり、話し方などを見て判断するのです。
というのは、そのほうが作品よりもずっといろいろなことを知ることができるからです。
もちろん、作品もいいものでなくではなりません。その人が持ってきたコマーシャルなり印刷媒体広告なりにいいものがあるにこしたことはありません。
そして、その応募者にほんとうのことを言ってほしいと思うでしょう。
誰かを調べたい時には、この業界の仲間でその人の保証人となるような人のところへ行き、その人の評判はどうか、それまでの仕事ぶりはどうか、その人をどう思うかなどを聞くことです。
私には『彼だったら最高の人物の一人だ』とか、『ちょっとよくないことがあるから、彼のことは中止したほうがいい』などといってくれる友人がこの業界に数人います」


chuukyuu「コピーライティングの教育はどういうふうになさっていますか?」


ハンペル「さあ、それも方法といえる方法があるかどうか? ただ何度も何度も書きなおさせること、そしてその作品を誰かに見守らせること、すなわちどうやったらいいか、何をしたらいいかを教えることができ、どういうふうに進んだらいいか、その方法を助言でき、十分に訓練することができ、ほんとうにすばらしいものが書けるまでOKを言わない、そんな人に監督させることですね。
この業界に入りたてのころに、すでにスポイルされてしまったコピーライターというのがたくさんいます。というのは、最初の頃に手助けしてしまう人びとがあまりにも多いからです。
これは、大きな誤りですよ。そのために彼らは自分たちが優秀だという誤った自信を持ってしまいます。
私は待つということが必要だと思います。忍耐強く待って、何度もやりなおしをさせるのです。
とてもむずかしいことですが、これこそその戒律だと思うのです。
そう、これを要約するに一番いい言葉は戒律でしょう。
しかも強要するということです。強くあるということを恐れる人があまりにも多すぎます。『まあいいだろう』とか『OK』と言いながらほんとうにそう思っているのではないのです。頭の中では、どっかよくないと思っていても、当人の感情を害するのが嫌なのですよ。
やさしく思われたい、悪く思われたくないという気持ちがあるのです。強要することが一番です。それに生徒というのは、仕事をうまくし終えることができてこそ、絶大な尊敬をおぼえてくれるものなのです」


chuukyuu「経験を通じて人びとは学ぶことができる・・・と考えるわけですか?」


ハンペル「経験を通じて---まったくそのとおりです。この業界では、他の方法はないと思います。
そのためのクラスとかコースなどあるにはあります。 ビル・ケイシーは私の友人ですが、コピー・コースという学校を開いています。
そしてビルは、人びとをつくりあげるシステムをとっていますが、それによって彼はこの業界を彼らに紹介しているのです。
そこでは、まだ実際的な状況のもとにあるわけではありませんが、生徒たちに書いたり書き直させたりすることをさせて、ある量の経験をさせています。彼は生徒にその練習をしかも何度もくりかえしてさせています。
だから、それはたぶんよい方法だと思います。私の知る限りのただ一つの方法です」


>>(4)


参照ビル・ケイシーのコピーライター実戦的養成教室一日入学記2009.2.26)←(日付)をクリック