(386)キャロル・アン・ファインさんとの和気藹藹インタビュー(了)
キャロル・アン・ファイン夫人
ウェルズ・リッチ・グリーン社 取締役副社長・コピースーパバイザー(当時)
タイトルの「和気藹藹(あいあい)」は、「ホンネで語る」のほうが的を射ているかもしれませんね。広告代理店の個人とともに扱いが移動するクライアントのことを「ヒップポケット・クライアント」と呼ぶのだと教わりました。日本でそれをやったら、「没義道な人物」というレッテルを貼られかねません。あ、この話はクリエイティブな環境にはふさわしくありませんでしたね。
やりたいことをやる傾向が強まるだろう
chuukyuu 「コピーライターの将来、これからの傾向といったものをどうご覧になりますか?」
ファイン夫人 「これもむずかしい質問ですね。どうも私は口べたでだからこそコピーライターをやっているのでしょうけれど。前の質問でも触れたように、マネジメント・スーパパイザーやAEといった人びとが決定権をもつという広告界の不文律のようなものが今まではあったと思います。
彼らが一言『とんでもない、そんなことはできません』と言えばそれで終わりでした。 しかし、それは徐々にではありますがなくなりつつあるような気が私にはします。
つまりいまは誰もが自分のやりたいことを、何か新しいことをしてみたいと望んでいるのです。ですから、この傾向はもっと強くなっていくでしょうし、あるいはもしかすると新しい代理店がたくさん生まれてくることになるかも知れません。
それは、ある程度年のいった---というのはあまり若いと経験不足ということがありますから---コピーライターとアートディレクター2人が手を組んで始めた代理店です。ともかく彼らは2人きりで小さな代理店を持ち、もしかすると若いコピーライターかなにかも雇うかも知れませんが、とにかく彼らが望む彼ら流のやり方で広告に挑戦していくのではないでしょうか。
それから、彼らの失敗も目に見えているような気がします。彼らはこの業界に立ち打ちできないで、実際のところ大損するのではないでしょうか。そんな代理店で金もうけようというには並大抵のことではありませんから」
chuukyuu 「あなたは,いずれは自分の代理店を持ちたいとお思いですか?」
ファイン夫人 「やはり持ってみたいですね私は以前ほんのしばらくですがヨーロッパで代理店をやっていたことがあるんです。ですから、自分の代理店を持つことがいかにむずかしいかはよく承知しています。でも、もしいまの私にそれをやっていくに十分耐える力があるとしたら、きっと私は他の人と同じようにここから出ていくことでしょう。
新しく代理店を開くとなるとお金が大いに関係してくるのは当然ですが、その点に関していえることは、広告界である程度のレベルに達していなくてはなりません。これは決して大げさな表現ではなく、まったくの事実なのです。私はニューヨークの中でもっとも高い給料をもらっている人間に属します。でも、いま働いているところよりもっと高い給料で雇ってくれるところをさがすのはさしてむずかしいことではないのです。
ところが忘れてならないのは、収入が多くなればなるほど税金もまた高くなるということです。いま昇給したとしても、たとえ率のいいものであったとしても、私の手許にはすこししか残りません。ですから、つぎに起こる問題は実際にお金を自分のものにすることです。しかもたくさんのお金を。
この問題に関するかぎり、自分の代理店を持とうが、あるいはここにいるクリエイティブ・ディレクターのように優秀な人間であり、しかも最高の代理店で働いていようが結果はまったく同じなのです。私には自分の代理店を持ちたいと強く願う気持があると同時に、それを受け入れまいとする気特もあるのです。とても矛盾しているのですが。というのも、ここがそれだけ私にあった代理店だからなのでしょうけれど。
ただほんとうに金儲けがしたいというのなら、自分で代理店を開くのが一番いいんですよ」
chuukyuu 「自分の代理店を持った場合、クライアントにそれがわからないということで何かむずかしいことが起きるのではないかとはお思いになりませんか?」
ファイン夫人 「自分で代理店をやるつもりの人なら、前もってアカウントを掴んでるはずだと思います。これはたいした問題にはならないと思います。それまで勤めていた会社をやめて自立したという人と実際にこの間題について話し合ったことは一度もありませんが、恐らく、代理店で働く人だったら少なくとも一つは担当するアカウントがあるはずです。
しかも普通ですと、そういったアカウントは、ライターとアートディレクターの関係と同じように密接な間柄なのです。ですから彼らに『近いうち自分の代理店を持つからよろしく』くらいのことは容易に言えるはずです。その中から一つでもあなたに関心を示すクライアントが出てきたら、もう何も言うことはありません。クライアント1社で十分代理店はやっていかれるのです。年間の扱い高が250万ドルから300万ドルあれば十分採算がとれます。これはお医者さんに通ずるところがあるのです、良い評判さえあればすべてOK。
ご存じのとおり、お医者さんというのは、患者のほうから訪ねて来るものであって、医者がのこのこと出かけていくものではありません。とにかく何か人に印象づけることをやりさえすればいいんです。そうすることで独立が可能になるのです」
chuukyuu 「どんな場合でもものをいうのはその人の力ですよね」
ファイン夫人 「まさにそのとおりです。私はこうも思うんですよ、これからの広告ともっとファッションに進出するんじゃないかなって。事実こうした現象は二ューヨークでいくらでも見られますからね。ジャック・ティンカー&パートナーズにしろうちにしろ。私は、そういった先手先手と打っていかれるような人に広告をやってもらいたいと感じています。
とにかく広告っていうのは、いまうまくいっていても、つぎの仕事では大失敗をするかも知れないといったビジネスのです。ものさしで計れるものとは根本的に違うんですもの」
【chuukyuuアナウンス】明日からは、ファイン夫人推奨のコピーライター---ジーン・ケイス氏とのインタヴュー篇をアップします。
【chuukyuuアナウンス】かねて編集中の拙編著『クルマの広告』の、平台積み用のポップアップまでおんぶに抱っこで、版元から依頼されたので、(左)をつくりました。
ところが、営業が「意味不明」とボツに。
急遽、代案を要請されたので、(右)のコピーを。
ビートルの広告ポリシーは、外観よりも、性能とコンセプトで---ということで、広告はモノクロで十分に伝わるとしてきていました。だから、(左)案を提供したのに。DDB流は、ぜったい(左)ですよね。