創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(384)キャロル・アン・ファインさんとの和気藹藹インタビュー(6)

キャロル・アン・ファイン夫人
    ウェルズ・リッチ・グリーン社 取締役副社長・コピースーパバイザー


コピーライターの条件---書けること.正しく考えること

chuukyuu 「コピーライターにとって欠くことのできない能力といったようなものは何ですか?」
ファイン夫人 「2つあると思います。コピーライターとは、文字を操ることで人びととコミュニケートを行なうものなのですから、書けないのだったらコピーライターになるべきではないのです。このことは言いかえれば、才能があるといったことはたいして重要ではないと思うのです。ですから私は、才能があるとかないとかをわざわざロに出すようなことはしません。才能は生まれながらにあるのです。これはどんなに努力しても自分のものにすることのできないもの、そういったものなのです。これは、文字で人びととコミュニケートすると
いう才能であり、そこから発して、媒体が何であろうと、例えば1分間のテレビ・コマーシャルであろうと、1ページあるいは見開き2ページであろうと、とにかく何でもいいから媒体を通して文字によって人びとに売り込む、文字で描かれた商品を人びとに買わせようとする、そういったものなのです。これがみんなのいう才能です。
人に才能を植え込むことのできる人は誰もいません。もちろん私にもです。
世界でもっとも偉大な思想家とか機械について深い知識をもっている、例えば宇宙飛行士を連れて来ることはできますが、彼らの誰かをコピーライターにすることは決してできません。これは誰も彼もがもっている才能とは、ちょっとわけが違うのです。非常に根本的なものですから、ロに出して云々できる種額のものではないのです。私が言おうとしているのは、コピーライターが必ずもっていなければならないものは、正しくものを考える態度、そうした心構えなのです」
chuukyuu 「そのほうが重要とお考えですか?」
ファイン夫人 「はい、これがもっとも大切なものと考えます。才能、これはどのコピーライターももっているものですから、わざわざそれをはじめにあげるようなことはしなかったのですが、もし才能を言うならばそうした正確にものを考える心構えは、才能のつぎにくるものでしょう。正しくものを考えることこそ、コピーライターが身につけることのできるもっとも大切なものではないでしょうか。ただ文字を並べるだけのコミュニケーションでは十分とはいえませんからね。
商品のどの面がー番人びとにアピールするかをしっかり知っておかなければならないのですから、そのためには、商品についてのすべてを完全に自分のものにしなくてはなりません。そうすれば、商品のどの点が人びとにもっともよく伝えることができるかがわかってくるのです。
これは、口で言うのはとても簡単ですが、実際にやってみるとなかなかたいへんです。事実、商品を前にして、いざ始めようとしてみたところで、そう簡単に解答がでてくるものではありません。
ここにそのいい例があります。よくあなたは優秀な公共サービス広告を見かけることと思いますが、こうした広告が優秀なのはもともと真に迫る何ものかがあるからなのです。最近ビアフラの子どもたちがどんどん餓死しているということはあなたもご存じでしょうが、こうした実状を人の心に訴える広告を書くのはとても簡単なのです。これは、コピーライターなら誰にでも書けるといった種類のものなのです。
ところが針金でできたハンガーの広告を書くとなると話は違ってきます。これは人の感情に訴えることのできない、人の興味を十分に引くことのできないものなのです。こうしたつまらない商品のコピーを書かなければならない場合、どうすればこのつまらない、取るに足らない商品を人びとに紹介できるかをどうしても知る必要があるのです。このようにすっかり生活に溶け込んでしまっていて、人の注意を引くのがなかなかむずかしい商品は、まだまだたくさんあります。
ねり歯みがき、石けん、洗浄剤などがいい例です。そして、あなたの正しい考えが強く要求されるのもこういった場合なのです。
それからもうーつ大切なのは、人びとが真に求めているものが何であるかを見抜くフィーリング、つまり洞察力です。これは、心理学の本を読んで、『はい、わかりました』と了解できるような、そんな単純なものではありません。
メリー・ウェルズ---現在のメリー・ロレンスを例にあげてみても、彼女の成功の陰にはこのフィーリングがあったと私は信じます。彼女には、何が効果的か、何に人びとに訴えるものがあるのかを見抜く力をもっているのです。彼女はこの鋭いフィーリングを生まれつきもっていると言っても過言ではないでしょう」
chuukyuu 「それは超人的能力、占いに通じるところがありそうですね」
ファイン夫人 「果たしてそうなのかはっきりわかりませんが。とにかく熟考することはとても大事だと思います。最近(当時)の広告界にみられる現象は、誇大広告、偽りの広告がずっと少なくなっていることです。人びとに嘘はつけませんからね。誰にだって嘘は簡単に見破れますから。
私はいま米国での話をしているわけですが、それはともかくとして、みんなが正直でなくてはいけません。私には、この口紅を使えばあなたは世界一の美人になれますとは言えません。そう感じさせることは私にもできるでしょうが、でも私はそれすらしたいとは思いません。やはり嘘になるからです。人びとはずっとずっと洗練されてきていますし、真実性に欠けるものには鋭い反応を示します」
chuukyuu 「なるほど、つまり言葉で消費者を裏切ることはできないわけですから、彼らの心に訴えるようにしなければならないのですね」
ファイン夫人 「まさにそのとおりです。今までにつくられた優秀な広告やキャンペーンは、すべて人びとの感情や心に訴えるものをもっていると思います。このいい例がフォルクスワーゲンの広告です。まず人びとの心を捕え、それから何かを彼らにはっきりと伝えています。ですから、こういった広告をつくるためにもまず第一に人びとに伝える正確な言葉をあなたのものにする必要があるのです」

キャロル・アン・ファイン夫人が推奨したVWビートルの1作品。彼女は、DDB時代にクリエイティブ・チームのまじかにいて深く学んだ。それがなによりも身についた学習法だったはず。

緑のフェンダーは、
'58年型のもの、
青いフードは
'59年型のもの、
ベージュのフェンターは
'64年型のもの、
ターコイズのドアは
'62年型のもの、
VWのほとんどの部品は何年型のものでも
交換可能、
いつでも手に入ります。


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