創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(373)エド・マケイブ(Edward McCabe)氏とのインタヴュー (4)

10月30日から3日間にわたって掲載した、エド・マケイブ氏とのインタヴューのつづき。同氏とのインタヴューに、イタリアのアクセサーがご自分のブログに転載し、「グレイトなコピーライター」と振っていたのが印象的でした。わがブログも、なかなかに国際的になってきています。


chuukyuuからのお詫び】
 昨日の午後から甲府へ、1泊取材に行っていて、アップが遅れました。


スカリ・マケイブ・スローブス(Scali,McCavbe,Sloves,Inc.)社
副社長兼コピー・ディレクター
エド・マケイブ氏とのインタヴュー(4)
(1968年)


<<エド・マケイブ氏とのインタヴュー(1)




気に入っている2つの作品


chuukyuu「これまでにつくった広告で、もっとも気に入っている作品を2点あげてください。その理由と、その作品をつくった時のエピソードを話してください」
ケイブ「気に入った作品といえば、この代理店にくる前のものですね。ここでつくったものが気に入らないとか、良くないという意味ではありませんよ。もちろん、ここの仕事はすぐれたものです。
一つは、空気浄化のための市民団体のもので、『あすの朝、起きぬけに思っきり深呼吸してごらんなさい。きっと不愉快になってしまいますから』というヘッドラインで言っいているの。
これが好きだというのには、いろいろ理由があります。
まず第一に、良い広告だと思います。
第二に、これこそ重要なことだと思いますが、広告界にいても、ほんとうに大切だと思われるものの広告がつくれるチャンスというのは、そうそうあるものではありませんからね。ほんとうに良質の歯みがき粉だと思われる歯みがきの広告をっくる時にも確かにエキサイトします。
でも、空気をきれいにして健康に貢献できるようなもののために広告をすることほどエキサイトするものはありませんよ。だから、この広告が気に入っているのです」

現在(1973年当時)の米国の広告界の一部に、抗議広告についての関心が高まりつつあり、この広告が抗議広告を一つの典型と思うコピーライターたちがいることは事実です。そのグループの動きについては、DDBのチャック・コルイ氏のところで詳しく話しました。


あすの朝起きぬけに思いっきり、深呼吸してどらんなさい。 きっと吐き気をもよおしてしまいますから。


新鮮な空気を深呼吸することは、日常生活の中でもっとも満ち足りた経験であるといわれています。
しかし、ニューヨークで深吸呼するのは、病気になるとはいわないまでも、最高に胸が悪くなる体験であるともいえます。
それほどニューヨーク周辺の空気は汚れきっているのです。
この私たちの「すできな町」では、ほとんど消え失せようとしている晴れた日を、空気はさまざまな毒物で汚染しているのです。
普通の日にもあなたは、ご存じのように致命的な一酸化炭素、石をも腐蝕させる亜硫酸ガス、第一次大戦催涙ガスとして使われたアクロレイン、ねずみに皮膚ガンを発生させるベンゾビリン, そして健康ならピンク色をしている肺を真っ黒にしてしまう、 ものすごい量の煤煙とほこりを吸い込んでいるのです。
ついには、このニューヨークの空気の不快さが、あなたを打ちのめすでしょう。汚染した空気は、目を刺激し、胸を傷め、鼻水を流させ、頭痛の原因となり、のどをただれさせます。また、大気汚染は、このごろやる気をなくしてしまう「灰色の日々」にも関系があり、あなたの精神衛生にも影響しているかもしれません。あなたがしょげやすいたちの人なら、汚染した空気に長く身をさらしていることが、よい結果を生みはしません。
最悪の場合、汚染した空気はあなたを殺すことだってできるのです。今までのところ、空気の汚染によって起きる、あるいは悪化すると信じられている病気には、肺ガン、肺気腫、急性気管支炎、ぜんそく、心臓病などがあります。
1953年と1963年の大気汚染のひどかった期間に、ニューヨークで600人もの人が死んだといわれています。長年にわたる大気汚染の結果として、このほかにどれだけ多くの人が死んでいるかは、想像にかたくありません。
ニューヨークの大気汚染の犯人はだれでしょう? 実質的には、みんなです。アパート、工場、自動車、バス、 ごみ処理場など、 ものを燃やすすべての場所から煙が噴出されています。
けれども、この問題を引き起こしているのが誰か---をあぱくのが、この広告の目的ではありません。あなたを怒らせて、この空気汚染を止める手助けをしようという気持になっていただくのが目的です。
あなたは、あなた自身は、空気汚染に関して何ができるのでしょう? たいしたことはできません。しかし、100万人の人びとが腕を組めば、かなりのことはやれます。
私たちは汚染された空気を十分味わったニューヨーク市民100万人の名前と住所を知りたいのです。
その名前は、ニューヨーク市民は空気汚染に全然関心を払わないといい張る人びとに対する武器として使われることになるでしょう。
もし私たちが100万人の名前を獲得できるな_ら、ニューヨーク市民はもっと煙の少ない燃料、空気汚染法のよりよい執行、もっと能率的な廃品の処理法などの費用を出そうとしない、などとは誰もいわなくなるでしょう。
もし私たちが、100万人の名前を獲得できるな_ら、ニューヨーク市民はもっと煙の少ない燃料、空気汚染法のよりよい執行、もっと能率的な廃品の処理法などの費用を出そうとしない、などとは誰もいわなくなるでしょう。
これらの経費は安いのです。年に2〜3ドルですみます。
汚染された空気はもっとずっと高くつきます。それは最高の代価をも払わせることができるのです。


100万人の市民が新鮮な空気を求める会