創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(9)ロバート・レブンソンのインタヴュー(その2)


『みごとなコピーライター』より


<<ロバート・レブンソンのインタヴュー(その1)

VWのほかにはELALとモービルが好き


chuukyuuフォルクスワーゲンのほかに、お気に入りの広告は?」


レブンソン「ずいぶんたくさん、いろんなアカウントを扱ってきましたからね。フォルクスワーゲンを書いていた時でも、私はELALイスラエル航空の広告が好きでした。
”My son, the pilot.” これが、特に好きです。


【訳文】
あの子はねえ、パイロットなんですよ テイリー・キャッツ
(chuukyuu注:助動詞を省略したいい方は、ユダヤ系ママ独特のいいまわし)


本当なんですよ。
いえね、わが子だからってこんなこというんじゃありませんよ。
だってフロリダのジャクソンビル育ちの一介の少年が機長に成長するなんて考えた人がいるでしょうか。
おかしなことですが、ビルは若い頃、飛行機に興味すら持ったことなかったんですよ。私としてもそのことに不満はありませんでした。率直にいって、あの子がフットボールをやっている時でも神経質に心配したくらいですけれど。
それなのに、あの子の頭に何が浮かんだのでしょう? ちょうど、私たちみんなが、彼なら何かすばらしい仕事につくだろうって考えたころでした。あの子はこの航空会社に入ったのです。
すぐにあの子はヨーロッパの第8空軍のグループ司令官になり、除隊時には司令官キャッツでした。
空軍十字勲章を受けておりました。
それからというもの、飛行につぐ飛行の連続でした。
こんなあの子をパイオニアと呼べるかどうかわかりませんが、あの子は、ELALがまだ小さな航空会社にすぎなかった時期に入社したんです。
いまですか? 機長です。
ときには、あの子、細かなことに気を配りすぎるとおもうこともあります。
いままでにどれくらい飛んだとお思いになります? 200万マイルを越しているんです。
空の上でどれくらいの時間を過ごしたとお思いになります? 12,000時間ですよ。


この航空会社を立派にしたのは、あの子が毎日しているんですわ。って。
私にはわかってます、イスラエルには嫁と美しい2人の娘がいるんですからね。
ときどきは私に会いにやってきてくれますが、もっともっと甘やかしてやりたいと思います。でも、孫にはビルがパパでほんとうによかったっておもっています。息子は誰にでも彼にでも甘いんです、自分以外の人には…ね。
ELALにお乗りの節はあの子に会ってやってください、そして私がこう言っていたとお伝えてくださいな。「冷えないように」って。


そのほか、モービルに好きなのがあります。『死が2人を引きさくまで』です。



【訳文】
死が2人を引きさくまで


詩の中でなら、愛のために死ぬのは美しいことかも知れません。
しかし、車の中で、愛の行為のために死ぬのは、醜く愚かしいことです。
それなのに、車に乗ること自体にではなく、車の中での恋愛に夢中になっているカップルを、どんなに多く見てきたことか。あなたご自身も恋を楽しんできたでしょう?(略)
15歳から25歳までの若者の死因の筆頭は自動車事故だというのに。年に14,450人の若者が車の中で死んでいるのです。(略)
私たちモービルは、宣教師でも教師でもありません。私たちは生活に必要なガソリンとオイルを売っています。私たちはあなたに可能性のある顧客になっていただきたいのです。
きょうの顧客でなく、明日のお客さまに…。



シローイッツ氏の個室で、モービルのためのアート=コピー・セッション中のレブンソン氏


それからあとは、パッケージ商品の広告。これもなかなかおもしろいものです。『フェイス(Phase) III』という石けんですが、これはクローンと一緒にやりましたよ」


chuukyuu「その時のことを話してください」


レブンソン「これは、必ずしもベニスの映画祭で賞をもらおうということじゃないんですが…。非常におもしろかったのは、製品がまだぜんぜんできあがっていない、全然知られていない、という時から始めたんです。
その石けんがどんな形なのか、どんな匂いなのか、一般に知られていない、だれも知らない、そこから始めたわけなんです。名前さえまだ決まっていないものだったんです。


名前づけから、市場導入、マーケティング、そういうこと全部を私たちが手がけました。


非常に成功しましてね。いま私の家の近所くのスーパーマーケットへ行くと、棚にフェイスIIIという石けんが積んであって、実際にそのマーケットで石けんが売れていく様子を、まのあたりに見ることができるんです。


これは、ほかのテレビとか新聞の広告と非常に違う点です。その効果を、直接に自分の目で確かめられるというのは、とてもおもしろいものです。新聞やテレビの広告はそれ自体非常におもしろくても、そこで広告されているその製品が実際に売れている現場を、自分でじかに見ることはできません。


たとえばELALイスラエル航空の切符が、自分の目の前で次から次とどんどん売れて行く、なんてところを見ることはできませんものね。また、フォルクスワーゲンにしても、モービルのガソリンにしても同じことで、直接に自分が手がけた広告によって、みるみるそのものが売れていった、販売効果がみるみる上がった、ということを目で見るのは不可能です。


しかし、パッケージ商品の仕事の場合は非常におもしろい。直接私がその商品の身近にいるわけですから。
このことは、それが成功すればの話ですけれども…。失敗したら、まったくひどいことになります。
まあ、幸いにして、今まで私の扱ったパッケージ商品では失敗がないものですから、こういうことが言えるのですが…」


chuukyuuフォルクスワーゲンの広告だけでも、量的にたいへんだと思うのですが、VW以外には、どんなアカウントを担当なさっていますか?」


レブンソンフォルクスワーゲンは、もう書いていないんです。ここ2,3年ぐらい、フォルクスワーゲンの広告は、書くということではやっていません。
いまは、ブリストル・マイヤーズを書いています。あとは、ゼネラル・フーズ、FLALイスラエル航空などです」

コピー・チーフの役割


chuukyuu「あなたの肩書は、コピー・チーフと記憶していますが、いまでも?」


レブンソン「ええ、現在の私の正式の肩書は、コピー・チーフです」


chuukyuu「コピー・チーフというのは、どういうことをする職名なんですか?」


レブンソン「基本的には広告をつくる、ということなんですけれども、そのほかに監督的な役割が非常にあります。
私たちは、上のほうから見ていまして、クライアントとの意見の調整をしたり、実際の広告の内容に関して法律問題が起きたような時には、弁護士のところへ行って説明するとか、また媒体のいろいろな折衝とか。それからもちろん広告そのもののクリエイティブな面での指導とか、いろいろあります。」


chuukyuu「では、実際にコピー・スーパパイザーとどう違うのでしょう?」


レブンソンDDBには、現在90人のコピーライターがいますから、非常に大きな数なんです。私たちは、才能がある若い人たちを入れて、なるべく会社の中で育てようとしています。ですから、非常に多くの指導力が必要になります。
その際、基本的に教えていかなければならない考え方というのは、私たちの広告は、私たちの楽しみのためではない、結局は、クライアントのために商品を売るのが、最終的な目的なんだ、ということをよくたたき込んでやらなければならないんです。


まあ、こういうようなガイダンスを、コピー・スーパバイザーが若い人たちに対して与えるわけなんです。さらにはロバート・ゲイジ、最終的にはバーンバック会長などの人たちが基本的な指導の線をつくっています。」

若いライターの教育法


chuukyuu「若いコピーライターに対するあなたの指導法を話してください」


レブンソン「昔、私は、プラット・インスティテュートという美術関係の大学で教えたことがあるんです。
しかし、教室でコピー・ライテイングを教えるということは、あまり効果的ではありませんでした。
やはり、コピー・ライティングというのは、こういう現場で教えるのがいちばんいいと思います。


それから、私は、ニューヨーク大学でも教えたのですが、やっぱり効果がなかったんです。私は、現場で実例を示すというのが、いちばんの教授法だと思っています。これには疑いをもっていませんね。
現在、私が管理職の仕事を100パーセントやらないで、少しずつでもクリエイティブのほうの仕事を残しているというのは、そういう考えからなんです。
完全に管理職になってしまいますと、タッチがわからなくなってしまう。ですから、常に新しい感覚を養っていくためには、現場から離れてはいけません。
そのほかには、若い人たちが一本立ちで歩いていけるように、正しい道の中にはめてやる。
そして、そこからはずれないように指導してやることです。


ある一定の枠がありますから、そこからはずれて、あまりにキュートすぎる、あまりにシリアスすぎる、あまりに軽薄すぎるというようなことがないように、また、できるだけ簡潔な形で、個々のライターの持っている才能が発揮できるように指導します。


そして、その際、なんのために書いているのか、また、いま広告している商品をお客さんに買ってもらうためにはどうするか、さらに、お客さんが現在買っているものをやめて、自分たちの広告している商品のほうに変えようという気持ちにさせるにはどうしたらいいか、それを上から指導するわけです。
まあ、それ以上の指導法というのはありませんね」


>>ロバート・レブンソンのインタヴュー その3