創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

世界中の女性コピーライターへ(2)


 DDBのコピーチーフとして規律といったものはどうお考えですか。DDB的な特別な性格といったものを求めましたか?


ロビンソン夫人 コピーが新鮮で、キチンとしていて、ポイントを衝くいている、そして売れる仕事をするという以外に、特別なDDBスタイルといったものを求めたことはありません。
わたし自身のスタイルというものはごくふつうのもので、ある程度はほかの人の持っていたスタイルから学びとったものです。わたしが自慢できたのは、ほかの人の一番いいものを引きだすことができたことです。
こんなコピーを書いてはいけない、わたしのようにしなさい、というのは致命的ですね。しかし、悪い点を具体的に指摘して回答を導き出してやる方法、これはその人を成長させ、いい仕事ができるようになるでしょう。
その人に答えを探し出すよう助けてやる、こういった方法で個人個人のスタイルが生まれるのです。


 コピーチーフとしては、きびしいほうでしたか?


ロビンソン夫人 きびしいですね。
鉄拳にびろうどの手袋をはめたようなきびしさです(笑)。
わたしはコピーライターとのヒューマン・リレーションはひじょうによかったのですが、仕事の面ではきびしかったですね。
自分で納得しないコピーは認めませんし、20回も書きかえを要求したことさえあります。


 最近はコピーが短くなったと感じませんか?


ロビンソン夫人 いま考えているのですが、これからは長い、説得的なコピーが流行ってくるでしょう。


 短いコピー、長いコピーのどちらが書きにくいですか?


ロビンソン夫人 いいコピーを書くのはむずかしいですね、あなたが優秀なコピーライターなら、短いコピーも長いコピーも書けるはずです。短いコピーをじょうずに書くというのはむずかしい仕事です。長いコピーで消費者を退屈させないというのは、特殊技能を要します。


 たとえば、あなたの場合、いいコピーを書くムードづくりといったのはどんなものですか?


ロビンソン夫人 コピーはこの部屋でも、家でも、お風呂のなかでも、通勤の汽車のなかでも書きますよ。
場所はたいして関係ないのですが、一日規則的に仕事をしたいですね。それにコピーを書く際には二つのことを心がけています。


一つは、その商品を徹底的に研究して、それについての馬鹿な考えをなくすこと。


もう一つは、どうしてもコピーが頭に浮かんでこない、引っかかりがない場合は何となく紙に何でも書くことです。


この方法がわたしにはいちばんいいですね。
というのはわたしには何か編集者気質といったものがあって、コピーを編集するのが好きだし、下手なコピーを書いた場合は破いてしまうのですよ。そんなことはできないという人もいますがね、つまり、そういった人はコピーを心のなかで完全なものにしてしまうのです。
わたしは自分のコピーをいじるのが好きですが。


 コピーライター志望者の広告に対する態度、哲学を、どんなふうに確かめますか?


ロビンソン夫人 そんな目的でコピーライター志望者に接触したことはありません。
なにはともあれ、作品をみます。
これが要点なのですから、DDBには未経験者には研修制度があって、テーマを与えてコピーを書かせています。


 熱心なコピーライター志望者でも広告代理店はなかなか雇わないでしょう。あなたは反抗心の強いコピーライターを選びますか?


ロビンソン夫人 コピーチーフは優秀なライターを探すべきです。
優秀なコピーライターが活気がなくなった場合、そういったムードが作品に現われないよう注意すべきでしょう。
そしてアイデアをしぼり出さなくてはなりません。無気力なコピーライターからでも時にはすばらしいコピーを引っ張り出すことが可能です。
いっぽう、そのコピーライターが挑戦的であり大胆な性格だからといって、その性格をコピーに反映させるとは限りません。


 最近の広告界でいちぱん大きな変化、ないしは傾向といったものは何でしょう?


ロビンソン夫人 もっとも重要なことは、広告クリエイターがいいコピーを書く感激は商品から生まれることに気づいたことではないでしょうか。


 本や映画やテレビといったこんにちの文化のうち何が広告にいちばん大きな影響力を与えたとお思いですか?


ロビンソン夫人 すへてのいろんなことを引き起こしていると思います。
こんにちでは、わたしたちは文化を含めてあらゆることを利用していますね。意識的にも無意識のうちにもそれを使っているのです。
上品である限り、わたしはこういったことはあっていいと思います。


 ご自身で広告代理店を始めるお考えはありませんか?


ロビンソン夫人 自分で広告会社をつくるつもりはありません、もちろん、お金はほしいし、そのことについては人後に落ちません(笑)。
でも、広告会社を始めるとなると、いろいろ準備が必要です。まず野心を持たなくてはなりませんが、わたしはいままでの仕事でじゅうぶんに野心を満足させました。無から再出発しなくてはならないのですが、わたしはそれも経験ずみです。<了>

参照フィリス・ロビンソン夫人とのインタビュー
(12345678了)