創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(160) ロール・パーカー夫人とのインタヴュー(6)

ドイル・デーン・バーンバック社 副社長兼コピースーパバイザー


ロール・パーカー夫人とのインタヴュー(1)(2)(3)(4)(5)

よいコピーライターの素質---?


chuukyuu「よいコピーライターの素質を、どう考えますか?」
パーカー夫人「とにかくよいコピーライターの要件というのは、いくつかありますが、その中の第一は、基本的に才能を持っていなければならないということでしょうね。生まれつき才能がなければ、これはどうしても無理です。すぐに辞めたほうがいいわね。
この才能というのは、アイデアをつくりだす才能です。それから、言葉を使える能力ということです。これはほんとうの基本で、この上に築きあげなければならないものがいくつかあります。学んでいくべきものです。
その一つは、いかにして自分白身を規制していくか、自由な活動の中からいかにして一つのものにしぼっていくかということ、判断の能力を養うとということです。この点が、DDBの若いコピーライターたちにとって、むずかしいことのようです。才能があるにもかかわらず、判断力の点で弱いのです。
6つとか8つとかのアイデアを、私のところへ持ってきます。それらのアイデアはすごくいいんですが、彼らはその中からいちばんよいもの選ぶことができません。みんな同じように見えるんでしょうか?
困ったっことに、DDBではそういうふうにたくさんのアイデアを持ちこまれても、スーババイザ-はその中から一つを選んではいけないのです。DDBのやり方はそうじゃないんです。本人がいちばんよいと思うものを選ばせるのが、DDBのシステムなんです。でも、彼らにはむずかいことのようですね。
DDBでは、よいライターというのは、書ける人じゃなく、コンセブトを持っていろ人のことを指します。どういうふうに書くかは2の次です。はじめにまずアイデア---コンセプトがあり、言葉というのはその衣ということですから、中味がなければ衣けだけあってもなんにもなりません。
たとえば、エイビスのキャンペーンの場合も「私たちはN0.2です」というのがコンセプトになっているんです。心理的なコンセプトをネラい、それから言葉が出てきています。
判断力の次に学ばなければならないのは、ゲームのルールを知ることです。
今日の若い才能のある人たちは、既存の古いルールを破ること自体に意味があるのだと思いこんでいるようですが、その前の段階、つまり、何がルールかということを知らないようです。破るのなら、何がルールかを知らなければ、破れないはずですのに---。メチャクチャなやり方をしてしまうのはこのためです。メチャクチャに鉄砲を撃ったってしょうがないでしょ。やっぱり、ネライを定めなきゃ。
3番目は、性格ですね。組織の中の協調の精神と言ってもいいわね。DDBの中には、いろんなタイプのライターがいます。ほんとうにイカレた人から、ほん
とに固苦しい人まで---。でも、みんなに共通に持ってもらわなければならないものが一つあります。それは、この仕事には、失望や落胆がつきものなのですから、それに耐える力です。何百万ドルのアカウントを担当していて、たまたま自分の意見が通らないような場合とか、あるいは修正されるような時だってあります。そんな時にも、自分の使った言葉がちょっと直されたからといって、ガックリくるようじゃ困ります。もっと弾力的な考え方を身につけてほしいですね。また、しばらく考えてみれば、もっとよいアイデアが出るかもしれませんし。
コピーライターというのは、象牙の塔にこもったり、屋根裏で小脱を書いているのではありませんからね。自分自身を閉鎖してしまって、ほかの人とコミュニケートしなくてもやっていける職業じゃないのですから、周囲の人間関係、社会関係、クライアントとの関係、プロデューサーとの関係もある程度考慮に入れなければ---。つまり、やりにくい人間関係も協調して切り抜けなければなりません。強調することによって、自分の大切な才能がすり減らされるなんて思わないようにしてほしいですね。
以上あげたことが守れるならば、ヒッピーでもスクウェアでも、外攻性の人でも内攻性の人でも、ユダヤ系でもイタリア系でも、家族持ちでもプレイボーイでも、安ものを着ていようがオーソドックスな洋服を着ていようが、ちっともかまいません。DDBには、いろんなタイプの人間がいるんですよ」


>>つづく