創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(737)『アメリカのユダヤ人』を読む(13)


祈  り


われらに子供を


ユダヤ人は子供を戒律に従って教育するように、ミツバ(戒律)で命じられている。
アメリカのユダヤ人の若い世代が信仰に背を向けないようにするには宗教教育
を増やすことだと3宗派ともに信じているが、教育方法についての意見は分か
れている。


 正統派は、全日制のイエシバ学校(イエシバ大学とは違う)以外は効果がな
いと言う。
ユダヤ的な雰囲気にひたっていないというのがその論拠である。
統計によると、同派の全日制小中学校が274校と高校105校――半数がニ
ューヨークに所在――があり、生徒は6万9,000人いる。
しかもその数は増える傾向にある。


 この種の学校に子供を入れるには、ある程度の出費を伴う。
施設の良くないイエシバ校でも年に300ドル以上の授業料をとられ、700ド
ルというのも珍しくない。
裕福な正統派教徒のためのマンハッタンのラマス校は1,000ドルもするが、生
徒は戒律軽視の正統派家庭の子弟がほとんどで、正統派に加入していない者も多
い。
子供だけは自分よりも立派なユダヤ人になってほしいと願って入れる親もいれば、
娘が異教徒の男の子と共学するのを嫌って通わせている親もいるが、総じてその
授業内容には関心が薄い。


 授業は、午前中が宗教教育、午後が一般科目となっている。
高校生ともなると、週に数回、夜の厳しい宗教授業に出席するようにすすめられて
もいる。
金曜日は安息日に備えて早目に終わる。ラビに言わせると、週24時間の宗教教育
と8時間の夜の特別コースでも十分とはいえないらしい。
高校生は大学に入る前に、高校卒業後1年以上宗教教育を受けると誓わされる。
モーゼ五書(創世記、出エジプト記レビ記民数記申命記とタルムドユダヤ律法とその解釈の全20巻)
に集中するこの期間は、大学で待ちうけている危機に対する武装期間だというわけ
である。
男女同じ学校へ通うが共学ではなく、地下のキャフェテリアも別々で、図書館の入
館時間も分けてあるところが多い。
右寄りの学校ほど男女分離にうるさい。


 宗教課程は、ユダヤ史、ヘブライ語儀式教育、タルムド読解と討論などから成る。
そして宗教教育の主柱はタルムド――ミシュナ(ユダヤの古い教え、約束ごとの口伝部分)と
ゲマラの2部に分かれている。
ミシュナを後世のラビが注解したロ伝律法を集めたのがゲマラである。
生徒は10〜11歳でタルムドの勉強を始めるが、高校卒業までに完了することは
ない。
タルムドの授業のテーマは生徒が他で学ぶことや世界の時流とは無関係で、その日
教わるミシュナあるいはゲマラのページによって決まる。
14歳児クラスで、不遜な息子を戒律どおりにぶっているうちに殺してしまった父
親の道義的責任を論ずることもあれば、会堂の高位聖職者が罪人免罪権を行使でき
る状況を議論する上級クラスもあるといった具合である。


 タルムド読解は生徒と教師が読経調で読む。
生徒は話すだけでなく、教師やタルムドに反論することも要求される。
教師が「なにをはにかんでぃるんだ! 引っ込み思案はやめろ! 自分の立場を持
つんだ!」と怒って男生徒をぶってぃるのを見たことがある。
自由と激烈さがあるにもかかわらず、教師は警告を発する。
「自分の見解を立証する好例をあげなさい。だが、あまり極端な例はだめだよ。
最後にはミシュナに結論づけなければならないんだから」
これが正統派の宗教教育の基本哲学である。
生徒の理由づけの力を開発し、心を自由にしておくことを要求するが、モーゼ五書
が不滅で絶対確実なものであること、モーゼ五書を超えることはできないことも理
解させられる。


 だが正統派の全日制学校は共通の問題をかかえている。
第一に金である。経費はかさむ一方で、授業料を安くしようとする努力は年々絶望
的になっていく。
いい教師をみつけるのも金である。
タルムドを教えられる知識を備えた人物はそう多くはない。
イエシバの生徒は「無能者」――特にタルムドを生徒の頭につめこむだけの古くさ
ヘブライ語の教師――に大きな不満をもらしている。


 非宗教的教科か宗教的教科かといったことも常に論じられている。
学校側と父兄側とでこの問題に対する見解が異なる。
敬虔な父兄でも非宗教的な教育のほうを好ましいと考える。
子供が大学へ進んで医者や弁護士、教師になることを望むからである。
しかしイエシバ内部では学校が非宗教教育も行なわれなければならないことを多か
れ少なかれ憤慨している。
彼らはミシュナとゲマラ以外は教えず、立派なユダヤ少年の心が不浄な本や実世界
の知識で汚染されることのなかったシュテットル時代を懐しんでいるのである。
これがイエシバに通っている生徒の不満の原因となる。
「タルムドの老いぼれ教師は『哲学書を読むな、哲学書はためにならない。英語科
目(一般科目)の宿題はやるな』としか言わなかった」


 不思議なのは、多くのイエシパが優れた非宗教教育を施していることである。
エール大学を受験したプルックリン・イエシバの生徒はこのところ全員合格してい
る。
アンドーバーやエグゼターでもこれほどの記録は出していない。


明日に、つづく。




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