創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(677)1965年の発言[今年の広告ビジョン?](2)


『広告美術』の刊行元の(株)オリコミは広告代理店だから、競争相手のタレントを呼ぶわけにはいきません。
それで、無難な制作プロダクションのわれわれと広告主側の(村瀬さん)が呼ばれたのでしょう。
しかし、45年前といえば、なかなか代わり映えのする顔ぶれでした。




今年の広告費はどこへゆく


西尾 それじゃ、話題を変えて去年の日本の広告費は3,000億と
一口にいわれていますね。
今年はそれが増えるか減るかということですが、いろいろな人に聞
いてみると、ふえるというのがどうもほんとうのようですね。
3,000億は絶対に割らない。
どれくらいふえるのかということですが、いままでは毎年大体20%
見当でふえてきていますけれども、ことしは10%〜15%だろうと
いうのです。
ここでその話をすると新聞社や放送局はにたりと笑うのですけれども、
その面ではそうはどっこい増えませんよ。
増えた分はどこにいくか?
仮に10%としたら300億ですが、セールス・プロモーションにいくよ
うな気がします。
全部いくとは思いませんが、なぜセールス・プロモーションにいきそう
な気がするかというと、不況でもちろん企業も陶汰されるけれども、
チャンネルが陶汰されるような気がします。
たとえばある業界で2万軒の特約店を擁して安泰にきた企業が、小売店
の側が不況でまいっちゃって何%かつぶれるかも知れない。
チャンネルの再編成が大きくなる。
編成というか系列化という問題は4, 5年前から問題になって、ぼつぼつ各企業で進んでいる。
それをもう一ぺんフルイにかけた再編成が行なわれると思う。
そうするとチャンネル教育用のセールス・プロモーション活動がここで一
段と活発化するだろうし、これはじかに販売につながる活動だと思われ
やすい。
広告といいきれないセールス・プロモーションだけれども、そこで何か各
タレントの才能がテストされるだろうと思います。
そこで残った者が販売力を持ったタレントではないか。
コピーライターもフルイにかけられる。
企業の側でもチャンネルをもう一ペんフルイにかける。
不況ですからそうせざるを得ないわけです。
そこで本物が何年か先まで生き残るのではないかという気がしています。



 それは西尾流の考え方というか、あなたの見た一つの転換する姿です
ね。
しかしチャンネルのフルイのかけ方もそれぞれの企業だとか業種によって
形態が違うでしょう。
だから大まかに言うとそういうことはいえるかもしれないけれども、それぞれの
企業でだいぶそういう動きは始まってきている。
ただ、いまいわれたような最大公約数的な動きではなく、もっと個々に特有の動
き方をしている。
それにしてもセールス・プロモーションのほうに金が流れていく、直接販売の時点
に金が流れていくということは考えられますね。
現実にもうすでにそういう傾向が去年の下期あたりからぽつぽつ見えてきている。


西尾 だから向さんのところでおつくりになっている広告でも、新聞
ページものはもちろん変わっていないでしょうが、SP関係のものが以前
よりは増えているはずだと思うのです。


 全然ふえている企業と、そういうものを増やすことを必要としない
企業とがある。
しかも売るものが高価なものでマス・メディアに頼む見込み客の非常に少
ないものは、絶対にそういう方法に移行しています。


西尾 たとえば食品でいきますと、いままでは20万軒かの
菓子店全部を対象にして考えたものが、わずかに2,000軒ばかりのスー
パーマーケットを対象にやればよいというのでそういうものをつくり始めた。
これは完全にスーパーマーケットに対する新しいチャンネル教育の始まりです。
時計の例をあげると、時計の日本の年間全需要は5〜6百万個にもかかわらず、
去年は1,000万個つくってしまった。
400万個がいままでの時計店の利益を食って在庫しているから、これ以上は
突っ込めない。
そこに無理が生じてくる。
カメラ業界もそうです。
一つ一つ企業を当たっていくと、そうでない企業もあるでしょうが、大多数チャ
ンネルの再整理の時期がきたという感じを受けるのです。
そこで<広告は販売なり>ということをもっとダイレクトな形で一ぺん考えてみる
必要があるのではないかと思っています。


村瀬 広告・販売に要する経費というものは、ぼくらの企業の場合は、いつも
一緒くたに考えて、その中で販売に直接関係のあるものと、いわゆるマス・メデ
ィアに使うものとに再配分していくわけだけれども、マス・メディアに使われる
ものというのはやはり、今年は減っていくような気がします。
全体のワクから見たら前年期より10%上がるということは、これは逆に10%
下がっていることだし、広告の場合は少し下がっていってもふえやしないと思い
ますね。


西尾 伸び率は落ちるということてすね。


村瀬伸び率は落ちて増えないと思うのです。
ほんとうに企業が利潤を出すようなしかけがないところまできちゃっていると
思います。
広告費をつめるということになる。
原価もぎりぎり運賃もぎりぎりのところへ来ているということになると大幅に銭をもら
うしかけというものはいまの企業体どこを探してもない。
どこかの土地を売るしかない。
はなはだ残念なことだけれども、ぼくは伸びないのじないかと思う。

つづく