(602)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(12)
西尾さんがDDBと出会ったいきさつについて
何で、DDBをやったのかと思うでしょ。
ほくは、サンヨー電機の宣伝部にいたんです。
7年ぐらいいたのかな。
本社は大阪市の北の守口市。松下、いまのパナソニックの隣。
宣伝・広告・販促費は松下が10あって、こっちは1、
エイビスよりもっと分が悪い。
ハーツ対エイビスは、4対1。
GM対VWのほうに近かったかも。
ですから、もう何とかして松下を抜かないかんということで、
サンヨー夫人も考えたりなんかしたんですけれども。
宣伝部には大阪出のデザイナーばっかり集めていたんです。
宣伝部長が千葉大から学生を貰ってこいというんで、
菓子折さげて教授のところへ行って
2人貰ったんです。
1人がのちに独立した福田成美君。
ほかに製品デザイナー。
そしたら福田君が『アート・デイレクション』誌を
読んでいたんです。
そんなの、守口の田舎だから知りませんでしたから、
へーと思った。
「chuukyuuさん、このドイル・デーン・バーンバッチという
会社がいいんですよ」
なんて言っていた。
サンヨー電機を辞めて
デザインセンターに入ったら、
センターの図書室がニューヨーク・タイムズをとっていたの。
日曜版だったようにおもいますが。
オーバックスの広告があるじゃないですか。
東京ってこんなんだわ、
これは勉強せなあかんとおもいました。
『ニューヨーカー』とか『ライフ』とか定期購読を申し込み、
神田の古本屋へ行ってはそういう古雑誌を全部買ってきて
毎晩自分の好きな広告を切った。
アメリカVW社の社長ハーンと同じです。
段々だんだん膨らんできた広告の代理店を
『アート・デイレクション』誌のクレジットで、
誰が作ったのか調べてね。
と、所属がドイル・デーン・バーンバック---DDB
何だこの会社はというんで手紙を出し始めたんです。
DDBの人たちとの出会い、そして交流について
早く返事を貰おうと思ったら、秘書を篭絡するんですね。
手紙だけ出して全然アメリカへ行っていなかったですから。
秘書というのは大体切手マニアが多い。
毎日来ている封筒を処理しているから、
自然と切手に興味をもつ。
あるいは、ボーイ・フレンドか子どもに切手マニアがいる。
受け手が好むものを気くばりするのが
コピーライターでしょ。
で、日本のきれいな記念切手だけを貼って出すんです。
そうすると僕の手紙が1番最初に開封されるんです。
彼女、封筒の切手がほしいから。
便箋のレターヘッドには、社名(氏名)、住所、電話、ファクス
いまならURLも印刷されているから、
封筒はボスに見せる必要はない。
ですから、バーンバックさんのとこでもどこでも
すーっと行っちゃうわけですよ。
時間がなくなったので、ビートルのシリーズは飛ばします。
さっき、ワーゲンのノルトホフ社長にプレゼンしたラッセル氏は、その後、
インターナショナル部長になった。
コンセプトについて、そして現役コピーライターへひとこと。
ある年、DDBに遊びに行ったら、ラッセル氏が会いたいと
言っていると。
氏の部屋へ行きました。
「日本の広告事情を説明してくれ」
「それじゃ、日本に出る気ですね。何を持って出て
くるんですか」と聞くと、
「ポラロイド」。もうないですね。
「あなた、間違っているんじゃないの。
日本は世界に冠たるカメラの国ですよ。
そんなところへ、ポラロイドなんか
もってきて売れるんですか」
こう言ったんです。
「DDBといえども失敗するでしょう」
と、生意気にね。
「chuukyuu、ほくはカメラとは言っていないよ」
と言うんですよ。
「じゃ、カメラとポラロイドはどう違うのよ」と聞いたら、
「正月に子供の晴れ着姿撮る。
桃の節句に撮る。海水浴で撮った。
秋の運動会に撮る。
年末に撮るな。
はい、やっと1本、フイルムが終わった。
これが日本のカメラ」だと。
デジカメがでる35年前の話です。
ポラロイドは1分間写真の楽しみだ。
コンセプトが違うんだと、こう来たわけ。
それでコンセプトというのが分かったわけ。
プロダクト・コンセプトがあって、広告コンセプトがある。
だから、もっとそれを簡単に学生に教えるのは、
A点からB点に移動するのに、
ゆったりと行きたい人はアメ車に乗れ、
A点からB点へ最も経済的に行くんだったら
ビートルに乗れと。
これがアメ車のコンセプトであり
ビートルのコンセプトなわけですね。
2年ごとに車変えたかったらアメ車を買いなさい。
10年乗りたかったらカブト虫にしなさい、
15年乗りたかったらベンツにしなさい。
15年乗り、かつ、命がほしかったらボルボにしなさい。
これがコンセプトなわけです。
つまりコンセプトというのは考え方なんです。
だから、こうでなきゃならんというのはないわけ。
ということは、さっきのシンク・ビッグがあるから
シンク・スモールというふうに、またこれがコンセプトになる。
向こうはシンク・ビッグのコンセプトなわけですよ。
どっちがいいというわけのものじゃない、好き好きなわけですね。
そうすると、広告というのはこの指とまれだと。
ガキ大将が3人ほどいて、この指とまれと言ったときに、
彼のほうがうまく遊ばしてくれるというときはそっちへ行く。
それが広告じゃないかと思っているんです。
それと同時に人間らしく。特にビートルに乗る人というの
はA点からB点へ行くのに最も経済的で
モデル・チェンジしないほうがいいと。
モデル・チェンジして毎年変えて、そして、
おれは金持ちだよと見せびらかす人はアメ車に乗りなさいと。
そういう人もいるわけです。いていいんです。
ただし、間違えちゃいけないのは、
ビートルというのはアメリカの市場でたった
3パーセントのシェアしかなかった。
だから、6パーセントの賛成者をつくればよかったんです。
おわり。