創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(601)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(11)


ちょっと、横道にそれます。


といっても、もともとが「道草」というコーナーだからではありません。
TCCでのスピーチは、このあたりで時間切れになりそうだったのです。


さっき(このブログでは昨日)アップした「レモン 不良品」というへッドラインの広告ですが、冒頭の(ブログでは初日の)"Think small"とこの"Lemon"の2つがビートルのキャンペーンを代表する広告なんです。




最初はこのヘッドラインじゃなかったんです。
1行目にある
「このフォルクスワーゲンは船積みされませんでした」
だったんです。
それをヘルムート・クローンが自分の個室のボードにピン止めして
検討していたんですね。


そこへ女性コピーライターのリタ・セルダンが入ってきて、ちらッと見て、
「あら、レモンね」と言ったんです。
不良品という意味です。レモンってすっぱいでしょう。
すっぱいのは腐っているという感じでしょう。
不良品でしょう。


「あら、レモンね」
つまり女性の人はスーパーで物を買うときに、
すっぱいかどうかとか、いろんなことを試している。


「あら、レモンね」、傷物と、
どこにも傷なんかないんです。


傷なんか、どう見ても見えないんです。
ボディ・コピーで、クロームメッキに
ちょっと傷がついているので、船積みしませんでしたと。



皆さんがコピーライターだから言いますが、
アメリカのコピーというのは伝統的にWhyで始まるか、
Whoで始まるか、Whatで始まるかなんです。


ワーゲンにもそういうのもありますが、、
殆ど使っていない。


"Lemon"と "Think small"が
使っていない代表例です。


5W1Hの伝統的なヘッドラインを止めたんですね。


ついでに言っておきますけども、
DDBが創業してやったことは、
コピーライターとアートディレクターを対(つい)にして、
そこでアイデアの交換をやらせ、
つくっていくというチーム責任制です。
コピー=アート セッションと名づけています。


それまではコピーライターとアートディレクターは
まったく別の部屋にいたんですから。


コピーライターがコピーを書きまして、
タイプライターで打って伝送管でピュッと送る。
あるいは折って紙飛行機を作ってヒュッと投げると
アートディレクターの机にひょこっと乗って、
アートディレクターが開いて---


アートディレクターと言わないんです。
広告代理店の中では、絵付師。


アートディレクターというのは、
雑誌のエディトリアル・デザインする人のことだったんです。


それを電通が新井静一郎さんを戦後早々に、
アメリカへ行かせたんです。
TCCが殿堂に入れた新井さんです。


帰国して、
アメリカにはアートディレクター制というのがあるよ」
と報告なさった。


新井さんは、森永製菓のコピーライター出身なんです。
だけども帰朝報告でアートディレクター制と言った。
飛びついたのがミツワ石鹸の今泉武治さん。


アートディレクタークラブを作って
亀倉さんなんかを引き込んで、
やったわけです。


アートディレクターのほうがアメリカでは
偉いみたいなことを言いはじめた。


広告制作の柱は、コピーにある---
それで、コピー十日会を作ろうじゃないかと言って
森永製菓のコピーライターの村瀬尚さんが、
頑張って、それからコピー十日会がTCCになったわけです。


だからぼくは、殿堂入りの第1号は村瀬尚さんで
あるべきだとおもっています。
しかるに、TCCは、生前の村瀬尚さんに報いていない。
村瀬さんは、殿堂入りしないまま、去年、
亡くなりました。
TCCは、なんという忘恩なことをしてしまったんでしょう。


もう一つ言いたいのは、この3年間、ブログで
「創造と環境」というのを1日も休まずやっているんです。
見てくださった方もいらっしゃると思いますが、
何でそんなことをしているかと言うと。
ぼくが、村瀬さん、土屋君、梶君につづいて死んじゃったら、
いままで溜めたものが全部どっかへ行っちゃう。


これは先ほど言ったウェブの進化論じゃないけども、
どっかへ公開しておかないかんと。
誰でも読めるようにしておかないかん。
英語が読める人ばっかりじゃないから、
辞書をひけば分かるでしょうし、、
いまや翻訳機もありますが、
コピーライターらしい訳を付けて
残しておかないかんというのでやっているんです。


朝2時に起きて1日に6時間ばかり費やして
毎日やっているんですけれども。
本当はそんなことしておられない、
やらなきゃならないことが他にあるんですが。


先ほど言いましたように、原稿料というのが限りなく安くなる。
ロングテールの時代ですから。
だから、タダのことをやっておかないといかんと、
自分に言い聞かせています。


で、やっているんですが、見てくれない。
いまのところ、毎日見てくれているのが200人ぐらいで。
本来ならば皆さんじゃない、皆さんはもうベテランだから
見てくれなくてもいいんで、
もっと若い、若いのに
「お前、あれ見とけよ」と言ってくださるとありがたい。
けども、見られちゃうと自分が抜かれますからね。


「クリエーティブ・ディレクターの体面にかかわるから
恐らくおっしゃらないんだと思うんですが(冗談です)。


けれども、ぼくはそれは狭い考え方だと思っています。
自分も見て、それで教えてやればいいんです。
今日の話というのは、書いていませんから、全体にね、
そういう話をしながら、あれはこうだよと言ってやれば
彼らも納得するんじゃないかと、思っているんですが。


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明日につづく