創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(594)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(4)

DDBにとって、フォルクスワーゲンの次に
プレステイジ・クライアントとなったエイビスの事例 その1。


ぼくは、ビートルよりこっちのほうが上だと思っているんです。
エイビスというレンタカーの会社の広告です。


いまから40年前ですから、当時は日本にレンタカーってなかったんで、
いちいち「貸し自動車会社」と訳したんですけども、
いまはレンタカーですね。


1位にハーツという会社がありました。
2位のエイビスは、売上がその4分の1だった。
それで、2位と言ったけど、2位じゃない。
2位と3位と4位は、団子になっていたわけです。


そんな時、あるコングロマリッドがエイビスを買って
新しく着任した社長が、
DDBに広告の扱いを依頼した。


その新任の社長タウンゼント氏に、DDBのスタッフが
1位の会社とどこが違うのかと聞くと、、
「いや、何も違いません。車も同じ。料金も同じ。
ただ規模がちっちゃいだけです」って。


で、コピーライターとアートディレクター---、
ヘルムート・クローンというアートディレクターと、
ポーラ・グリーンという女性コピーライターが、
社へ帰ってバーンバックさんに、何を聞いても
変わらんと言っていますと報告すると、
「他に何か言わなかったか」と。
「だから、一生懸命やります」と言っていました。
「それをメイン・テーマにするといい」


エイビスは、業界で2位のレンタカーです。
それなのに、お使いいただきたい、その理由(わけ)は?


私たちは一生懸命にやります。
(だれでも、最高でないときはそうすべきでしょう)。
私たちは、汚れたままの灰皿をがまんできないのです。
満タンにしてない燃料タンクも、いかれたワイパーも、洗車してない車も、山欠けタイヤも、調整できないシート、ヒートしないヒーター、霜がとれないデフロスターそんな車はお渡しできません。
はっきりいって、私たちが一生懸命にやっているのは、すばらしくなるためです。フォードのスーパー・トルクのように
生きのいい新車に微笑を乗せてあなたにお出かけいただくために、そう、ダラスのおいしいバストラミ・サンドイッチをめしあがるか計画ができるように。
なぜって?
私たちは、あなたにそれが当然のこととして受けとっていただくことが、まだできないからです。
この次、私たちの車をお使いください。
すいていることでもありますし、ね。


注・ダラスという地名は全米中、いたるとこるにある


C/W ポーラ・グリーン Paula Green
A/D ヘルムート・クローン Helmut Krone


1963年 『New Yorker』ほか


われわれはレンタカー業界で2位だから、
一生懸命にやるしかないんです、とぶった。


それまで大赤字だったんですけども、
赤字がボーンと消えちゃって本当に2位になっちゃったんです。


大体レンタカーのカウンターにいる女の子とかは、
あんまり愛社精神ないんですよ。
整備する人たちだって、
ハーツへいっても食えるよってなことを
言っているわけです。
それをね、うちの従業員は2位だから
こんなに頑張ってると、いろいろに言うわけ。


灰皿の中に吸殻が残ってないないとか、



もし、エスビスの車の中に
たばこの吸殻がありましたら、
苦情をお寄せください。
それは私たち自身のためになることですから。


私たちは前進するために、あなたのご協力を必要としているのです。エイビスは、この業界ではまだ2位にすぎません。ですから、私たちは一生懸命にやらなくてはならないのです。
たとえばそれが、グラブ・コンパートメントの中の地図がしるしで汚れていたり、お客さまを長く待たせすぎると思われるようなことであっても、私どもにお申しつけください。
肩をすくめたり、「仕方がないや」で済まさないでください。私たちを追いたててください。
当社の関係者は、ちゃんとわかっています。全員に通達してあるんです。全員が、フォードのスーパー・トルクのような生きのいい新車より少しでも劣るようなものをお渡しすることはできないことを知っています。
そして、すべての車は、中も外も完全に整備されていなければならないということも。
そうでなかったら、騒ぎたててください。
ニューヨークのメドウ氏がそうしてくださいました。この方は、ガムの包み紙を見つけて持ってきてくださったのです。


それを広告で言ったために働いている者たちは
頑張らなきゃしょうがない。
従業員というよりパートタイマーたちも
頑張らざるを得ない。


一番ショックを受けたのはハーツの従業員たちなんですって。
この一連の広告見たハーツで働いている者たちがね、
もう本当にしょげちゃったっていわれています。


まあ、気が利いてりゃあのくらいの広告もつくれないこともない。
だけど、その裏に点検事項シートが100項目ぐらいあった。
それを全部チェックさせてやっているから、
パートの整備係でも間違えない。


確かにタイヤも、車も洗ってあるし、
もちろんフロアー・マットも掃除してあるし、
ミラーも磨いてある。
そんなふうなことが全部できているから、
それをまた喜んでパートの係員がやっているから、
広告に書いてある通りだというふうに、会社が変わった。


それからもうひとつは、世の中には1位の会社よりも
2位以下の会社のほうが多いんです。
2位以下の会社の人たちが支持したわけです。
だから、どんどんハーツが食われちゃった。
目に見えて食われた。


いろんな意味でのうまさというのは、
エイビスのほうが持っていると思うんですね。
ビートル・シリーズも作った
ヘルムート・クローン氏が、
6年後の『DDB NEWS』1968年9月号の表紙で、
大成功キャンベーン---エイビスとの視覚面での差違を
たった1枚の写真と、ひと言のフレイズで表現してみせました。



「ビートルのビジュアルは
ビッグ・ピクチャーのスモール・コピー」でしょう。
エイビスは、
「スモール・ピクチャー ビッグ・コピー」


で、カメラから9m(30フィート)離れて女性に
VWビートルの広告(Think small)を持たせ、
12m(40フィート)引き下がった女性にはエイビスのバネル
(Avis is No.2)を持たせ
「VWの広告は30フィート離れてもそれとわかるが、
エスビスの広告は40フィート離れてでもエイビスと認めうる」。


だから、視覚的には、エイビスのほうが上だと。
この写真、面白いと思うんですよ。
さすがにクローン氏だなと思うもの。
理解しやすいように、苦労している。


これもDDB自身の企業広告。
「あなたがレンタカー会社を経営したらこんな広告作りますか」
というのを、ライフに載っけたんですね。



あなたがレンタカー事業をやっていたとして、
こんな広告を出したいとお思いになりますか?


自分のことを業界で2位だなんていう広告主はいません。
しかし、大胆に、そして劇的に語られた真実には、迫真力があります。
上の広告のように。
私たちは、このフランクな(だからこそ関心を引くことができる)やり方を基本にしています。
負け犬の訴えは巨大です。消費者の心に、すごく親密な、そしてすばやい反応をひき起こします。
エイビスはそうしました。
エイビス・キャンペーンの成功と、DDBの仕事の多くの成功は、広告の真実を実にみごとに強調しています。
成功する広告には、よいアイデア以上のものが必要だということ。
それは、よいクライアントです。


       ドイル・デ−ン・バーンバック 広告社 


皆さんはどういうクライアントをお持ちか知りませんけれども、
プレステージ・クライアントいうのがあるんです、会社にはね。
あるいは、コピーライター個人にもあると思うんです。
おれのプレステージ・クライアントだといえるのが。
DDBの場合は会社を作ったのが1949年で、
10年後の1959年に、
そろそろアメリカに本格的にビートルを売ろうという
フォルクスワーゲンが来たんです。


ドイツからハーンというオーストリー人の30幾つの経営者が
アメリカVWの社長としてやって来た。
彼は1年分の雑誌と新聞を秘書にもってこさせ、
自分が好きな広告を選んで、代理店を調べさせた。
結果、その7割がDDBだった。
それでDDBに頼みに行ったわけです。


DDBはそのフォルクスワーゲンの広告でひろく、
一挙に有名になって、
フォルクスワーゲンがDDBのプレステージ・クライアント
になったわけですが、
その次がエイビスだった。


プレステージ・クライアントを幾つ持っているかによって、
そのプロダクションもコピーライターもランクが変わりますね。
いい広告をバ、バ、バと連発。宣伝費がなけりゃ駄目ですよ、
やっていれば放っておいても来る。
アメリカではね。
日本では、なかなか来ません。
経営者が広告を見ていないもの。

いくら梶原君が天才みたいにうまいライターでも
社長はあそこへもっていけと言わないものね。


DDBの場合は、クリエイターはなるべく
クライアントに会わさないんです。
ほとんどアカウントマンが取り仕切るわけ。
もめてきたらバーンバックさんが出て行くという感じだったから、
ライターがクライアントを納得させるということについては、
ぼくはあまり賛成しません。
でも、これぐらい個性的であればできると思うんですね。


飛びます。こういうレイアウトも作ったんです。
同じコピー、ちょっとコピー量を減らしていますけども。



たばこの吸殻も残っていませんと。
他のことも全部やっていますと、こう言っている。
ところがある人が吸殻があったといって送ってくれましたと。


この広告の作者が、最近、エイビスの車を借りて
そこで見たものは---



私は、生活のためにエイビスの広告を書いています。しかし、私は金もうけの嘘つきになったことはありません。
あなたがエイビスに最低限期待できるのは、あらゆる点で申し分のないきれいなブリマスだと私が保証しても、エイビスはけっして私を裏切らないと信じていられます。
吸ガラでいっぱいの灰皿があるなんて、思いもよりませんでした。
あの会社は、上は社長から、全員が一生懸命やっていることは、私もこの目で確かめて知っています。
「私たちは一生懸命やります」というのは向こうのアイデアで、私がつくったものではありません。
ですから、困ったのは向こうで、私ではありません。
もし、私に、今後もエイビスの広告を書かせるのなら、そのとおりにやってもらわなければなりません。そうでなければ、別の人をやとってもらいましょう。
まさか、この広告は、使わないだろうな。


(写真キャプション:「たばこの吸ガラが灰皿にいっぱい」)


C/W:ポーラ・グリーン Paula Green
A/D:ヘルムート・クローン Helmut Krone


わたしは生活のためにこのコピー書いているけども、
こんな嘘つきの会社のコピー書きたくないと、言っている。


実はこれ、やらせなんです。
けれども、読んだ人は内幕は知らないから、
ああ、そうかと思っちゃうわけですね。
だって、差出人がメドウ---っていえば、
DDBのコピー管理部長じゃないですか。


この一連の広告、フォーマットは
「ビッグ・コピーのスモール・ピクチャー」ですね。
これはDDBの中でも賛否両論だったんです。
やりすぎじゃないかと。


ハーツを刺激しすぎるんじゃないかということがひとつね。


それから、こういう広告でいいのかねと。
ビッグ・ピクチャーのスモール・コピーというスタイルを
VWビートルで見すぎちゃっていますから。


エイビスに新しく来たタウンゼント社長も
ハーツを刺激してやり返されたら困るというんで
二の足をふんでた。
けども、何回か会議しているうちに、だんだん何となくみんなが
こっちのほうがいいように思ってきたらしい、
エイビス側もDDB側も。


DDBの側というのはマーケティングの人とか、
アカウントマンとか、リサーチ、法務部の人たちです。
その人たちも一応見て社内チェックしているわけです。
で、行こうというんで実行したら、あっという間に赤字が
黒字になったという大変な成功例ですね。


じゃ、ちょっと、どんどんどんどん。



1回だけ使ったレイアウトです。



使っていません。作っただけです。



実際に別レイアウトの案を作っているんです。
掲載されていないものを、どうして持っているかって?


DDBで、ポーラ・グリーンにもらったのかなあ。
記憶にないです。
あ、そうか、クローンの作品集にあったんだ。


それで、これはハーツがものすごい宣伝費を
かけてTV-CMをやっているときに、うちは2位だから
そんな金がありませんと、



エイビスはテレビ・コマーシャル代が
払えません。
喜ばしいことじゃ、ありませんか?


テレビ・コマーシャル1本つくる費用をご存じでしょうか?
約1万5000ドル。
もちろん、その中には、ハイウェイとか、西部の空とか、車、カワイ子ちゃん、
そして音楽好きの心をときめかすような調子のいいコマーシャル・ソング製作費も含まれています。
それを電波に乗せるためには、さらに、放送料も払わないといけません。
エイビスには、そういうお金はありません。
私たちは、2位のレンタカーにすぎないのです。
私たちが持っているものといえば、ピカピカのスーパー・トルクのフォードのような生きのいい車をたくさん。丁重にふるまうことをいとわない娘たちが、お待ちしている受付をたくさん---なのです。
私たちには、テレビ・コマーシャル以外はなんでもあります。
業績も上向いています。
近いうちに、あなたは喜んでばかりはいられなくなるかも。


そのうち、やるかもしれませんと。


小さな魚はしょっちゅう動いていないと
大きい魚に食われちゃいますと言うんですね。
大きい魚とはハーツのことを言っているんです。


あなただって2位だったら頑張るでしょう。
さもないと・・・・


小さな魚は、四六時中、動きつづけていないわけにはいきません。大きい魚が彼らをつつきまわすのを止めないからです。
エイビスは、小さい魚の悩みを熟知しています。
私たちは。レンタカーでは2位に過ぎないのです。一生懸命にやらなかったら、呑みこまれてしまうに決まっています。
私たちには、休息はありません。
私たちは、いつでも灰皿を空にしておきます。車を貸し出す前にガソリンが満タンかどうかを確かめます。バッテリーはちゃんと充電されているかどうかも点検します。ウインドシールドのワイパーもチェックします。
そして、私たちがお貸しする車は、軽快なスーパー・トレクのフォードの新車以下ってことはありません。
そして、私たちは大きな魚ではないのですから、あなたが私たちのところへ
いらっしゃったとき、イワシみたいな気持になるなんてこともありません。
私たちのところは、お客さまが詰めかけているってほどではないのですから。


絵のキャプション:「エイビスはのんびりするわけにはいきません」

>>明日につづく