創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(300)フランス政府観光局の広告(9)


[ニューヨーカー・アーカイブ]を参照



きのうにつづき、『広告美術---観光広告の特集号』(第49号 1965.08.31 オリコミ社)に寄稿していた、「ツーリズム・マーケットへの理解」の後半部を、ご参考までに、作品のあとに再録しておきます。


これも、本邦初公開・初訳です。


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しめて1,500ドルはするフランス製のお値打ち品たち---フランスで買えば?



フランスへいらっしゃる楽しみの一つにお買い物がありますね。米国でより相当安くフランス製品をお求めになれるはずです。いえ、単に値段が安いというだけでなく、トラベラーズ・チェックでお支払いになると、割引きされるのです。たとえば---

(A)特別仕立ての革手袋---バリのエルメスで、バーゲン前だと10ドルです。ま、問題は、あなたが美しいクリスタルのグラスで極上のワインを賞味する誘惑を自制するのがむずかしいということです。秘訣をご伝授しましょう。フランス特産のお値打ち品がつくられている伝統の町々をお訪ねになって買い物をなさることです。休暇旅行のために蓄えましょう。


(B)ありきたりでないお土産なら、郷土色をゆたかに残しているブリターニュへいらっしゃって、素朴な花嫁衣裳の人形はいかが? 1体3.5ドル。彼女を見ていると、女性の人生物語が100ほどもつくれそう。


(C)香水なら、バラの香りを調香している地中海ぞいのグラースへ行きましょう。世界中の香りのエッセンスはここで抽出・合成されています。ジーン・デッセ(戦前の衣裳デザイナー)の栄光に想いをいたしながら「彼の香水」〔セリュイ(それ)〕の大瓶を免税前の35ドルで求めるとか。
【chuukyuu注】its nose in roses の nose は、調香師の別称「ネ(鼻)」にかけているのであろう。


(D)コニャック もっと生の香りなら、ブランデーのふるさとの中心地コニャックの町です。10ドルで80年もの〔オーション〕が手に入ります。


(E)磁器 ならリモージュへいらっしゃるんですな。有史以前のものといわれているラスコーの洞窟の近くです。ここの磁器工場での製品の値段ときたら---驚くばかりです。写真のアンピール様式の蓋つきチュリーンがたったの135ドルなんです。


(F)アンティー 旅行者が行かない古い町を訪ねてみましょう。100ドル以下で16世紀の年代ものが見つけられるかも。
【chuukyuu注】antiques といえるのは100年以上前につくられたものにかぎられる。それと100ドルをかけているのかも。


(G)クリスタル 王のためにクリスタルをつくっていたバカラ村へ行きましょう。マハラジャは「愛の殿堂」を注文しましたが、93ドルのシャンデリアか1ドルの腕輪にとどめておくほうが無難でしょう。どちらも免税前の値段。


(H)レース 中南部オート・ロアール県の県都ル・ピュイへ行きましょう。繊細で優美なレースの特注ハンカチが3ドルです。


(I)ファッション  は、パリにつきます。いや、フランスといわず、世界でも---といっていいでしょう。いろんなブティックが妍(けん)を競っています。50ドルで帽子を買ったが最後、それにあわせて、つぎつぎと買いまくりたくなるはず。なんたって、パリはシックな装いの本場ですからね。





"The NEWYORKER" 1961.04.01




You'd pay about $1,500 for these French treasures, Guess how much they cost in France?


One of the of a joy to France is that you can bring back superb French goods at a fraction of what they cost in the United States. For you not only pay less in France, you also almost always get a discount for traveler's checks. For example,


(A) EXCEPTIONAL LEATHER GLOVES in Paris
cost only $10, before discount, at Hermes. Trouble is, it's hard to control yourself in a country
where you can even buy crystal so fine you can literally taste the wine through' the glass! But here's a tip: shop in the lovely old towns where France's treasures are made. You'll save money and have the vacation of your life!


(B) FOR UNUSUAL GIFTS go to atmospheric Brittany where ladies wear wedding-cake headdresses. Here, you'll find Becassine, France's beloved doll. She's only $3.50 and a hundred tales come with her, free.


(C) FOR PERFUME go to Grasse, a Medterranean town up to its nose in roses. The world's great essences are brewed, here. And even a big bottle of Jean Desses' honored Celui costs just $35 before discount-in France.


(D) FOR COGNAC, and another heady scent, go to Cognac town in the heart of the beautiful brandy country. You can steal an 80-year-old Fauchon for $10!


(E) FOR PORCELAIN go to Limoges, near the   famous prehistoric caves of Lascaux. Limoges' fairyland porcelain factories offer startling buys. A museum- piece tureen, for instance, costs just $138 pre-discount.

(F) FOR ANTIQUES go to the old, untrampled towns. A market could bring a fine 16th century model for under $100.


(G) FOR CRYSTAL go to Baccarat, a village that makes the crystal of kings. A maharajah ordered a love temple but you may choose a candelabra for $93 or a ringin goblet for $1 ... before discount.


(H) FOR LACE drive up a volcanic mountain to Le Puy where ladies perch on steps to weave cobweb-delicate lace. One priceless hankie, to order: $3.


(I) FOR FASHION there's no place in France, or the world, like Paris. In a fabulous boutique, like Cardin's, you may trade $50 for a bonnet and get much more: a touch of that incomparable Paris chic.


FOR A THOUSAND REALISTIC TIPS that will make
your trip to France easier, and more profitable, write for: A Sympathetic Shopping Guide for The
American in France. It's free.


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■クリエイティビティ



先にご紹介したプリンターズ・インク誌の記事に戻りましょう。


"今日、米国における最も有望な産業の一つは、旅行産業である。マーケティング・メンやアド・メンのためにすばらしい可能性を提供しているにもかかわらず、皮肉なことに、旅行マーケットは最も開発のおくれている産業の一つである。"
これは日本政府観光局(?)に向けられた警告ではありません。お読みのとおり、アメリカのアド・メンに向けて書かれた文章です。
"ほとんど無限ともいえる市場拡張の可能性を前にしながら、マーケティング・メンとアド・メンは、これまで旅を売るということにおける驚くべきクリエイティビティの欠如を示してきた。
彼らは、毎年毎年、無感動な同じパターンに従ってきた。彼らは同じ旅行パッケージを、これまた同じ顧客に売っている"
たしかに、現在の各国の観光機構の印刷広告をみるかぎりでは、すぐれたキャンペーンは数少ないといえます。
すぐれたものとしては、フランス政府観光局(DDB代理店)、ジャマイカ観光委員会(DDB代理店)、英国旅行協会(オグルビー・ベンソン&メイサー代理店)、 プエルト・リコ共和国観光局(オグルビー代理店)、ヨルダン旅行相談(Jordan Travel Information)、オーストラリア国観光協会(カニンガム&ウオルシュ代理店--サン・フランシスコ支店)、ギリシア政府観光機関などぐらいではないでしょうか。


オグルビー・ベンソン&メイサー
代理店のオグルビー(David Ogilvy)会長は、その著『ある広告人の告白』(西尾忠久・松岡茂雄共訳)のなかで、"どうすればよい観光広告ができるか"について、

  1. 旅行の目的地の広告は、かならずその国のイメージに影響を与えます。ですから、好ましい影響を与えるポチャボチャとした広告を出せば、人びとにポチャボチャとした国だと思わせてしまいます。
  2. 観光客というものは、自分の近辺でも見ることのできるものを見るために、何千マイルも旅行したりはしません。たとえば、スイスに住んでいる人びとには、コロラドの山々を見るために5,000マイルも旅行するように説得することはできません。あなたの国だけにあるものを広告しなさい。
  3. あなたの広告は、読者の心に一生忘れられないようなイメージを植えつけるべきです。広告を見てから旅行切符を買うまでの期間は非常に長くなりそうだからです。
  4. 長距離旅行をする余裕のある人たちが読んでいる媒体に広告しなさい。この人たちは教育があります。彼らの知性を侮辱しないこと。従来の旅行広告の常套文句でなく、大人の言葉で書きなさい。
  5. 外国旅行の最大の障害は、費用です。あなたの広告は、文化的なそして地位を表わすようなにおいを売りこむことによって、その旅行の費用を読者が自分で理由づけするのを助けねばなりません。
  6. 旅行の仕方には流行があります。あなたの広告は、ご自分の国をだれもが行なっている国にすべきです。観光ではやしたてることが魔法のように効果があります。
  7. 人びとは、遠くの場所を夢みています。あなたの広告は、その夢を行動に変える潜在的なエネルギーに転換させるべきなのです。それには"旅行するにはどうすればよいか"について読者に明確な情報を与えてやるのがいちばんです。よだれのでるような写真と明確な情報が、英国、アメリカ、プェルト・リコの観光に最上の結果をもたらしたのです。


明日につづく。

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