創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(574)TVコマーシャルで大切なもの(1)

資料探しがたいへん。続けろのコメントが多ければ、何とか努力して、 明日に、つづく。


このスピーチは、1968年9月30日にDDBを訪問した大阪読広主催による「マジソン・アベニュー・ゼミ」で行なわれたものを、同氏のご好意により、編集委員の一人として『'69 世界のTV・CM』(誠文堂新光社 ブレーン別冊 1969.3.25)に、いただいたフィルムとともに、収録したものです。
同書も、フィルムも手元にありません。
本のほうは、10年前に多摩美大の講師を定年したとき、2度と広告を語ることはなかろうと判断し、同大学図書館へ、ほかの書物とともに寄贈してしまいました(まさか、こんなブログを立ち上げるなどとは、予想もしていなかったのです)。
それで、今回、atsushi さんから同書をお借りして、この稿をつくっています。
トレバーさんからいただいたフィルムは、CMの研究家の金子秀之氏のコレクションに加えていただくように、進呈してしまいました。
可能ならば、金子氏からフィルムを借りて、スチール写真をYouTubeと差しかえるつもりでいます。


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TVコマーシャルで大切なもの(1)


DDBテレビ制作部長(当時) ドン・トレヴァー氏


皆さんもよくご存じのとおり、コマーシャルにおけるもっとも重要な要素は、コンセプトとアイデアです。
コンセプトがすぐれたものであれば、コマーシャルもすぐれたものにすることができます。
ところが、コンセプトが貧弱であったら、どんなにうまくコマーシャルをつくってみても、箸にも棒にもひっかからないコマーシャルの域を脱することはできません。
理想からいえば、すぐれたコマーシャルは、偉大なコンセプトと、見る人に反応を起こさせ、腰をあげさせ、そのクライアントの商品を使ってみようという気にまでさせるほど、楽しい仕上がりとのコンビから生まれてくるものです。


本来は、それこそがすぐれたコマーシャルのなすべきことなのです。
売ることなのです。
今日の米国でもっとも浪費されているのが、効果のない広告へ使われているお金です。
「ライフ」誌にひどく古くさい広告を1点掲載すれば5万ドル浪費した計算になります。
ところがテレビだと(1時間番組で)制作費は別にして、42万5千ドルの浪費になってきます。


では、中西部に住む夫と妻、そして子ども2人という典型的な米国聴視者の家庭をのぞいてみましょう。
彼らは近代の複雑な社会に住んでいます。
彼らは朝刊をひろげてニュースを読みます。たいていは、ベトナムの状況が不安だとか、税金が高くなったとかいったものです。
子どもの1人が鼻をぐずぐずいわせながら起きあがってきたばかり、それに義母さんが夕食に来る予定になっており、そして彼はボスとの販売会議に遅刻しそう---これが、私たちが広告メッセージを伝達させたいと願っている家庭なのです。
彼こそ私たちの商品にふさわしい収入をもった男なのです。
でも、 どうやったら彼に近づくことができるでしょうか?
リサーチによると、こういった典型的な家庭では、テレビは1日に5時間半見られ、ラジオが2時間半、新聞を読むのが45分、そして雑誌講読に費やされる時間が30分となっています。
毎日この中西部のジョーンズ家に投げこまれる広告数は、1,200近くもあります。朝刊は一面にまで広告を載せています。
オフィスまでのバスの中でも、彼は広告やメッセージの総攻撃を受けます。
車中のラジオが彼に向かって叫びちらし、それぞれが、


「私の言うことを聞いてください。
私を見てください。
私が一番です。
私を買ってください」


といいたてています。
そこで、私が言いたいのはこれです。


「あなたの個性的なメッセージでもって、どうやってこれらを切り分けて押し進んだらいいか?」


私がこの答を知っていたらいいのですがね。
この世界にはしくじりのない公式も、どのコンセプが正しいかを教えてくれるようなリサーチもありはしないのです。

リサーチで、クリエイティブなコンセプトがどんなものか探知することはできますし、どんなインフォメイションが必要とされているか、さまざま
なクリエイティブ・コンセプトを決定づけるインフォメーションはなにかを指摘することもできます。
しかし、どのクリエイティブ・コンセプトが正しいかは、リーサチではわかりません。


クリエイティブ・コンセプ卜は完成されて、はじめて意味をもち生命をもつものです。


広告は正確な科学ではありません。


私たちがしなければならないのは、視聴者を同輩として扱うことです。
彼を軽視したり、高度なインテリジェンスをふりかざして彼にとり入ろうとしたりしてはいけません。
私たちのコマーシャルは、真実性に富み、信じられるもので、そしてシンブルでなければなりません。
まず、この最後のシンプルという要素をとりあげてみましょう。
シンブルとは何をさすのでしょうか?
ウェブスターの辞書をひもといてシンブルの意味をみてみました。
とてもおもしろい定義でした。
こうてす。


「悪知恵や偽りなどのないこと、率直、表現が直接的なこと、明瞭、装飾をひかえること。質素」


これで、ウェブスターの定義を、テレビのコマーシャルにしぼって考えてみましょう。
そう言いきれるコマーシャルで実証してみましょう。 

VWの『ご覧ください』



(白バックの中を、かぶと虫が前進したり後退したりするだけのフイルム)

アナ「VWは前に進むこともできるし、後退することもできます。停止することもできれば、発進することもできます。
坂を登ることもできるし、曲がることもできます。
坂を下りることもできます。
速くも走れるし、中速でも走れ、徐行もできます。
すばらしいでしょう?」


このコマーシャルのシンブルさには同意なさいますね。


【chuukyuu補】画面を想像する補助として、このアイデアの基となった印刷広告を参考までに。
コマーシャルの現物が手に入れば、入れ替えます。

フォルクスワーゲンは、前にも   後ろにも走れます

速くも              遅くもはしれます

上り坂でも            下の坂でもこなします

そして、方向転換もできます    すばらしいでしょう? 


次に、とても入りくんだストーリーなのに、グラフィック的にシンプルに仕上げた例を、お見せしましょう。

VWステーション・ワゴンの『箱』

(ボール紙で箱をつくり、それに座席や屋根をとりつけ、窓をあけ、VWのマークのついたホイール・キャップをはめると、VWステ
ーション・ワゴンになる)



アナ「いろんなものを箱に入れて運ぼうと思います。
人も運びたいとなると、座席が必要ですよね。
しかも、前の人が後部までゆけるように配置しなければなりません。
窓もドアも必要です。
新鮮な空気をとり入れるための天窓もね。
名前もわかるようにしなければなりません。
こうしたアイデアを全部生かしたらVWステーション・ワゴンになりました」


【chuukyuu補】画面を想像する補助として、このアイデアの基となった印刷広告を参考までに。
コマーシャルの現物が手に入れば、入れ替えます。


atsushi さんが↓が見つけてくださったが、各自でアクセスしていただくよりないですね。
http://fliiby.com/file/496055/i68eoup2lj.html


運ぶものがたくさんあるんですか? じゃあ、箱型ですね。 

さあ、8人坐れるようにシートを取り付け、   後方へも行けるように通路をつけ---

陽光を採り入れるように天井を切り、      窓? 合計23ヶ、ドアは5ヶ。

色を塗ると出来あがり。            以上がVステーション・ワゴンの考え方のすべてです。
  

次に、すばらしい、価値のある例をお見せします。
これにはちょっと問題がありました。
私たちのクライアントのひとつにハインツがありますが、私たちはそのケチャップを売らなければなりません。
ケチャップは、みんな、似たりよったりです。
同じような味がしますし、ベースはみな同じトマトです。
さてそれなのに、このケチャップを他のものよりずっと「手に入れたい」ものにするには、どんなカギをつかったらいいでしょう?
シンブルなカギ、シンブルなアイデア、この商品を売ることのできるアイデアは?
私たちはハインツと他のものをとりあげ、いじくりまわしてみました。
食べてみましたが全然変わりがありません。
ハンバーガーに添えてみました。
フランクフルトにも添えてみました。
違いは全然あありません。
突如あるアイデアが思い浮びました。
これです。  


ハインツ・ケチャップの『レース』

(2本のトマト・ケチャップのぴんを逆さにして流れ出るさまを写しただけのフイルム)

アナ「ハインツと、それに次ぐぐらいに有名なケチャップの競争です。ハインツじゃない
ほうが早かったですね。早いほうが、 このレースでは負けです。ハインツは、おいしさが濃いのです」


hiroysatoさんに見つけていただきました。
http://www.bing.com/videos/watch/video/heinz-original-ketchup-race-ad/3xqal8c8?from=sharepermalink


このフィルムが手に入るまで、別の『決闘』で代用します。
『決闘』のラスト・シーンでご想像ください。





YouTube


(アナウンス)西部でも、東部でも、南部でも、北部でも、最ものろまなケチャップです。


【chuukyuu補】画面を想像する補助として、このアイデアの基となった印刷広告を参考までに。


注いでから、3分39秒で、ほかのケチャップからは水がでました。
これも、ハインツがちょっと高い理由のひとつ。

資料探しがたいへん。続けろのコメントが多ければ、何とか努力して、 明日に、つづく。


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