創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(571)対ガン・キャンペーン

on "DDB NEWS” March iassue, 1971

【抄訳】

対ガン・キャンペーンは、恐怖ではなく、希望を。


公共広告の中ではもっとも著名なスローガンであった、米国対ガン協会(ACS)の---「チェック・アップ(早期発見)とチェック(小切手 寄付)でガンと戦おう "Fight cancer with a check-up and a check"に、さようならを告げる日が来た。
ACSは、1971年の春のキャンペーン(4,5,6月)の制作をDDBに打診して、ビル・バーンバックの受諾を得た。


chuukyuu注】米国の公共広告の定例キャンペーンは、キャンペーンをしてほしい団体(例;対ガン協会とか山火事防止協会など)が手をあげると、広告代理店は制作を志願し、広告主は制作されたコマーシャルのフィルム代や紙型代を提供、メディアは放送時間とスペースを提供する仕組み。
したがって、対ガン協会がDDBを狙ったのは、寄付金募集の競争相手が多い中で、もっとも効果の高い広告をつくってほしいと思い、異例の代理店指定の挙にでたのであろう。


「これまでのスローガンは、ただ単に、耳ざわりのいい語呂あわせの言葉遊びでしかありませんでしたからね」と、コピーライターのロール・パーカー夫人は手きびしい。「もっと強く訴えかけるスローガンでなくちゃ」
ACSは、恐怖戦術ではなく、希望をもたせるようなスローガンを、と要望したが、DDBは、もっと何かあると、完全には同意しなかった。
担当したアートディレクターのビル・トウビンとロール・パーカー夫人が練ったコンセプトは、1ドル、2ドルの少額の寄付金でもこだわらないで送ることをすすめる広告であった。
とりわけ狙ったのは、ビジネスマン。


パーカー夫人のご主人のジョージの協力もあった。ガン死の死亡広告を模した広告に実名を貸すことを許してくれたのである。
彼は、縁起かつぎなんかしない技術系の人だった(ベル電話会社のプロセッシング部長)。


その死亡広告は、「われわれは隣人です。あなたの助けがなにより」


chuukyuu注】図版のメイン・ ヘッドラインは、「われわれは、あなたがいきている間に、ガンをワイプ・アウトしたい」
パーカー夫人の解説---「クルマのフロント・ガラスの雨滴を、ワイパーがきれいに払うでしょ。あれをワイプ・アウトっていうのよ」


ほんとうは、ケネディ大統領が1961年の演説で、かっこうよく「この10年間のうちに、われわれは月面に到着する」って宣言したように、「医学の進歩で、1975年にはガンは制圧されている」って言いたかったのよ。そうは問屋がおろさなかった。
でも、薬はずいぶん開発されてきている。



私たちは、
あなたが生きて
いらっしゃる間に
癌を一掃
したいのです。


米国癌協会にご寄付を


ジョン・ウェインが主演したコマーシャルもつくられた。ウェインは何年も前に検査の結果、肺ガンが見つかったが、手術の結果は良好であったから、このコマーシャルにも進んで出演し、キャンペーンの成果も見るべきものがあった。


ジョン・ウェインの独白「自分は数年前に体調がおかしかったが、チェック(検査結果)を知るのが怖くて病院へ行かなかった。妻があまりにもすすめるので、チェックを受けたら肺ガンだった。いまは、こうして元気に撮影している。おかしいと感じたら、あなたも早期にチェックをうけなさい。さらにお願いする。対ガン協会へチェック(寄付金の小切手)を送ってください」


挿入されている映画の画面は『大いなる追跡』。映画会社、出演者、スタッフの合意の上でのもの。


A/D Bill Taubin
C/W Lore Parker
P/D Justine Crasto


このフィルムは、パーカー夫人からの贈り物。


あなたが女性なら、ご自分の生命が救われる方法を探しましょう。
月に一度、月にたった一度だけ、シャワーを浴びている時とか、体を乾かしたりスプレーする前の時間をほんのすこしだけ割いて、ご自分の胸を押すちょっとした仕草をなさってみてください。
ご自分の躰を大切にするために、乳房をご自分で調べてみてください。これが出発点です。
たいした検査でもありません。面倒なものでもありませんし、あなたを傷つけもしません。
また、そのために要する時間は、ほんの2分間です。
その方法をご存知なかったら、医師にお尋ねください。
あるいは、私ども米国対ガン協会にお尋ねください。
やり方を記した簡単な小冊子をお送りします。
あなたの余生をお考えください。
1ヶ月にたったの一度、たったの2分とは、ずいぶん安い保険でしょう。
そうお思いになりませんか?
恐れることはありません。あなたを傷つけることでもありません。お電話ください。


Agency: Green Dolmatch Inc
Designer: Paula Green
Copywriter: Paula Green
Director: Bert Stern
Agency producer: Mary Munro
Production studio: Libra Productions
Cinematographer: Bert Stern
Client: American Cancer Society
1970