創造と環境

コピーライター西尾忠久の1960年代を中心としたアメリカ広告のアーカイブ

(570)傑作コマーシャル「ゴリラ」撮影現場

on "DDB NEWS” April issue, 1970


DDB、ゴリラに出会う


アメリカン・ツーリスター「ゴリラ」


アナ 世の中には、あなたのスーツケースを乱暴に扱う人がたくさんいます。不器用 なドアマン、忙しいタクシー運転手、手荒なポーター、などなど。大切な中身をきちんと守るアメリカン・ツーリスターで安心のご旅行を---。


スーツケイスを投げたりぶつけたり、乱暴に扱うゴリラ---アメリカン・ツーリスター(旅行かばん)のコマーシャルのために探していたんです。「世界中いたるところにいる、不器用なドアマン、忙しいタクシー運転手、不注意なポーター、手荒な小荷物係---とにかく、スーツケイスをよく落とす人たち」に代わって雲助的な演技をしてもらうために。


アートディレクターのロイ・グレイス氏と彼の細君で担当コピーライターでもあるマルシア・ベル夫人のアイデアになるストーリー・ボード(絵コンテ)を受け取った制作部門(DSI---ディレクターズ・スタジオ Inc. 注:DDBの子会社)は、凶暴なゴリラを探しまくった。その結果、米国動物園のゴリラは温順であるようにしつけられているために、どこにも凶暴なゴリラがいないと分かった。まあ、当然の処置だわな。
「凶暴なゴリラ」がメキシコ・シティーの動物園にいることが判明。たまたま、乗用車が転覆してもルーフに載せていたスーツケイスはクルマ全重量を支えてビクともしないというコマーシャルをメキシコでロケすることになっていたので、同じ制作クルーでゴリラものも撮ることして、一同がメキシコへ。



Oofie the Chimp


メキシコ・シティーの動物園で主役を演ずる、凶暴ゴリラの名は、Oofie the Chimp。
ロイ・グレイス氏やベル夫人、クルー全員が見守る中、Oofie the Chimp は赤いスーツケイスに触りはし、荷札を引きちぎって食べたものの、あとは知らんぷり。
全員、じっと待つのみ。 何も起きない。 起きない。まだ、起きない。



「なぜ、やらない?」左からBob Miller, Si Kornblit, Roy Grace


動物園の飼育係が Oofie the Chimp をけしかけても、反応なし。
スーツケースの中には、Oofie the Chimpの好物の食品がつめてあるのに、主役は触れてくれない。
それで、Oofie the Chimp のガール・フレンドのゴリラが隣の檻へ連れてこられた。
彼女に、自分の男らしさ(?)を誇示するために、スーツケイスを乱暴にいじめてくれ! 
しかし、ダメ。
時間は無情に経っていくばかり。
陽も傾きかけてきた。
クルーの中には、うろうろと歩き始めたのもいる
2時間経過。
3時間経過。
アカウント・スーパバイザーのサイ・コーンビルトが絶望的な口調で、「 Oofieの奴、われわれが苦しんでいるのを見て楽しんでやがる。奴はサディストなんだ」
その声が耳に入ったか、スタッフの誰かが押したスーツケイスを Oofie が押し返した。
思わず、クルーの歓声。
その歓声に刺激されて興奮した、Oofie the Chimp がスーツケイスに乗ってゆすり、さらに乱暴に扱いはじためた。
すかさず、カメラがまわる。



Oofie the Chimpは大声援に応えて熱演。左からSusan,Roy,Si


なんだ、Oofie the Chimp に演技に入らせるには、カチンコを鳴らし、「スタート!」の大合唱でよかったんだ。