創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(491)ロッサー・リーブス、広告の不変の原則(了)


atsushi さんに教えられた英文の Wikipedia によると、ロッサー・リーブス氏は55歳でテッド・ベイツ社を退(ひ)いたらしい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rosser_Reeve

こんな記述が目にとまりました。

「1960年代に、リーブスのテクニックは、失敗し始めた。 消費者は、より賢くなってきており、おもしろくないコマーシャルを無視することを学んだのである。そして、広告業自体の中では、Creative革命(ビル・バーンバックフォルクスワーゲン・ビートルの「小さいことが理想」キャンペーンで、例示される)が始まっていた(そこで、彼の主張の多くは否定された)。 55歳のときにリーブズは退職。 彼は予定の引退であると宣言したが、多くの人たちは、彼の影響が衰退したためと感じた」

10月6日のこのブログの前文で氏の『宣伝術』を再読して指摘したポイントは的を射ぬいていたわけです。


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 そのコマーシャルについてお話いただけないでしょうか。


リーブス アナシンのコマーシャルです。
われわれはある観点から見たのですが、広告業界の大部分の人たちは、他の点から見ていました。

スラムバング・アナシン


リーブス氏は、このTV広告について「表現技術至上主義の連中が、それぞれ主観的な判断をいうことは勝手だが、しかし大きな製薬会社が、もうかりもしないで86,400,000ドルものお金を使うものだろうか。
それだけの金額が、このテレビ・コマーシャルだけに投入され、制作費だけでも8,200ドルもかけたのだ。
そして、このコマーシャルは、『風と共に去りぬ』以上のお金を生みだしたのです」

    

その点、オグルビーと私は、不思議なほどお互いにお互いがわかる。
私のテクニックは、彼のテクニックとは違います。
私は彼よりも多くの薬の広告をつくっています。

ハサウェイ・シャツの広告では、私の薬の広告は使われていません。
しかし彼の広告代理店と私の広告代理店をよく観察すれば、彼と私とはおなじ観点に立っていることがわかるでしょう。

あなたはダヴィッド・オグルビーのすばらしいロールス・ロイスの広告をとりあげましたが、あの広告にはにはナンセンスがまったくない。
たぶんオグルビー自身もあなたにいうでしょうが、彼はあのキャンペーンのほとんどすべてを、クロード・ホプキソスの『科学的な広告』の中の3ページからとっています。

全部で70ページほどの短かい本だから、あなたも読んでみなさい。

ロールス・ロイスのキャンペーンが細部にわたって述べられているのがわかります。
広告はいかに書かれるべきか、なにをいわなければならないか……あの本は1925年に書かれたものです。
そして、オグルビーはおなじ原理を用いているわけです。

さて、もういちど表現技術至上主義の連中のことになりますが、彼らは、自分たちの広告は他の広告と異なっていなければならないと信じています。

おかしなことに、このようなライターは、ほんの少しの差異を追い求めるために情熱的な熱心さをもっています。

彼らの一見聞こえのいい議論の非論理性は、彼らには明白ではないのです。
そして困ったことに一般大衆や広告に関係ある人びとには彼ら以上にその非論理性がわからないのです。
じっさい、彼らはおどろくほど説得力をもっていそうなことをいう。

だいたいのところは、つぎのようないい方になります……。
第一に、広告(商品ではない)は、とほうもなく多くの他の広告と競争しなければならない。
第二に、したがって広告(商品ではない)は注意をひかなければたらない、というのです。

すこぶる聞こえはいいでしょう。
そして第三に、それゆえに広告(商品ではない)には特異性が与えられなければならない、というのです。

このような論法は、商品を迂回させます、このような論法は、広告の機能も迂回させられます。

この論法は手段と目的を混乱させます。

なぜなら、商品自身に金を払う価値があるからこそ、商品に注意を向ける価値があるのです。
消費者は、注意を払うためにショックをうけさせられたり、楽しまされたりする必要はないのです。

私は、さっき、最初に、美しいスウェーデン娘のポスターの話をしました。
この作者は、商品について知ろうとした私にショックをあたえ、よろこばせようとしたのだが、私はそれがいったいなんの広告だったか覚えていませんでしたね。
あなたはさっき、商品名をおしえてくれたけれど、それも忘れてしまいました。

この話の最中、ここの会社の人が「ライフ」誌のページを開いたところダッチ・ボーイ塗料の広告があり、彼は「1回で2重塗りの効果があるラテックス壁面塗料のご紹介−−−」」という見出を読みあげた。
リーブス氏は、「私はこの広告が好きだ」といった

さて、最後に、コピーライターをいかに訓練するか、というあなたの最初の質問に立ちもどりましょう。
私たちがコピーライターにいいたいことは一つです。
広告に差異を与えるのでなく、消費者の注意を商品自身に向けることなのです。

そして、こんにちの米国で、きわめて多くのコピーライターが、いまだに理解していないのです。(了)
訳:岡田 耕

明日は、TCC初代会長・上野壮夫氏による「リーブスとUSB}


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『5人の広告作家』の原文をテキストに勉強会をしていたTCCのの若手---AWAの会の人びと。

AWAの会のメンバー(当時) 50音順・敬称略)
赤井恒和、秋山晶、秋山好朗、朝倉勇、糸田時夫、岡田耕、柿沼利招、梶原正弘、金内一郎、木本和秀、国枝卓、久保丹、栗田晃、小池一子、小島厚生、清水啓一郎、鈴木康行、田中亨、中島啓雄、西部山敏子、浜本正信、星谷明、八木一郎、吉山晴康、渡辺蔚。(その他の協力者)菊川淳子、高見俊一、滝川嘉子、秦順士


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5人の広告作家』より


バーンバック氏 広告の創り方を語るクリック

5人の広告作家』より


ダヴィッド・オグルビー氏のインタビュークリック


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