このシーヴァスのシリーズが新局面を迎ることができた理由(わけ)を、繰り返します。
khalki さんに[ニューヨーカー・アーカイブ]の存在を教えていただきました。
『ニョーヨーカー』誌は、ぼくが米国の広告を学びはじめたときに定期購読をした最初のメディアです(でも、アーカイブ検索となると---あと、10日で満79歳の野鶴です。代わりに駿馬・atsushi さんに入会して検索してもらいました)。
hiroysato さんには、シーヴァスなどの雑誌広告を額入れしてネットで売っている人がいることを教わりました。面白いとはおもいましたが、ビジネスにする気持ちはないので。
とにかく、お2人のご教示で、まさに、急転直下---視野が開け、大海にのりだしたヨットの感じでいます。
VWビートルのシリーズと、シーヴァスのシリーズは、DDB制作のバックボーンであります。しかも、シーヴァスはいまなおマーケットで優勢です。
このシリーズを丁寧にご紹介することは、日本のクリエイターに大きく資すると思っています。
クリエイティヴ畑にいらっしゃらなくても、高級な笑いが得られましょう。もしかしたら、シーヴァスを美酒の一つにおくわえになる余得も---
きょうは、シーヴァスのシリーズのバックボーンである初期(1962年)の2点を中心に、ご紹介します。
シーヴァスの愛飲家の---というより、酒呑みの底の底の心理を衝いた、歴史的な広告です。もっとも、これは、初期のバックが白っぽいもののアンコール分ですが---
もう半分も飲んだのか、と主人側。
まだ、半分もあるじゃない、と客。
A/D Charles Gennarelli
C/W Larry Levenson
同巧のアイデアでも、目先き変えられる---
こちらの瓶は半分 こちらの瓶は半分 しか残ってない も残っている もしこれがあなたの瓶だとなると、あなたは、
多分、半分しかのこっていないと感じる。しかるに、友人宅を訪れて、その瓶が同じ状態だと、
あなははまだ半分も残っていると安心する。
1970.9.26『ニューヨーカー』
シーヴァスのDDBによる第1弾。長いコピーですが、これが[セリング・プロポジション(販売命題)]。
シーヴァス・リーガルの瓶を変えたマヌケはだれ?
シーヴァス・リーガルの社員は、最近瓶を変えたことで、なんらかの抗議がくるのは覚悟していました。
こてんこてんにやられることさえ,いとわないつもりでした。
確かに最初は無茶なことのように思えました。
どうしてクラシックな瓶を変えるのか?
風格のあるダーク・グリーンの瓶ですよ。そしてウォルター・スコット卿時代からのものらしい古色蒼然たるラベルと。
「瓶型を変えなかったのが不思議なぐらいだ」
とあるシーヴァス・リーガルのファンの方がつぶやいていらっしゃいましたっけ。
そうなんです。瓶型は変わっていません。
あいかわらずのずんぐりで、気どっています。
そんなことより大切なこと。中味のスコッチもあいかわらずのシーヴァス・リーガルなのです。
12歳より一日として若くはなく、「うまくて,時代を経たウイスキーは天国の酒」というやつです。
では、どうして瓶を透明な硬質ガラスに変えたのでしょう? どうして古いラベルを明るくしたのでしょう?
それ、いま私たちが住んでいる世が混乱の世であるからです。
小さな混乱の一つに、「軽い」スコッチとはどういうものであるかということがあります。
「軽い」スコッチは、色も淡いと考えていらっしゃる人がいらっしゃいます。色は軽さとは全く無関係なのです。
「軽い」スコッチとは「薄められた」ウイスキーだと考えている人もいらっしゃいます。いいえ、そうではないのです。ほとんどのスコッチは86度です。
本当の意味での軽さとは,スコッチらしい「口当りのよさ」をいうのです。
軽いスコッチは水のようにスーツとのどを降りていきます。あるいは蜜のように。「くちびるのかみしめ」も起こりません.息がつまることも、たじろぎも、身ぶるいも起こりません。
たくさんの人がシーヴァス・リーガルがいちばん口当りがよい(あるいは、いちばんライトな)スコッチだと考えていらっしゃいます。
なぜ?
1786年以来、シーヴァス・リーガルはグレンリベットのソフトなハイランド・ウイスキー(一級のスコッチ・ウイスキー)でつくられています。
エイジングには、あいかわらずスペインから法外な価格のシェリーの樽を輸入して熟れさせています (1樽35ポンド以上かかります)。
あいかわらず、シーヴァス・リーガルは透明な琥珀色をしています。
この色なんです、瓶を変えることになったのは---。
シーヴァス・リーガルを試したことのない人がたくさんいらっしゃいます。それは、この透明な琥珀色が見えなかったからです。
すてきな瓶ではありましたが、古いダーク・グリーンの瓶がシーヴァス・リーガルをダークに見せていたのです。
それで「重い」と言っていた人もいらっしゃったのです。
レストランやバーでシーヴァス・リーガルを見たことのない人もたくさんいらっしゃいました。
かつてのダークな瓶とラベルが隠していたせいです。
これからは大丈夫。
新しく透明になった瓶のおかげで、なにものにも邪掩されないシーヴァス・リーガルの真の姿がはっきり見えます。
そして暖かく歓迎されてもいます。
とまあ、こんなふうに考えていただけば、そんなに間抜けでもないでしょう?
さすが---といっていただきたいぐらいのものです。
1962.5.12『ニューヨーカー』
What idiot changed the Chivas Regal bottle?
When the Chivas Regal people changed their bottle recently, they were ready for some protests.
Not a storm of outrage.
At first, it does seem outrageous.
Why change a classic bottle?
A magnificent dark green bottle.
And an antique shield that seemed to come out of Sir Walter Scott.
"It's a wonder they kept the shape," muttered one Chivas Regal fan.
True, the shape is the same.
Still squat. Still jaunty.
Most imporrant, the Scotch inside is still the same Chivas Regal.
Not a day younger than 12years. "Goode olde whiskie is a heavenly spirit."
Then why change the bottle to clear flint glass? Why lighten the antique shield?
Because we live in an age ofconfusions.
One minor confusion is "light" Scotch.
People think of "light" Scotch as light in color. Color has' nothing to do with "lightness."
People think of "light" Scotch as "weakened" whisky. Not so.
Almost all Scotch is the same 86 proof.
True lightness is actually the "smoothness" of Scotch.
A light Scotch will go down as easily as water. Or honey.
No "back bite." No gasp. No wince. No shudder.
Many people consider Chivas Regal the smoothest (or lightest) Scotch in the world.
Why? ?
Since 1786, Chivas Regal has been made with the "soft" Highland Scotch of Glenlivet. (This is prize Scotch whisky.)
Extravagant sherry casks are still brought from Spain for ripening it. (Each costs over £35.)
Chivas Regal is still the same clear gold color it has always been.
This color is what warrants changing the bottle.
Many people have never tasted Chivas Regal, because its clear golden color never showed.
Handsome though it was, the old dark green bottle made Chivas Regal look dark.
Som people translated this as "heavy.
Many people never saw Chivas Regal in a restaurant or bar.
The old dark bottle and label almost hid it.
No longer."
The new clear bottle offers an uninterrupted view of Chivas Regal.
And a warm welcome.
Think of it that way, and it's not so idiotic, is it
It's kind of brilliant.
【chuukyuu補】いまだから、いうのですが、瓶の色を透明にしたり、ラベルを明るくすることをシーグラム社へ提言したのは、DDBと思います。というのは、「ライト・スコッチ」という識別化を、見た目でわかりやすくするためだったでしょう。女性の社会進出とともに愛飲機会もふえ、「ヘヴィー」より「ライト」が好まれる時代になっていたのです。
日本だって、「重厚硬大」から「軽薄柔小」といった時代があったではないですか。
つまり、「マヌケ」はDDB---という逆手の自慢。
製品に特徴がなければ、それをつくるための製品改良アイデアを提案する、とまで、バーンバックさんが言っていますからね。
太い瓶型を変えなかったのは、印象をつなげるためかなあ。あの太さでは胴は持ちにくいし、店頭でもスペースを取って仕方がないだろうに。