創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(428)ケイス・クローン社(了)

【用法】 「賢い人間なら小石はどこに隠すかな?」
それに対しのっぽの男が小声で答えた−−「浜辺でしょう」
小男はうなずき、ちょっと黙ってから、「賢い人間なら樹の葉はどこに隠すかな?」と訊く。
すると「森のなかですよ」と相手は答える。
G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心 折れた剣』福田恒存ほか訳 創元推理文庫


(chuukyuu異論: ミステリーの定石ではあるが、広告は正反対。発見され、知られ、認められ、選ばれるために、創られる。しかし、多くの広告は、森の中に置いた葉に似ている)




『マジソン街』誌1970年2月号より
<<ケイス・クローン社(1)


新雑誌『ニューヨーク・ジョック』の創刊号表紙

ジーン・ケイス氏は 「将来伸びる素質が十分ある」ポートフォリオを持参した3人のライターに会ってみたが、一人もふさわしい人物はいなかった。
広告クリエイター専門紹介エージェントは、最後に適切な女性を発見した。
トンプソンでロン・ローゼンフェルド氏のために働いてきたミズ・ジュディ・メリルという若いライターである。


参照
>>ロン・ローゼンフェルド氏とのインタビュー(12345了)クリック


彼女が持参したのは試作ばかりだった。


この代理店の特筆すべき成功の一つに『ジョック』誌のための一連の制作物がある。
スポーツ・ワールド・コミュニケーションズ社が、かなりくだけた『スポーティング・ライフ』という仮誌名の地域特定雑誌のためのアイデアを求めてきたのである。
この雑誌は、フットボール、野球、バスケットボールのファンを相手に、TVでスポーツを楽しむ人たちのために編集されることになっていた。
C&Kは、広告およびプロモーションをクリエートするほかに、この雑誌創刊号の誌面フォーマットをデザインし、一部記事を書きもした。(パット・マグラス社長は、記事まで書いた)。
最もよく知られたここの広告は、9月に『ニューヨーク・タイムズ』紙に出された500語の1ページ広告である。
タイトルはミッキー・ハースコウィッツ編集長による、「私の『ジョック』創刊号です」(ジーン・ケイス氏のコピー)で、クローン氏お得意の文節末のウイドー(未亡人)だけでなく、「fill-it-up」とか「ちょっぴり優勢」とか、「防波堤をケ破る」といったこっけいな言い回しまでふんだんに盛り込まれていた。


私の『ジョック』創刊号です。


編集長:ミッキー・ハースコウイッツ

5人のメッツの選手が、世界チャンピオン・フラッグを、例の有名な硫黄島の摺鉢山山頂に星条旗をかかげる兵士たちの風態よろしくポーズを取っている写真が載っていた。


『ジョック』第1号5万部は24時間で売り切れてしまった>
この代理店は、すぐれたケアリー・コーポレーション、グレート・ウエスタン・レストラン・チェーン、ショッパーズ・アーミー社、アンゴストウラ・ビタス、トム・マキャン・シューズなどのクライアントを加えていった。
クローン氏はいう。
「商品を生き返らす」ために、彼らはクライアントにアンゴストゥラ・ビタスをTVで広告するよう説得した。
トム・マキャンのために印刷媒体広告をつくり、そのうえ「足グロープ」というTV用のアイデアもつくり出した。
1970年にはいって、この代理店のクライアントは6社に、従業員は11人になった。
取扱高は200万ドルである。
ジーン・ケイス氏やヘルムート・クローン氏のような人たちに代理店哲学があるかどうか尋ねるなど、ばかげているであろう。
だが、一般の広告制作に関してクローン氏がいうことを2,3述べてみよう。
「大切なのは、広告の基礎となるコンセプトです」と。
そのグラフィックが際立っていて、何をいっているのかよりも、どのように見えるかで有名な広告をつくる男はいう。
「外見は5%です。だが、この仕事をしている以上、それをすばらしい外見にしたいではありませんか?」

(ディック・ワッサーマン記 抄訳:栗原純子)


ケース&クローン社がシベルマティクス・インク社のためにつくった「営業報告書」


8人の公平なオブザーバーが1969年に、
当社が実際にどんなことをしたかを、
話してくれます。


1.掃除のおばさんのぼやき「この会社のゴミは、6.3倍にも増えちまってるよ」


2.昼食を出前してくれる若い衆「出前のチーズ・バーガーが去年の7倍さ」


(省略)
3.郵便配達人の言葉
4.書類メッセンジャーの証言
5.近くのレストランの支配人がチップ額について打ち明けた


6.電話取り付け人「昨年、ここは64基の電話を拡張しましたよ」


(省略)
7.窓清掃人の報告


8.雑役のおじさん「ここは、トイレット・ペーパーを週に1巻きしか使わなかったのに、今じゃ8巻きだぜ」