創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(410)アル・ハンぺル氏とのインタビュー(4)

       ベントン & ボウルズ社 取締役副社長兼クリエイティブ・ディレクター


クリエイターとのインタヴューでもっとも会話がはずむのは、「好きな自作を2点」あげてもらうとき。まあ、誰だって、自慢めいた話には熱がこもるものです。とりわけ、それが受賞作であれば、公に認められている作品なんだから胸はって説明できるわけ。こちらも、クリエイター同士、相身、互い---って顔で、微笑ましげに相槌をうちます。


<<アル・ハンぺル氏とのインタビュー(1)


好きな自作は、たくさん受賞したもの


chuukyuu 「これまであなたがなさった仕事のうちで、もっとも気に入っている作品を2点あげ、その理由を話していただけますか?」


ハンぺル「承知しました。一番好きなのは、もっともたくさん賞を獲得した一つです。賞自体はそんなに重要なことではありませんが、この場合はそのコマーシャルがよかったということなのです。
ジェロー・チーズケーキの男と女コマーシャルです。あのコマーシャルをご存じですか?
私のこれまでのキャリアの中で最高の傑作です、とても成功しまして、チーズケーキをたくさん売り、ゼネラル・フーヅ社を、うんと儲けさせ、私の評判もあがりました。
このコマーシャルは、優れたプロデューサーとアートディレクターとの共同作業、そしてキャストの力でできあがったものです。みんなすばらしい人びとでした。主婦役を演じたのがルイーズ・ラッサーで、ご亭主役はジョシュ・シェリーでした。
とにかくすべてのことがうまくはこんだのです。
撮影中のエピソードは、その女優がひどい病気になっていて熱が 103°F(注:39.4°C)もあったこと。病気ではあってもとてもすばらしい愛想のいい演技をしてくれましたから最高の仕事になりました」


chuukyuu 「女優さんの名前をも一度---」


ハンぺル「ルイーズ・ラッサーです。彼女は私の一番好きな女優です。私が彼女をTVコマーシャルに使ってから、他の人にもそのよさがわかったとみえて、コマーシャルで使われることが多くなりました。でも私が使った時はまだかけ出しでした。
コマーシャルの内容は、彼女がしゃべり通し、ご亭主は食べ通しで彼女を無視しているという、とてもシンプルなコマーシャルでしたが、かえってそれがチャーム・ポイントになりました。まったくのシンプルさ----それがうけたのでしょう。
ああいった、とてもシンプルなものをもちだして、それがあのようなヒット・インバクトを与えることができるということを立証できたことに、私は大いに満足感をぼえました。あのコマーシャルが私の最高傑作です。


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ゼネラル・フーヅ・ジェロー・チーズケーキ 「夫婦」

(テーブルに並んでいる夫婦)
主婦「おいしい? どう?」

(亭主ドノ、黙々とチーズケーキを食べている)

主婦「うちの亭主ドノって、ときどき、私よりチーズケーキのほうがずっと好きだなんていうんです。でも、このチーズケーキなら仕方がありません。ほんとうにおいしいんですもの。
チーズとグラハムクラッカーが入っているジェロー・チーズケーキ・ミックス、なんてすてきなんでしょう。
焼く必要なんかありません。混ぜて冷やせば---ハイ、できあがり。
おいしい?」

(亭主ドノ、依然、黙々と食べている)

主婦「おいしいんです。クリームたっぷりのチーズケーキなんですもの。
これは、ゼネラル・フーヅが新しく発売したジェロー・チーズケーキです。
ほんとうにほんとうにすてきなチーズケーキなんです---焼く必要のない---
おいしい? どう?」

(依然、黙々。食べつづけている)

主婦「亭主ドノ、やっぱり、お気にめしたみたい」


キャスト
亭主:ジョシュ・シェリ
主婦:ルイーズ・ラッサー


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