創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](5-1)


46年前(1963)に上梓した『効果的なコピー作法』(誠文堂新光社)を復元しています。当時は誠文堂新光社からでていた業界専門誌『ブレーン』誌に1年間連載したものをまとめたものです。chuukyuu、32歳の思案で、いま見ると〔若書き〕の憾はいなめません。〔若書き〕は〔若恥〕に通じますね。でもね、VWビートルの広告キャンペーンを日本に紹介した初めての文章でもあります。また、広告コピーの理論化という荒海にたった一人で漕ぎだした命知らずの船頭でもありました。


第5章 コピーの流れ



読み手に負担をかけないでスルスルと読ませる---
これが[コピーの流れ]です。
スルスルと読ませるということは、
興味を持続させながら読ませる技術です。
その技術に8つあります。
その一つ一つと、
どういう時にどれを使うかを解説します。
ここに引用したVWの広告は、私がもっとも敬愛する
J・ケーニグ氏というコピーライターのものです。



エンジンが後部にあるのは、なぜでしょう?


コピーの流れ


微妙で不明解な主題なので、読む側でも困難が伴なうことでしょう。はじめからその覚悟でお読みください。
まず、【例21】の広告を1分間だけごらんください。


【例21】



フォルクスワーゲンがいつも品不足なのは、なぜでしょう?


コピーの多い広告ですが、いまは、3枚のイラストレイション(写真と絵)だけを覧ください。


ご覧になりましたか?
それでは、以下の訳文をお読みください。小さな活字がぎっしりつまっているので、リーダビリティ(可読畦)はいいとはいえませんが、 ゆっくり終わりまで読んでください。
さあ、どうぞ。


フォルクスワーゲンがいつも品不足なのは、なぜでしょう?


その理由
(1) 凍結したりオーバーヒートしない空冷式エンジン
VWのエンジンは後部に搭載されています。普通じゃない? フォルクスワーゲンの特長の中では変わっていない部類の方だと考えている自動車専門家もいます。まず、空冷式であること。考えてみると、これはすごく有利ですよ。夏に沸騰したり、冬に凍ったりする水が不要です。不凍液も不要。ラジェターのごたごたもありません。
エンジンはアルミニウムとマグネシウム合金の精巧な鋳造で、とても軽くて頑丈な198ポンドです。摩擦が最少限になるようにきっちりつくられ、交換修理を要するような事態は起きないはずです。リア・エンジンだということは、車輪に動力を直接伝えることを意味します。これは、 (シャフトの重さと回転力のロスを省いた)もっとも経済的な設計で、トップ・スピード時でも巡航速度時でも同じように高能率を発揮します。VWは、1日中、ムリなく時速100kmで走りつづけられます。耐久性についてVWオーナーの方々から、 160,000kmを越えてなお、りっばに走っているとの報告をうけているほどです。


(2) 氷上や雪道でも操作がラク
ェンジンが後部にあるということが、後車輪にすぼらしい牽引力を与えます。ほかの車ならスキッドするようぬかるみ、砂地、氷上、雪道たどでもVWは走ります。
ェンジンが後部にあるVWの利点をあなたは実感なさるはずです。
この車こそ、あなたの思いのままに動きます。混雑したところでも敏捷にすりぬけます。


(3) トーション・パー・サスペンションの接地性
私たちは、新しいトーション・バー・ライドに関する一流自動車メーカーの最近の広告をおもしろく読みました。 トーション・バー・サスペンションが現在、10,000ドルから15,000ドルもする輸入スポ-ツ・カーに採用されている、工学界の偉業の一つだ---といった調子で報告されてあったのです。
そのとおりです---が、一つだけ抜けています。フォルクスワーゲンは、独立懸架方式とトーショソ・バー・スプリングを採用しているのです。だから、デコポコ道でも(ガタン、バタソ、ガタンがなくなって)神秘的な操縦性を発揮し、カーブ時の振動やフレがなく、それでいて、10,000ドルや15,000ドルものお金はいりません。たったの1,565ドルです。


(4) 不変のスタイル
写真の2台は同じ車に見えますか? 実際には '59年型VWは80ヶ所も改良されています。そう、フォルクスワ-ゲソは、たえず変化しています。ちょっと見ではその変化はわかりませんが---。
私たちは、前年の年式のものを流行おくれにするために車を変化させているのではなく、よりよくすることだけを考えています。
たとえば '59年型ではオイル・ドレイン・プラグに3ヶの永久磁石をつけてオイルの浄化をはかり、スチール・スプ1)ソグをクラッチ板にとりつけて変速をスムーズにしました。VWは、この10年間に心臓と外形のほかは、すっかり変わりました (白状しますと、スタイルは変えたくとも変えられなかったのです。2,3年前、私たちはこの件について、イタリアの有名なボディ・デザイナ-某氏に相談したことがあるのです。
彼は検討を重ねた結果、「リア・ウインドゥを大きくしなさい」とだけいいました。私たちは、そうしました)。


(5) クラフトマンシップの真意
ベンジャミン・フラソク1)ンは、あるとき、指物師がテーブルの装飾をしているのを見て、「どうして、そんなわずらわしいことを---そんな裏側が装飾してあろうとなかろうと、だれも気づくまいに---」といいました。するとその職人は、 「私が知っています」と答えたのです。
ウルフスプルグクのフォルクスワーゲンの工場では、肉眼ではわからないほどの塗装のキズのために、毎日VWが捨てられています。ビジネスセンスが不必要と考えるかもしれないことをやるというクラフトマンシップに由来しているのです。たとえばVWは、必要以上の塗装をしています。すなわち、ラッカーの3重塗装をしていますが、それもたんにラッカーを吹きつけるだけではありません。まず、ペイントの中に沈めて、あなたが見ることのない内側の面が塗装されるまで浸します。それから入念に吹きつけ塗装されます。防蝕のためです。 (2,3の高級車だけがこのやり方でやっています)。
VWは許容量いっぱいにピッチリとつくられているので、ドアを閉めるためにはウイソドゥを開けなければならないほどです。その気密さは、水に浮くほどです。あなたのお車でお試しになってごらんなさい。
ウルフスブルクの工場では、各工程でVWを検査するというただ一つの作業のために3,000人以上もの検査員がいます(VWは日産2,500台。その台数よりも多い検査員がいる勘定です)。


(6) 1リットルあたり10.5km、すてきな運転感覚
フォルクスワーゲソが経済車だということは、もちろん、よく知られています。時速80kmで、レギュラー・ガソリン1リットルあたり、掛け値なしに10.5km走れます(他社のこの件に関する主張はプロのドライバーよるエコノミイ・ランの数字を基にしています。そういうやり方なら、フォルクスワ-ゲソほ1リットルで16kmiも伸びるんですよ。しかし毎日乗る分には10.6kmというのがかけ値のない線です)。
操縦しやすい車です。時代おくれのスティック・シフトを敬遠なさるご婦人でも、フォルクスワーゲソのギヤが軽くシフト・チェンジできるのには驚嘆なさるでしょう。ある評論家がvwのスティック・シフトの操作のしやすさ、スムーズさはくらべるものがないと発表しているほどです。
この車は、ほかの事がモタモタしているような道路や駐車場でも敏捷です。在来の車より4フィートも短かいのです。しかも5人の大人と多くの荷物が載ります (じじつ,フロント・シートのレッグ・ルームは大型車のより奥行きが深いくらいです)。
とくにあなたが運転好きの方ならこのプッシュ・ボタン時代になって、ほとんど失われてしまった自分で操縦するという楽しみを、VWが満足させてくれましょう。


(7) 早くて,安上がりで,どこででも受けられるサービス
自動車の神様、フェルディサンド・ポルシェ博士は、フォルクスワーゲンが長持ちするように設計しました。ほかの車にくらべてサービス工場入りすることが少なく、経費も少なくてすみます。新品のフロント・フェンダーは21.75ドル、新品のシリンダー・ヘッドは19.95ドル、エンジンの取り替えは90分間という合理的な設計です。
VWのサービスは国内50州はもとより、カナダ、メキシコでもご利用になれます。サービスは完ぺきです。技術員は全員、工場で教育を受けた者ばかりです。あなたの大切なVWを、未熟な技術員にまかすようなことは、指定サービス工場としてはいたしません。あなたがVWを見ただけで何年型かすぐに当てられるのでしたら、その古い年式のVWがいまなお新車と同様にごきげんに走るということを発見なさるでしょう。


(8) VWは完全装備で1,565ドル
白タイヤとラジオ、それにサイドミラーはオプションです。私たちには、 1,565ドルのVWについている以外のものであなたがお望みになるものが想像できないのです。
これは正直な車です。私たちは、できる限りそうするようにつとめてきましたし、世界中でいちばんお買いどくな車だと思っています、百万長者も運転していますし、学生も労働者も乗っています。あなたもお気持ちしだいでファースト・カーにもセカンド・カーにもなります。セダンでもスライディング・サン・ルーフつきセダン(1,655ドル) でも、 コンバーチブル(2,055ドル)でもお選びになれます。
嬉しいことには、VWの中古車は新車とほとんど同様に売れるのです。お手許の電話帳にVWのディーラーが記載されています。みんないい人間ばかりです。
1948年には19,244台のVWがつくられました。1958年には553,399台つくりました。ことしはもっとふえるでしょう。なぜ、フォルクスワーゲソがいつも品不足なのでしょう?  もう、おわかりですね。


フー---お疲れさまでした。とはいっても、半分くらいまでお読みになったら、あとはつられてスルスルと読んじゃったでしょう? (あなたが、指示どおりに全文を読まなかったとしたら、自動車に興味のない人なのです。そしてコピーライターに必須---知識欲が足りないのかも。いいコピーライターを目指すなら、いま一歩の精進が必要のようですね。あるいは、傲慢な自信に蔽いをかぶせるか---)。
あの訳文は、400字詰原稿用紙で9枚以上あります。


あと、原文の英文のアップ作業がのこっています。外国からのこのブログへの7パーセントのアクセサーへのサービスです。
おお、容量オーヴァーでせっかくの英文が入りません。分量の少ない日に、入れることにします。


>>原文の英文はこちら


1959年7月17日号の『ライフ』誌に載った第3弾目の広告です。
米国でも一般誌の1ページ広告でこんなにコピーが多い広告はまれです。
コピーライタ-は第3章と第4章で紹介したケーニグ氏。氏がドイル・デーン・バーンバック(DDB)代理店にいたころの仕事です。じつは私は、ケーニグ氏がフォルクスワーゲン・セダソのために書いたコピーの中であれがいちばん傑作だとふんでいました。なぜか? コピーライターの才能を見分けるには、長いコピ-を書かしてみるとわかるという識別論は別にして、あれは長いコピーであるにかかわらずスルスルと読ませ、ビートルについての必要なことを十分に伝達し、しかも説得力があるからです。

(注) DDB代理店のVWのアカウント・マネジャー、マクネイリー氏からの手紙に、DDBと米国VW社とのあいだにカウントが開かれたのは1959年5月。
それ以前にVWの広告は出ていないとのこと。したがって1959年8月3日号の『ライフ』誌の広告を第1弾として、同月10日号【例20】、17日号【例21】、24日号、31日号と連続して出たものが米国人がDDBによるビートルの広告に接した最初であることになります。


スルスルと読ませる---これが[コピーの流れ]です。
読み手に負担をかけないで、興味を持続させながら読みつづけさせるテクニックです。
スルスルと読ませるためにはリーダビリティに関係する要因、たとえば活字の大きさや種類(フェイス)とか、1行の長さ、インキの色といった基礎的なものもありますが、ここで問題にしたいのは、主として、読みつづけさすためにはコピーをどう善くかという点に限定します。
ですから、メイン・イラストレイションとヘッドラインの流れのことも別の機会にゆずります。簡単にいうと、ひとつの広告原稿の中での流れが、

ヘッドライン→メインイラストレイション→テキスト

という流れから、

メイン・イラストレイション→ヘッドライン→テキスト

という流れにかわってきたということです。
なお、一つの広告原稿に流れがあるように、連続して出る広告にも、興味を持続さすための流れのテクニックを使うと有効です。
これは後ほど説明します。


明日は、[流れのタイプ]


>>[効果的なコピー作法]目次