創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(389)ユージン・ケイス氏との隔靴掻痒のインタビュー(4)


 ユージン・ケイス氏
 パートナー, コー・クリエイティブ・デイレクター
 ジャック・ティンカー&パートナー(当時)


選挙広告の傑作は、DDBが創った民主党大統領候補ジョンソンのためのものでした。あれは、生前のジョン・F・ケネディ大統領が、VWビートルのシリーズに惚れて「自分の2期目の次ぎの選挙の民主党キャンペーンは頼む」と予約していたためのものでした。ところが凶弾。ジョンソンはゴールドウォーターに圧勝しました。が、DDBは、「わが社が扱った唯一の欠陥商品であった」と反省し、以後、選挙広告は代理店としては扱わない。個人が休暇をとって各自の信念による候補者のために宣伝技術を提供するように---との内規をつくました。そりゃあ、そうですよ、社内には自民党好きもいれば民主党支持者もいます、もちろん公明党や「赤旗」をこっそり定期購読している人も。その定期購読者に自民党のキャンペーン・チームに入れ---というのは、政党(あるいは思想)ハラスメントともいえます。選挙広告はすべからく、クリエイターは個人の資格で、ね。


ロックフェラーを戯画化したコマーシャル


chuukyuu 「これまでおやりになったものの中から、ご自分で気に入っていらっしゃる作品を2つあげてくださいませんか? そして、それが好きな理由やそれにまつわるエピソードも」


ケイス氏 「そう、これはなかなかむずかしいですね。私は、ロックフェラー氏が知事選で接戦したときの一連の挑戦的な政治風刺漫画(彼が自分でコメントをつけました) のテレビ・コマーシャルが好きです。 そのポイントはこうです。
誰でも、有名になると敵ができ、必ずしも好意的立場にだけ置かれるとは限りませんね。つまり、それは、オフィスを持つとか、決定をくだすとかといった責任を持つことに対する代償です。時には、一部の人を怒らせてしまうとぃったことも起きますね。
こういった種類の正直さとか自己認識というのが、政治の世界はもとより、どこにもまれになっているように思えるので、それゆえ私はこれが好きなのです」

州知事選のためのロックフェラー陣営のTV-CM



(ロックフェラーの戯画いろいろと・・)
過去8年間のニューヨーク州は、この妙な顔をしたジェントルマンによって治められていました。 これが私です。
新聞でご覧になったように、私にもよい時もあれば、悪い時もありました。
私が新しい道路を開いたり、新しい奨学資金制度を作ったり、水をキレイにする計画を立てたりする時には、私の瞳には、光が灯り、私がたいへんに好ましく見えるようです。
また、だれかのその場かぎりの計画を打ち破ったり、予算案の一部を拒絶したりすると、私の肖像画は、ちょっと違った風にえがかれます。
数年間の明白なこととして、もし、よい知事でありたいならば、だれかを怒らせたり、このような似顔の絵をえがかれたりしなければならないのでしょう。


1966年秋、丁度ニューヨーク州知事選挙の最中に私は、ニューヨークに行っていました。 ロックフェラー候補は、共和党の中でも進歩派に属しており、その人気はたいへんなもので、ふだんは民主党に投票する人たちも「ロッキーだけは別よ」と、党派を気にしていないふうでした。
ケイス氏がつくったロックフェラー氏のためのテレビ・コマ-シャルも、そうした大衆の感情を知った上で、彼を戯画化する手法をとったのだと思います。


ケイス氏 「私は、ジレットの、ちょっとふざけたあのコマーシャルも好きです。当時、カミソリには、何回も剃れるのとそうでないのがあると主張することが一般に行なわれていました。
毎朝ひげを剃っている人には、この主張がまったくばかげていると知っていましたし、その人たちは、ひとつのカミソリで20回も30回も剃るなんてことに興味はなかったのです。
そこで私たちは、1枚のカミソリで何回それるかという、世界記録に挑戦するちょっとした冗談をやったのです。
そのテレビ・コマーシャルは、同じカミソリで何回も剃って世界記轟を打ち立てようとしている1人の男が登場します。カミソリは残りません。あるのは、ひげを剃るプロセスなのです。そこで私たちは、このばかげた習慣は終わりを告げるべきだとへりくだっていい、人は、統計のためにではなくコンフォートのためにひげを剃るべきだと主張したのです---あれはとてもすてきでした」


アナウンサー「109回というのが1枚のステンレス・スチールのカミソリでひげがそ剃れる世界最高記録です。 ある男が毎朝ひげとカミソリに挑戦してです。ジレットは、この愚かしい競争に挑戦することにしました。ジレットは、世界でもっとも優秀なステンレス・プレートを作っています。ジレットが挑戦するのは回数だけではありません。その剃り心地のよさにも---なのです。


>>(5)コピーライターにとって、テレビと印刷の違い。