創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(387)ユージン・ケイス氏との隔靴掻痒のインタビュー(2)


 ユージン・ケイス氏
 パートナー, コー・クリエイティブ・デイレクター
 ジャック・ティンカー&パートナー(当時)


ケイス氏とのこのインタヴューは、最初のインタヴュー本である『みごとなコピーライター』(ブレーンブックス 1969.7.15)に収録されています。ほかのコピーライターのインタヴューと同じで、月刊『ブレーン』(当時は誠文堂新光社発行)に連載されたものに手を入れてまとめたものです。編著には、テープ起しをした草稿をご当人へ送り加筆・訂正・削除を経た英文を添えました。英文が削除された部分にホンネがあると推量し、日本文ではそのまま載せたところもあります。ま、それにしても、DDB以外のライターは、日本からやってきた事情通らしいのが、インタヴュー料も出さないで不躾な質問をいっぱいして、いったい、どういうことなんだろうと思いつつ答えたことでしょう。いま思うと、冷や汗一斗ものです。



モーレツな穿開気のジャック・ティンカー社


chuukyuu 「この代理店の雰囲気はお好きですか? いまの米国で、どのぐらいの数の代理店が、あなたの代理店のような雰囲気をもっていると思われますか?」


ケイス氏 「モーレツな雰囲気ですね。 私たちのようないい雰囲気をもった代理店はほかにないと思います。ほかの多くの小代理店にも自由はいっぱいありますが、クリエイティブの自由という意味でちょうどよい大きさの代理店は私たちのところだけじゃないかと思います」


chuukyuu 「あなたの代理店の居心地のよい雰囲気を保つために、もし、おやりになっているとすれば、どんな努力をなさり、また、スタッフにどんなアドバイスをなさっていらっしゃいますか? あなたの会社には、代理店の社員であるための最低のモノサシとでもいったものはありますか?」


ケイス氏 「私たちは、秘密をもったり、形式だけの組織をつくったり、のべつに会議や決議をしたり、注文したり、命令したりしないようにだけ努めています。いつもお互いに信じあい、楽しくすごすようにしているだけです。 といっても、いつもパーティばかりやっているというのではありませんが。
私たちは、人間というのは、それぞれ、ひとりひとりが、スタンダードそのものなのだと思っています。あるいは、他人が拵てやるよりはずっと高いスタンダードであると、私たちは、その人自身のスタンダードが非常に高い人を見つけようと努力しています。ですから、私たちはおしえる必要はないのです。その人たちにモノサシを当てはめる必要なんかないのです。なぜならその人たちは、非常に強要力のある自分自身のモノサシをもっているのですから」


悪い雰囲気の代理店で働くのも一つの修練


chuukyuu 「コピーライターが、あまり居心地のよくない代理店で働くのと、望ましい雰囲気の代理店で働くのとでは、その人の才能の進歩と表現に何かちがいが出てくると思われますか? あれば、何か例をあげていただけますか?」


ケイス氏「そう、それは確かにあると思います。でも私は、はじめはあまり居心地のよくない代理店で働くのはとても有益だと思っています。そこでは、その人はほんとうによい仕事をしたいと切実に思うでしょうし、そこの代理店でそれまでなされた仕事の平均的レベルよりも高い勝利をおさめたいと思うでしょうし、また実際におさめることができるのを証明できるでしょうから。
悪い代理店で働き、よい作品を創ろうと努力するのは、とてもよい、きつい修練の場だと私は思います。
もっとも、莫大な無駄働きとエネルギーの浪費はありますが、いちどその試練をうければ、よい所で働くことのありがたさが分かるのです。
人は、ある広告が公表され、効果をあらわすまでは、その広告が良いものかどうかわかりません。それまでは、推測だけです。もし、あなたが、広告が発表され、実際に効力を発揮するのを見られないような場所にいるとすれば、あなたは自分が何をしているか、ほんとうにはわからないのです」


chuukyuu 「米国では、コピーライターの間に、一つ所にとどまっているよりもよりよい雰囲気の代理店を求めてたえず別の代理店へと移る傾向があるように思いますが、これは一般的な傾向ですか?」


ケイス氏 「ええ、ええ、そうです」

州知事選のロックフェラー陣営のポスター

ロックフェラー知事は、予算の45%を教育に
使ってます。子どもが投票できなくて残念。


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