創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(312) ボルボの広告(6)

きょうも、拙旧著『ボルボ ---スウェーデンの雪と悪路が生んだ名車』(ブレーンブックス 1968.7.20)の引用が中心です。広告のクリエイティブというものは、参加した人の動機の高低により、結果はどのようにも変わっていく---ということの一つの例証だとおもっていただけばよろしいでしょう。「程度のいい中古のフォルクスワーゲンをお捜しなら、ボルボのディーラーへお越しください。」という米国ボルボ社の広告を見て、ニュージーャージーの米国ボルボ社へ手紙で広告の基(もと)になっているデータを請求し、日本からニューヨークまで出向いて、広告をつくった広告代理店のボスに会って確かめる---いや、いまから考えると、何を納得しようとおもってそんなことをしたのか、自分でもあきれています。断言しますが、ぼくはボルボを買ったことも、ボルボの輸入元と接触したことも一度もないんです。自分の疑問を解くためにやり、その結果が新書版になっただけなのです。コピーライター根性かも---いや、金が払われないことをやるのはコマーシャリズム・コピーライターではないですね。そういえば、このブログもそうだ? 

第2章 ボルボ、米国に突撃す(つづき) 

スウェーデンまで来てしまった(ほぼ既出)
「程度のいい中古のVWをお捜しなら---」(ほぼ既出)
年収1万ドルの既婚者(ほぼ既出)



ボルボはコンパクトカー

こうした(5)調査結果から、ボルボの見込み客の典型は、年収1万ドル(注:2008年の現在なら1,000万円以上に相当か)の技術系職業についていて、子供は1人で37歳前後の既婚者であることは、すでに(注:昨日の日記に)書いたが、さらにつけ加えるならば、2台目(セカンド・カー)のとして求めようとしているのではないこと、ボルボフォルクスワーゲン、あるいはシボレーかフォードのいずれかを下取りに出そうとしていること、そして、彼が比較考慮しているのは、主として米国製コンパクトカーとVWであることもわかっきた。(ほぼ既出)
こうなってくると、VWとコルベアを引きあいにだした、この広告の真意もはっきりしてくる。

VWに対しては「いちばんよく知られている経済車(エコノミーカー)の一つ」という敬称をささげつつも、VWとボルボの違いをはっきりさせ、コルベアに対しては「いちばんよく知られているコンパクトカーの一つ」だとおだててボルボの強敵であることをほのめかしておいて、


「これが、ボルボです。ボルボは、あらゆる速度段階で、ほかの普及価格のコンパクトカーよりも速く走るコンパクトカーです。それていて、ガソリンの消費は、小型の経済車と同じく、リッターあたり10.6km以上です」


と、加速性能と燃費性能がいいことの2点を強調している。
この広告文の基礎となっている数字は、『ポピュラー輸入車』誌が3台のボルボとランブラー、バリアント、ファルコン、シェビー?、コルベアの5台を使用して行った実地テストによると思われる。
同誌によると、5時間におよぶこのテスト中に、2台の米国車しクラッチに故障を起こしたとという。
そして、テストを終了してロングアイランドのウェストハンプトンからニュージャージーニューアークまで帰るときに、テスト員たちが選んだのはテスト車のボルボであったが、途中、いちどのエンジン・ミスもなかったと報告されている。
故障を起こした2台が敬遠されたのは当然として、他の3台もテスト中にエンジンから異様な臭いを出したので、だれもえらばなかったとも。


路行能力と扱いやすさを支持


それはそれとして、前記の平均的ボルボ所有者像の諸要素の中で、とくに私の興味がそそられるのは、彼が技術系職業に従事しているという点である。
彼はメカニズムに詳しく、かつうるさく、またそうであることを自負しているであろうし、外形よりも機能を重視するタイプの男性であろうことは、容易に想像がつく。

彼らがボルボに決めた動機は、

路行能力(ローダビリティ)と   
扱いやすさ(ハンドリング)   14.1% 
良心的なメーカーだから   11.2% 
耐久性   10.4% 
総合的な経済性   9.5% 
信頼性   7.8% 
燃費の経済性   7.4% 
安全性   6.1% 
性能とスピード   5.1% 
スポーツカーだから   4.6% 
メーカーの名声   4.4% 
スタイル   4.1% 
大きさ   3.2% 
外装・内装の仕上げの良さ   3.2% 
価格   2.9% 
下取り価格がいい   1.6% 


とてうふうに、性能、品質的なものへの支持が圧倒的に高い。
首位を占めている路行性能(ローダビリティ)とは、悪路でも容易に走れることを意味し、カーブや凸凹道でも車が浮きあがらず路面とタイヤが密着しているロードホルディングの良さや、ローリング(横ゆれ)に対する安定性などを含んでいる。


ボルボはタフな車

そういえば、ボルボの「路行性能」の良さと「耐久性」を訴えた広告に、こういうのがある。


うんといじめるもりで運転してごらんなさい。


ボルボスウェーデンから米国へやってきた1956年には、シボレーは「いきのいい車」として、フォードは「安全な車」として、さらにフォルクスワーゲンが「奇妙な車」として人気を博していましたけ
私たちも、ボルボもすぐに「タフな車」として人気を博した---と言いたいところですが、実はそうではありませんでした。
最初にボルボを買ったのは、「車おたく」だけでした。この人たちは、ボルボが(速度制限のない)スウェーデン式の運転に(80%が未舗装の)スウェーデンの道路で、(零下30度)のスウェーデンの冬に、ほんとうに耐えうるかどうか、試してみたのです。結果は---ボルボは立派に耐えぬきました。
彼らは、ボルボは良い車だと判定しました。ボルボは、ショールームを出て、そのままレース場に行き、そこでは、他のどのコンパクトカーよりも多くの勝利を収めました。
ボルボは、いまなお勝ち続けています。しかもそれは、きょう買ったばかりの新車だからではありません。ボルボは、ファミリーカーとしていまも使われ、酷使されているのです。それでも、ボルボは安全です。ハイウエーでも、ボルボは、普通価格のどのコンパクトカーよりも、あらゆる速度段階で抜きんでています。それでいて小型のエコノミーカーと同じように、 リッターあたり10.6km以上も走ります。
ボルボは、いまでは「タフな車」と呼ばれています。そして、今日米国に輸入されるコンパクトカーの中で、ボルボが最高の売れ行きを示しています。
あなたは、ボルボをいじめるつもりで運転することもできるのです。なぜって、ボルボは、2,565ドル---と、心理療法料よりもうんと安いのですから。




Drive it like you hate it.


When Volvo came to the U. S. from Sweden in 1956, Chevy was the "hot one," Ford was thc "safe onc" and Volkswagen was just catching on as the "funny one."
We'd like to say that Volvo immediately caught on as the "tough onc." It didn't.
At first only the "car nuts" bought it. They figured that if a Volvo could hold up under Swedish driving (no speed limits), survive Swcdish roads (80% unpaved), withstand Swedish would hold up under anything.
They figured right. Volvos were driven right off showroom floors onto race tracks where they proceeded to win more races than any other: compact ever made. they're bought today. Volvos arc now being used and misused as family cars. They're safe. And on the highway
they run away from other popular-priced compacts
in every speed range, yet get over 25 miles to the gallon like the little economy cars.
Volvo is now called the "tough one." And it's the biggest-selling imported compact in America today,
You can drive a Volvo like you hate it for as little as .$2,565. Cheaper than psychiatry.


上の広告のボディ・コピーの一節に、「ボルボが(速度制限のない)スウェーデン式の運転に(80%が未舗装の)スウェーデンの道路で、(零下30度)のスウェーデンの冬に、ほんとうに耐えうるかどうか、試してみた」というヶ所がある。
「速度制限」に関していえば、1967年9月3日を期しての右側通行に切り替えたときから、郊外の道路は、最高時速70kmに制限されたが、コピーでいうとおり、それまでは「速度制限」はなかった。
だから、70kmの速度制限が実施されて以来、タクシーやトラックの水揚げが20%落ちたという苦情が、スウェーデン各地で警察に持ちこまれていると、現地で聞いた。
この最高速度70kmは、人びとが右側通行に馴れるにしたがって80kmに緩和されたそうだから、いずれ、「速度制限のないスウェーデン式の運転」に帰るかもしれないが、20%の水揚げ減から逆算して、郊外に出ると、人々は時速85〜100kmで運転していたことがわかる。