創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(310) ボルボの広告(4)


2つの媒体---『日米コピーサービス』[ボルボ特集号]でのおしゃべりと、取材ものの拙著『ボルボ---スウェデンの雪と悪路が生んだ名車』(ブレーンブックス 1968.7.20)---。
2つの時間---ボルボ社の誕生時(1924年)のエビソードと、米国ボルボ社による1955年からの活動---。
2つの広告制作陣---米国初輸入時から数年の広告を手がけたカール・アリー広告代理店と、ここを出て行った人たちのスカリ・マケイブ・スロープスたちが新しくつくったキャンペーン---。
この輻輳を、理解しやすいように、どうさばくか---とりあえず、最初の『日米コピーサービス』の特集号のためのおしゃべりを終わらせて、輻輳の一つを解決することにした。 


『日米コピーサービス』299号のおしゃべり (つづき)


10年分の広告を集めて、それで読むに耐えるってキャンペーンは--- 
ボルボの米国市場向けの広告が始まったのは、1962〜3年(昭和37〜38年)ごろだから、 いま(1976)から13〜14年遡ります。
カール・アリーって広告代理店が手かけていましてね。そうそう、社名にもなっているカ−ル・アリーってご仁は、トルコ・ユダヤ系の人です。 そういういい方をすれば、 ダビッド・オグルビー氏はスコットランドユダヤ系、DDBバーンバックさんは東欧・ユダヤ系の子孫です。
いや、まあ、そんなことはどうでもいいことにして---。要は、どんな仕事を残したか、貢献したか---ですから。
で、このカール・アリー氏(写真)ってご仁、 ひと頃のマジソン街で清新の気をまき散らしていたPKLって、いま(1976)はたしかなくなったか、首脳陣がすっかり入かわってしまった広告代理店で、アカウント・エグゼクティブ(お得意先担当責任者)をやっていたのです。

chuukyuu注】 DDBを飛び出した3人---ハパート氏、ケーニグ氏、ロイス氏が設立したPKL代理店のことは、ジョージ・ロイス氏のところで触れたはずですが、いつか、機会をみて、拙著『アンチ・マジソン街の広告代理店PKL』(別冊『ブレーン』1967.7.20)の一部でも、このブログでご紹介することにしましょう。
拙著『アンチ・マジソン街の広告代理店PKL』

それが、ボルボのアカウント(勘定口座=お得意)一つもって独立したんです。
直接、 カール・アリー氏に質問した時の模様を再現してみましょう。(出典は拙著『アート派広告代理店』ブレーン誌別冊1968.10.15)


chuukyuu「PKLを辞めて、ボルボのための広告代理店をつくろうと決心した時のことを話してください」
アリーボルボか私に頼んできたのですよ。『うちのアカウントを君に頼みたいから、代理店を始めないか』ってね。それで『オーライ』って引きうけたわけ」
chuukyuu 「ボルボが代理店をさがしているというので、それで立候補したのでは?」
アリ− 「いえ。私の評判を聞いて---彼らが私のことを知ったのです。それで妬まれたのです。私は立候補しませんでしたよ」


いやね。いまから考えると、1960年代の米国の気のきいた広告代理店の間で流行していたもののいい方だってことがすぐにわかるのですがね。
この、広告主の側から頼まれたっていい方がね。実際は、どこかのレストランで落ちあって, やあ, やあって挨拶してね、何となく腹をさぐりあって、 それでアカウントをとるってやり方がほんとうのところだと思いますよ。ほら、ストックホルムのレストランで、グスターフ・ラルソンとアッサール・ガブリエルソンが50年前も昔にやった術(て)ですよ。
まあ、そんな方法論はどっちだっていいということにしておきましょうか。
いまの日本では、評判を聞きつけて、「頼むから、独立して、うちの広告を扱ってほしい」なんて話はありっこないし、できっこないんですから。


でね、ボルボのアカウントは、それから6年ばかり、カール・アリー社にいましたか。ええ、私がスウェーデンまで取材旅行することになった「程度のいい中古のVWを捜がしなら---」って広告は、カール・アリー社でつくられたものです。
ところがね、私がスウェーデンボルボの工場で取材している時, 同社の広告部長ラグナ一・スベンソン氏が、こんど米国ボルボ社の広告代理店を替えたよ---というのですね。
「どうして?」って訊いたら、
「常に新しいアイデアを求めているのでね」
ってどこにもさしさわりのないように答えましたっけ。
で、新しい代理店は、スカリ・マケイブ・スローブス---ここは、まだ、ボルボの広告を扱っているようですな。
ここもね、ボルボのために生まれたような広告代理店でしてね。昭和42年---つまり1967年ですな---に誕生しています。社名の、スカリ氏はアートディレクター、マケイブ氏はコピーライター、スローブスはアカウントマンです。
ケイブ氏もスローブス氏も、カール・アリー社にいた人物。
で、これは私の想象ですが、カール・アリー社でスローブス氏(写真)がボルボの担当をしていたのではないでしょうか。マケイプ氏はっきりと私に、「カール・アリー社ではボルボとSAS以外のアカウント全部をやっていました」と言明しましたから、彼が仕掛人じゃないことは確かでしょう(出典は拙著『劇的にコピーライター』誠文堂新光社 1971.3.10)
だいたい、コピーライタ一には、それまで勤めていた会社のアカウント(広告の扱い)を奪って独立できるほどのワルはそうそう、いませんよね。あ、 そうでもないか、メリー・ウェルズがいましたな。だから、女には気が許せない。(冗談)
また脱線しましたな。
とにかくね、ボルボって車はユニークな車なんですな。そりゃあね、広告がつくりあげたユニークな車ってのもありますわな。
でもね、VW とかベンツとか、 ポルシェとかシトロエンとか、サーブとかボルボなんてのは、車自体・・・というよりも、それをつくっている全社の考え方自体がユニークですよね。 ユニークでない車を広告でユニークそうに見せかけたコピーライターと、ユニークな車のユニークさをより強調したコピーライターと、どっちが上かって問題ですが、私なら後者をとりますね。
なぜかといいますと、広告でユニークさをより強調することによって、そのコピーライターはその会社をよりユニークさに執心させますものね。
ユニークでない車を広告でユニークに見せかけたって, それだけのことでしかないでしょう。本体を変えていないのだから。
こういう議論も、ここでは場ちがいでしたね。よしましょう、時代錯誤っていわれかねないから。
いやね、バカばなしをしていたら、また紙数がつきてしまいました。
実はね、私ね、もう一度『ボルボ』って本を書いてみてもいいな---って考えているんですよ。もちろん、スウェーデンまで もう一度でかけてね。

いえ、こんどはゴーテボーグへは行きません。ほんのちょっとは寄るかもしれませんが、取材の主体は、スウェーデン南部カルマ一に建った新工場になると思います。

あのね、この新工場はね、すごく、おもしろそうなんですよ。コンベヤーベルト生産方式をやめてね、1チーム6〜7人が広い範囲の一連の作業をカバーして組み立てるという画期的な方式を採用し、実験しているんです。この方式ですとね、人間が機械に従属しているという感じがなくなって、作業員は自分たちが自分の車を創りだしているという創造の喜びを実感できるっていうんですね。
3年ぐらい前からこの方式でやっていますからね、そろそろ答えがでた頃だと思うのですよ。取材テーマとしては、すごくおもしろいと思うんだなあ。だって、ことは、人間の創造意欲の問題でしょう?  広告1点つくる創造性なんてことよりは、うんとスケ-ルが大きいじゃないですか。
いやいや、広告にしましてもね、こうやって、13〜14年分のものを一堂に集めて見るとなかなかのものですがね。
だいたい、10年分の広告を集めて、見るに耐えるキャンペーンってのは、ほんとに少ないんですよ。ええ。

♪月は清水とねたという
 清水は月と寝ぬという
 あれ、寝たという
 寝ぬという
 田こごと
 月は田毎にあらわれる

【スカリ・マケイブ・スローブス社の手になる広告】


かくも安全だという
評判の車なのに、かくも速く
走る必要があるので
しょうか?


ボルボはずっと、合理的な生活観を持つ人びとのためにデザインされた、安全かつ健全な車そのものと見られてきました。
でも1976年型ボルボ240のハンドルの前にすべり込んだ人は、もっとすばらしい長所を発見することでしょう。
『ロードテスト』誌いわく、「運転の楽しい車である」。
今年、ボルボは燃料噴射式オーバーへッド・カム4気筒エンジンを、新しく導入しました。ふつうの運転の仕方---時速30→90kmに、びっくりするほど速やかに加速できます。
瞬発力の比較では、4気筒エンジンのボルボ242は、6気筒のメルセデス280にも勝ります。
ボルボにはまた、急カーブも楽にきれるラック&オピニオン・ステアリングもついています。そして高速で急カープを切っても、車体を安定させ、水平に保つスプリング・ストラット・フロント・サスペンション。4輪パワー・ディスク・ブレーキ。電動式オーバードライブ(指でポンと押すだけで、5段ギアに切り換えられる)のついた4段変速手動トランスミッションも注文できます。
これだけそろっていれば、ボルボは運転して楽しいはずです。でもやっぱり私たちは、車の反応が速ければ速いほど、そして操縦性がすぐれていればいるほど、安全だと思います。
だから以上の性能がほしいなと思った時も、すばらしく見えるでしょうが、本当に必要とした時こそ、もっとすばらしく見えてくるはずです。
ボルボ
考える人たちのための車。




SHOULD A CAR
WITH A REPUTATION
FOR BEING SO SAFE
GO SO FAST?


Over the years, Volvo has become the very symbol of the safe, sane automobile, designed for people with a rational view of life.
But anyone who slides behind the wheel of a 1970 Volvo 240 may discover it's something more.
As Road test magazine has put it: "This is one fun car to drive."
This year, Volvo has introduced a new fuel-injected, overhead cam 4-cylinder engine. It has extremely fast pickup in the 20-55 m.p.h. range where most serious driving is done.
In a comparison of passing times, a Volvo 242 with a 4-cyiinder engine was faster than a Mercedes 280 with a six.
Volvo also gives you rack and opinion steering to help you take life's curves. And a spring-strut front suspension designed to keep the car steady and level even if you take them fast. You get 4-wheel power disc berakes. And you can order a 4-speed manual transmission with electrically-operated overdrive(which lets you flip in and out of 5th gear with a simple]flick of your finger) .
All of which does, indeed, make Volvo a delight to
drive. But then again, we think the faster a car responds and the better it handles, the safer it will be.
So while many of these new performance features are nice to have when you want them, they're even nicer to have when you need them.Volvo
The car for people who think.


ボルボ
オーナー
プロテクション
プラン。


あなたの買ったばかりのポルポが、駐車場で他ので車のバンパーに衝突しても、大丈夫なよに、私たちは、何十台ものボルボを時速80kmでコンクリートの壁に衝突させました。
残念ながら、この車はそのうちの1台ではません。
でも、嬉しいことに、このボルボのドライバーは生きたままこの車を降りて新しい車を手に入れることができました。
ウインドゥシールドから後ろは、すこしも変形していなかったのです。
フロントエンドが衝撃を吸収してパッセンジャーコンパートメントを保護するように設計してあるからです。
そして、乗っている人がさらに安全なように、ボルボはスチールのケージで囲んであります。6本のスチールのピラー。屋根にボルボを6台乗っけられるほど頑丈で、ボルボのボディの肝要な役割を果たしています。
多くの自動車メーカーが車を守るために念入りなプランを練っています。
ボルポは、中に乗る人間を守るために念入りな設計をしています。


掲載媒体『ニューヨーカー』1974年7月22日号




VOLVO'S
OWNER
PROTECTION
PLAN.


Before your new Volvo so much as taps bumpers with another car in a parking lot, we'll have slammed dozens of Volvos into reinfoced concreyte barriers in tests up to 50 m.p.h. We're sorry to report that this wasn't one of them.
But we're happy to report that the driver of this Volvo was able to go out and get another one.
Note that behind the windshield, this Volvo has not been deformed.
That's because the front end is designed to absorb impact to protect the passenger compartment.
And to protect the passengers even further, Volvo surrounds them with steel cage. Six box-section steel pillars, strong enough to support six Volvos piled on top, are an integral part of every Volvo body.
Lots of car makers have elaborate plans for protecting their cars.
Volvo takes elaborate pains to protect the people inside.


NewYorker, July 22, 1974