創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(305) [クリエイティブの核心](10) by Bill Bernbach


パーンバックさんの4Aでのスピーチは、これでおしまいです。10回に分載したのは、1日に1項ずつ、6分間ほど、考察できたらいいと思ったからです。それと、スピーチの裏づけを広告作品で検証していただくためでした。
あす、鍛錬のまとめを掲載します。



アウディ5000を試乗するなら雨の日がいい」


アウディ・プロジェクト・準ディレクター;
フランツ・ベールズ博士とのインタヴュー


なゼ、雨の日に?
ベールズ:この車は悪条件下でも、車とはどんなにすばらしくあり得るかを示してくれるからです。天候が良ければ、たいていの車はうまく走れます。しかし、雨、氷、雷、あるいは強い横風の下では、話が違ってきます。そんな時にこそアウディ5000を試乗してもらいたいのです。ぬれたすべる道路で前輪駆動の車を運転したことがない人は、 きっとびっくりするでしょうね。駆動輪の上にエンジンがあるので、雨、雪、氷を問わず、すばらしい牽引力を発揮します。重心が前部により近くなるので、横風でも安定しています。


すべてが前輪駆動に起因するわけですか?
ベールズ:いいえ。しかし前輪駆動は非常に多くの長所を持っているので、合衆国のエンジニアでさえ「未来の車」にそれを用いているほどです。私たちの全社がもう40年以上もこのシステムを用いていることを考えるとおもしろいですが。


とてもこの車に誇りをお持ちのようですがいちばんの自慢は?
ベールズ:5気筒のガソT)ン・エンジンが第一です。4気筒の効率の良さ、6気筒のスムーズさの両長所を兼備させることに成功しました。しかも過度のノイズがなく、カサぱってもいません。私の同僚ホーク博士が発案者です。私たちは最初は笑っていたんですがね。


U.S.のエンジニアのことをおっしゃいましたが、デトロイトのエンジニアも雇いましたか?
ベールズ:はい。たとえば、エレクトロニクスの分野などで。クルーズ・コントロールアメリカから拝借しました。しかもスタンダード装備になってます。また米国のエアコンディショニングもすぱらしいと思い、最高のシステムを基に私たち自身のものを開発しました。私たちは常に他人から学ぶことはできますが、私たちの哲学は違っていると思います。


哲学か違うって?
ベールズ:ええ、米国人の多くは、車のローダビリティを良くし、乗り心地を良くするには、車を重くしなければならないと思っています。私たちは重量は無駄という考え方です。私たちは進んだエンジニアリングをもってして、同程度のロードホールディング、快適さ、安全性を確立することができます。また私たちはマーケテイングマンや分析にしばられたりしません。


その例をあげてくれますか?
ベールズ:米国のエンジニアはスタンフォードのチメシンコ教授の弾性論を実用化できる立場にいました。スチールビームを使えば、アコーディオンのように衝撃エネルギ-を吸収できると予測しました。最低のウエート・ペナルティで最大のエネルギーを吸収するという理論です。私たちはこの理論を研究し、十分にテストをくり返した上で、初めてそれを実際の車に応用することに成功しました。


また最初からやり直しができるとしたら、どこを変えますか?
ベールズ:そうですね。インテリアにもっと金をかけるかもしれません。もっと意匠に凝ることもできますから。もっとスマートにできたかもしれません。でもフードの下のエンジニアリングの刷新にお金をかけましたから、できるだけ明るく、静かにしようと努めたので、ドライバーも同乗者もリラソクスはできます。私自身では十分エレガントだと思ってますがね。


インテリアは良く見えますよ。ほかに年々加えるとしたら?
ベールズ:さあ。これ以上大型にしても無意味ですし。室内は充分に大きいし。トランクも大きい。$8,500としては、ドイツで最大の車なんですよ。パワーだってこれで十分。5気筒エンジンには十二分のパワーがありますから。


ありがとうございました、ベールズ博士。
ベーズル:レインコートと傘を持たせて写真を撮ったのはいいアイデアですな。車の宣伝に役立ちますよ。


掲載媒体; 1977年11月7日『タイム』誌




"WHEN YOU TEST-DRIVE THE AUDI 5000 SAVE IT FOR A RAlNY DAY"


AN INTERVIEW WITH DR.FRANZ BEHLES. ASSISTANT AUDl PROJECT DIRECTOR


Why on a rainy day?
Behles:In bad conditions, this car show how good a car can rcally be. In goodwether. nealy every car is good. But in rain, ice, snow or strong crsswind, it's a different story. That's the time to try the Audi5000. 1f you've never driven a frontwheel drive car on a slippery road, you're in for a surprise. The engine over the drive wheels gives excellent traction on rain, ice and snow. The center of gravity is closr to the front, the car is more estab in crosswinds.


Dose everything depend on front-wheel drive?
Behles:No. But front wheel drive provides so many advantages that even in the U.S. engine are using it in their sars of the future. It's amusing to us since our company has been using this system for over fortyyears.


You sound very proud of this car. What are you proudest of?
Behles:Our 5-cylinder gasoline engine it's a first. We have achieved the best of booth worlds: efficiency like a 4 and smoothness like a 6.And without excess noise or bulk. My colleague, My colleague, Mr.Hark, was right to insist,although we smiled when he proposed it.


You mentioned U.S.engineers. Would you hire a Detroit engineer?
Behles: Yes, for some things, electoroics for example. Cruise control wasborrowed from America. But we have it, as standard equipment. Also, we admired American air-conditioning, we developed ours based on one of their best systems. We can always learn from others, but I think our philosophies are different.


Different philosophies?
Behles:Yes. Many Americans feel that for a car to hold the road well and be comfortable, it has to be heavy. We feel that weight is wastfiul. We can achieve the same gegree roadholding, comfort and safety throgh advanced engineering. Also, were not bound by marketing men and stylists.


Can you give me an example?
Behles:American engineers had under their noses a theory of elastics by Prtof.Timoshenko, of Stanford. He predicted that a steel beam could be made to compress like an accordion and absorb the energy of an impact. The principle absorb the greatest amonunt of energy with the lowest weight penalty. We studied this theory and testded it thoroughly, and are first to apply it to an actual car.
(omission)


Thank you Dr.Behles.
Behles:It was very clever of you to photograph me with a raincoat and umbrella. I guess that kind of thing heeps publicize thd car.


Time, November 7, 1977

人間---この最も残虐な生物


最後の鍛練について説明してこのスピーチを終わりたい。
それは社会的鍛錬である。
この言葉は、私が考え出したものではない。私の好きな2人の英国人が使った言葉である。
その一人---偉大な精神病学者であり作家であるAnthony Storrは、人間の基本的性格について次のようにいっている。


人間が攻撃的動物であることは議論の余地がない。ある種のけっ歯類を除けば、人間以外に同種を殺し合う脊椎動物はいない。人間以外に同種に対して残虐行為を行なって楽しむ動物はいない。われわれは、人間の残虐行為の最もいやらしい例を獣的、獣のようなといった言葉で表現し、われわれより下等な動物の属性を連想させるようにしている。しかし、実際には、これら最も残虐性の強い行動は、人間に特有のものであり、同種に対してかくも野蛮な行為を行なう生物はほかに見当たらない。
われわれ人類がこの地球上で最も残忍な生物であるということ、そしてまた、われわれは新聞や書籍で人間による人間に対する残酷の記録を読んで身の毛がよだつ思いがするが、われわれは、内心ではわれわれのだれもがその心の中にそれと同じ野蛮な衝動があり、それが殺人、拷問、戦争の原因になっていることに気づいているということ--- これは厳然たる事実なのである


Storr氏は、われわれに人間の衝動の奥底を示してくれている。
もう一人の英国人---偉大な美術史家である Kenneth Clark は、有名なBBCの連続講演「文明」中で、人間の崇高性の極限についてこういっている。


「私は現代の哲人たちが拒絶した幾つかの信念を今なおいだいてります。私は混沌よりは秩序、破壊よりは創造がよいと信じています。私は暴力よりはやさしさ、復讐よりは宥恕を選びます。概して、私は無知よりは知識が望ましいと思います。そして私は人間の共感はイデオロギーより価値あるものであると確信しております。私は、最近の科学の勝利にもかかわらず、人類は過去2,000年間に少しも変わってないと思います。人間の良心について、私たちは歴史から学ばねばなりません。歴史は私たち自身なのです。私にはあと1、2の信念がありますが、それを簡単に説明することはできません。たとえば、私は、私たちが自己のエゴを満足させることにおいて人を傷つけることを避けるための儀礼を信じます。そして、私は、私たちが便宜上自然と呼んでいる偉大な統合体の一部であるということを忘れてはならないと思います。生きとし生けるものすべて、われわれの同族であります。とりわけ、私は神がある人たちに授けた才能を信じます。私はそのような人の存在を可能にする社会を高く評価します」


この講演「文明」について、彼はこういっている。


この連続講演には建築、彫刻、絵画、哲学、詩歌、音楽、科学、工学の天才の発言がおさめられています。しかし、それらは過去1,000年間にわたり、西洋の人間が達成した業績のほんの一部分にすぎません。その間、歴史は逆戻りをし、現代のような文明の破壊もありました。西洋文明は一連の再生の歴史です。 このことは、私たちに自信を与えてくれます


私としては、これにこう付け加えよう。
われわれビジネスマンは、おそらく現代において、最も偉大で、最も影響力があるかもしれない。 したがって、西洋文明がもう一度、輝かしい再生をするか、それとも、永久に息絶えるかを決定する上で、重要な役割を演ずることができるかもしれない。さて、 どちらを選ぶべきか。