創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(301) [クリエイティブの核心](6) by Bill Bernbach

なん度目のニューヨーク訪問のときだったろう? (40年前の前後、春・秋、毎年2度ずつ、DDBへ取材に行っていた。誰から頼まれたわけではなく、全部自費で。それで、パーカー夫妻と親しくなった。夫人のローリさんは、DDBのコピー部の副社長。さて、その年、ローリさんが「志願」を申し出たのは、米国対癌協会の公共キャンペーンだった。
ご自分も癌手術をして助かったことの恩返しのつもりと。公共キャンペーンには300件近い団体の申し込みがある。広告代理店は印刷・電波媒体の広告制作のための技術を個人的に奉仕、広告主の団体は紙型やフィルム代金を提供、メディアは紙面や放送時間を提供。ローリさんはこう言った。「車のフロント・ガラスにワイパーがついているでしょう? あのワイパーが雨滴をワイプ・アウトするように、私たちが生きているあいだに、癌を wipe out するための研究資金を集めるのよ」


私たちは、
あなたが生きて
いらっしゃる間に
癌を一掃
したいのです。


米国癌協会にご寄付を


日焼けもけっこう。
でも、癌には要注意。

日焼けした方がかっこいいと思ってらっしゃる
でしょう。健康的に見えますからね。
でもその健康的な輝きの下には皮膚癌が進行中
ということだってあり得るのです。
だから何時問も太陽の下にいたり、戸外で仕事
をしていて炎症が治まりそうになかったら、
すぐに医者にかかってください。
たいていの皮膚癌は初期に放射線をあてれば
直ってしまいます。
肌の弱い方は何かで肌を保護しましょう。
今までのところ無事だった方は、今年は大陽の下
で過ごす時間を少なめにしてください。
長い目で見ればその方が身のためです。
私たちはあなたが生きていらっしゃる間に、
癌を一掃したいのです。
アメリカ癌協会にご寄付を。




You can get tan.
And you can get cancer.


Maybe you think you look better tan.
Tan looks healthy.
But under that healthy glow you could be
giving skin cancer a head stat.
So jf you spend a lot of time in the sun, or
if you work outdoors and you have a sore that doesn't
seem to heal, see your docior. Almost all skin
cancers can be cured if diagnosed early.
If you have fair skin, cover up.
And if you've been lucky so far, plan on a little
less sun this year. You'll be better off for it
in the long run.
We want to wipe out cancer in your lifetime.
Give to the American Cancer Society.


「クリエイティブの核心」
ウィリアム・バーンバック氏 (坂本登 訳)
AAAA(全米広告代理業協会) 1971年 年次総会スピーチより


”ハードセル”とか
     ”ソフトセル”は忘れなさい



われわれは、これからは消費者という王様に栄養のある料理だけでなく味のよい料理を出さねばならないが、同時にまたこの消費者は教育があり、洗練されていることを認めざるを得ない。6歳の子供は12歳の精神年齢に達している。米国民は賢い国民なのである。
印象深く話をすることは大変な仕事である。しかし、それはペイする。
”ハードセル”とか ”ソフトセル” という言葉は忘れなさい。混乱
するだけである、ハードセルというのは、広告の外観、調子とは関係がない。関係があるのは、どれだけ売上げをもたらしたかである。気にしなければならないのは、広告によって何か実質的なこと、消費者の知識となり、役に立つことをいうということである。
そしてそれを新しい方法でいうことである。広告のインパクト----別の言い方をすれば広告効果---は広告プレゼンテーションの独創性と正比例する。
今では「ユニーク・セリング・訴求ポイント」だけでは十分でない。ユニークな”売る”才能がなければ販売訴求ポイントも死んでしまう。
では、どのように美学的鍛練は行なうべきか? 広告に投下する費用をペイさせる、つまり消費者を立ち止まらせ、得するコミュニケーション技術を向上させるために、代理店と広告主は何をすべきなのか?


chuukyuuの邪推】
DDBは人材の宝庫で、ここから高級給で引き抜かれたり、独立していくクリエイターが多かった。メリー・ウェルズもそのひとり。
バーンバックさんは、独立して新しい広告代理店を創立した教え子の設立パーティには顔を出して祝ってあげていました。
ところが、メリー・ウェルズのときには、顔を出しませんでした。マスコミへ向けての、メリーの反バーンバック言辞を、内心、ニガニガしくおもっていたんでしょう。
そして、当ブログのメリーのところで紹介した彼女の言辞「DDBのソフトセルでは売れない。ハードセルじゃなくちゃあ」は、一部の業界人の喝采を得たが、これに対して、公の席で、バーンバックさんはピシリとたしなめたんですね。きょうのスピーチ内容はそう思って読むと興趣津々。


chuukyuuアナウンス】
明日は、
クリエイターには、エディターが必要



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