創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(296) [クリエイティブの核心](1) by Bill Bernbach

ホワイト・サルファー・スプリングスで開かれたAAAA(全米広告代理業協会)の 1971年年次総会で、DDBのウィリアム・バーンバック社長がおこなったスピーチの要旨です。(かつての『ブレーン』誌・坂本登 編集長:訳)
chuukyuu補)スピーチに入る前に、この広告をご覧ください。あたかも、バーンバックさんの4Aでのスピーチを証言するかのように、1971年11月19日号の『ライフ』誌に出稿されました。オーバック氏は、DDBの創業以来のクライアントであるオーバックス百貨店のオーナーです。オーバックスの広告群も当ブログすででに紹介しています)
この広告は、スペース販売のDDBの功績を謝して『ライフ』誌から贈られたスペースです。


「私にすばらしいアイディアがある。
それは真実を告げることです」
N.M.オーバック


ドイル・デーン・バーンバックは22年前、最初のクライアントからこの助言をいただき、現在も服膺しています。
それは夢のような利点をもったアイデアです。

まず第一に、 うしろめたさがなくなります。
第二には、従ってラルフ・ネイデーも手が出ません。
第三には、動く商品について、真実を告げることは最上の広告手段です。

無論、真実を告げることは必ずしも容易でありません。DDBの問題のいくつかは、容易に見えました。それでも事実を告げるためには、多大の勇気を必要としました。
当社が現在広告をつくっている車を例にとりましょう。
この車は、当初から、デトロイトに馴れた目には、奇妙な小さな生きものに見えたようです。
実際、かぶと虫のように見えました。
そこで、かぶと虫と呼びました。
当社は車を売りました。
また私どもが「ナンバー2」と自称しているレンタ・カー会社。これもまことに非アメリカ的でした。
消費者に強く印象づけるには、たいてい、最大の---最高の--- といった形容詞を使わなければ不可と思われていました。何かそういうものを---。
私どもは真実を告げることにチャンスを求めました。
当社は車を貸しました。
ローン利用の宣伝をしてはどうかと助言してくれた銀行家もいます。
しかし低利率ローンを宣伝する代わりに、当社は、1400語、2400行の広告をつくり、ローンだと、払い切れなかったとき、どんなことになるか、その不利な点をはっきり書いたのです。
といっても、だれも読んでくれなければ三枚目のコピーでした。ですよね?
しかし訴える力のあるコピーは読まれるものです。
これを読んでくれた人びは、銀行ローンをおびやかしただけでなく、ウワサはウワサを呼び、このコピーを求める人は10万人にも及びました。
情報も真実の言葉になります。
潜在的消費者に情報を提供することは、宣伝の第一歩といえるでしょう。これは依然として最も重要な仕事にはいります。
信じてもらう、銘記してもらう、時には楽しんでもらう---これが大事です。
それゆえ、ドイル・デーン・バーンバックでは(この広告も含め)広告宣伝には大いに力を入れています。
広告は「ホット」でも「クール」でもなく、誠実一筋を旨としています。頁の上では、ありのままの姿をごらんいただいています。
あなたの商品であり、広告なのです。
たいていの方は,宣伝・広告といえば一抹の疑惑の目をもって見るのがふつうですが、それだけに真実を訴えるのはむずかしいといえるでしょう。
事実、広告は長い間にはイメージ・ダウンさえもたらしうるのです。
私どもも正直いいまして、楽園で商売しているとは夢々考えていません。
世間の目は抜けません。
だから真実を申すのです。


この22年間、当社は同じアイディアでやってきました


『ライフ』1971年11月19日号




"I got a great gimmick.
Let's tell the truth."
N.M.Ohrbach


Doyle Dane BernbachWas given this advic 22 years ago byour first client,anwe still like it.
It's a gimmick with fantastic advantages.
In the first place, you go to heaven. In the second place, Ralph Nader can't lay a glove on you. And in the third p1ace, telling the truth is the best known way there is of moving merchandise.
don't Of course, telling the truth isn't always easy. After the fact, some of DDB's problems look so tough. But, at the time, it took a lot of stamiNa to use our gimmick.
Take that automobile we do the advertising for. Back in the beginning, that car was a strange-looking little creature to Detroitc-cnditioned eyes.
In fact, it looked like a beetle.
So we called it a beetle.
We sold cars.
Or take that rental car company wecalled "number two." That was practicall Un-American.
The consumer wasn't supposed to be impressed unless you called yourself the biggest or the fattest or the most important. Something. We took a chance on truth.
We rented cars.
We have a bank client who asked us to advertise mortgage loans. Instead of advertising low-cost, mortgage loans, we prepared a 1400-word 2400-line ad describing all the terrible shocks and blows you're subjected to at a mortgage closing.
That was doubly ridlculous inasmuch as nobody reads copy. Right?
They read copy when you're copy telling them something.
Not only did the bank's mortgage busines shoot up,they were able to spread their name all over town because of some 100,000 reprint requests.
Another word for truth is information.
Supplying information to potential customers is where advertisihg started.And it's still the most important job. Done pelievably, memorably, entertainingly, sometimes, but done.
That's why, at DoyleDane Bernbach, we pay as much attention to print today as we ever did (including this ad).
Print is neither "hot" nor "cold.~ It's honest. Inherently. You're out there on the page, naked, without so much as a guitar.
Just you'ere product and the word.
And you're out there with that ordinary man in the street who's turned into a consumerist skeptic and who's learned to spot a hedge three columns away.
And with print, he can take a long, slow, devastating look.
We've got a confessionlfes to make; it's go nothing to do wioth heaven.
People ars as smart as we are.
That's why we tell the truth.


We've been using the same gimmick for 22 years,now.


LIFE, November 19, 1971


>>エイビスは、業界で2位のレンタカーです。それなのに、お使いいただきたい、その理由(わけ)は?
>>Avis is only No.2 in rent a cars. So why go with us?

>>不良品。
>>Lemon.


きょうのスピーチのタイトルは「クリエイティブの核心」であるが、私にいわせれば、その核心とは"鍛練"である。
われわれがビジネス社会において生きていくためには、たくさんの鍛練を積まねばならないが、最も基本的な鍛練は、われわれの目的、われわれの目標は"売る" ということだということを常に意識していることである。
ここからすべてが始まる。どんな分野----それが科学であろうと芸術であろうと---においても成功の度合いはどこまで自分の目的を達成したかによって測定される。
繰り返しになるが、広告の目的は"売る"ことである。
クライアントが金を払うのも、広告が"売る"という目的を持っているからである。
もう、あなたが思いついたどのアイデア、あなたが書く一語一語、あなたが撮る一枚一枚の写真に、この目標が浸みとおっていなければ、あなたはニセモノだ。
あなたはこの商売から足を洗うべきだ。


シェイクスピアはどうしたか

クリエイティブ・マンの読者で、オレはマス(大衆)に売るなぞはマッピラだ、もっと次元が高い仕事をしている、と思っている人がいたら、私は、Marchette Chuteの名著"An Introduction to Shakespeare"(『シェイクスピア入門』)中の次の文節をよく読んでもらいたい。


シェイクスピアは一般大衆に絶大な人気があったが、当時の文芸批評家は彼を重要な作家とはみなさなかった。ある作家が普通の人々に人気がある場合、平凡な批評家にはその作家が本当に重要な作家であるのかどうかを見きわめがたい」
「当時の劇作家でシェイクスピアの無とんちやくな文章をひどくいやがった人がいる。ベン・ジョンソンである。彼は英国演劇界に”純粋な”悲劇と”純粋な”喜劇を復活させる決意をしていた。ベン・ジョンソンは、シェイクスピアには技巧がないといったが、これはシェイクスピアはルールに従わないという意味であった。ジョンソンは『ジュリアス・シーザー』中のある文句にしつこく反対した。そのためシェイクスピアは、ジョンソンの気に入るようにその部分を変えたほどである、この劇に出てくるある人物のいう文句に『シーザー、汝は私に悪いことをした』というのがある。これに対しシェイクスピアのシーザーは『シーザーは悪いことはしていない。ただ目的があってやっただけだ』と答えている。ジョンソンは、この文句は馬鹿げているといった。論理的でないというのであった。ジョンソンは、独裁者は大抵の場合論理的ではないということを忘れていたのである。ジョンソンは、シーザーを原稿用紙の中にきちんとレイアウトされている登場人物と考えていたのだが、シェイクスピアは、シーザーを生身の人間として考えていたのだ」


エリザベス朝時代の演劇の人気は、ちょうど今のフットボールや野球のそれと似たものだった。演劇は大衆娯楽の王座にあったのである。
シェイクスピアは俳優出身だったので、大衆が自分の所属する劇場を支持してくれるようにと大衆にアピールする芝居を書くことに専念した。
彼にはそのようなはっきりした目的があった。
だから彼はクリエイティビティのルールには関心がなかった。彼は気どらずに自分の仕事をうまくやった男なのである。
彼は教養にじゃまされずに自己の天分を発揮したのである。


予告】明日の小見出しは、「コピーライターは長髪にすべきか


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