創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](2-3)

こういう形式的なことが好きなコピーライターは多くはありません。「そんなことは、きちんと頭の中にしまってあるよ」って言いがちです。が、新しいチームに仕事をゆずりわたすことだったあります。あなたが有能であればあるほど、次の仕事が期待されるので、あなたは、つねに新期開拓者になる運命なのですから。




>>[効果的なコピー作法]目次


(第2章 コピーのプラン 第3節 コピー・プランのつづき)

臨時に、テーマの検査を、ちょっと異なった視点からあつかった1点のを挿入します。

どの新車も、少し使われて出てきます。


フォルクスワーゲンにぴったりの道路は、でこぼこ道です。障害がいっぱいの道です。
それをうまく乗り越えるものもあれば、失敗してしまうものもあります。
うまく乗り越えた車は、8,397人の検査員の手で綿密に点検されます(このうち807人が気むずかしい女性検査員です)。
16,000もの異なった点検を受けます。
特別につくられてテスト台の上で、5kmの走行テストを受けます。
すべてのエンジンが使いならされます。
すべてのトランスミッションも。
製造ラインから引き抜かれて行くかぶと虫もたくさんあります。それらの使命は、売られることでなく、テストを受けることです。
漏れないかどうかを確かめるため、水の中を通します。
サビないかどうかを確かめるため、ぬかるみの中、塩の中を通します。
手動ブレーキ、クラッチのテストのため、山を登らせます。
乗り心地のテストのため、強風トンネルを通し、6種類の道路状況の上を走らせます。
トーション・バーか゜うまくねじれるかどうかを確かめるため、100,000回もねじります。
鍵穴からこわれてこないかどうかを確かめるために、鍵を25,000回も回します。
そういったことが次々に行われるのです。
毎日、200台のフォルクスワーゲンがハネられています。
きびしい検査です。


さて、きのうの【例・7】のチョークで車体いっぱいにチェック・マークを描いた広告のコピーをつくったライターの立場を推測してみましょう.


彼の手もとに回ってきている広告企画書は、たぶん、こんなふうな箇条書きか、これをもうすこし詳しく解説したものであったと思います。

(1) VWは正直な車であることを強調するため、工場における厳密な検査システムを周知させる。
(2) VWは米国的大型乗用車の客層とは異なった虚飾とゼイタクさに心理的抵抗をもつ、中産階級以下の知識層を中心とした客層に主として売りたい。
(3) したがって、年ごとの無意味なモデル・チェンジをして、客の経済的負担をかえりみないような愚かな政策をとらないことを強調したい。
(4) しかし、必要な改良は、年式とは無関係に即刻行なっていることを啓蒙する。
(5) にもかかわらず、価格は据え置きで、しかも割安であることを強調する。
(6) しかも、中古車も新車価格なみで奪い合いになっていることを啓蒙する。
(7) サービスが徹底しており、どの年式のものの部品も完全に揃っており、かつ、その交換時間はとても短かく、しかも部品価格が安いので、客にとって有利であることを確約する。
(8) 米国においてはなじみのうすい、空冷式エンジン、およびリア・エンジン方式の有利性につき徹底的に啓蒙する。etc.

といったものではないかと推測します。つまり、これが広告の目的であり、これは、VW社の運営方針から生まれ、米国市場というマーケットに適するようにプランニングされたはずです.
こうした企画を手にしたコピーライターはどうしたか。

彼はまず、この企画書のいくつかの項目をバラバラに解き放して、 1つの広告には、そのうちの幾項目くらい盛り込めるか検討します。そして、その組み合わせをつくります。コピー・プラットフォーム copy platformをつくるわけです。
つぎに、その組み合わせた項目の中で、それぞれの広告で主題とすべき項目を決めていきます。

なぜ、この鼻がずんぐりしているかって?


VWは、エンジンが車の後部にはいっているので、長いフロント・フードを必要としないのです。
これが、あなたに、長鼻の車にまさる2,3の利点を提供できるユエンなのです。
鼻が短いと、短い車ができるのが道理ですね。
そこで、あなたは、車が混んでいてもすり抜けられますね。また小さな駐車場所への出入りも自由ですね。
そういう時にフェンダーをかするようなことも、全くなし。なぜって、VWの短いフードなら、道路での鼻の下がよく見えるからです。
問題はこうです。VWに関するかぎり、そうあるにはすべて理由がある---改良も含めてね。
あなたが、何年間もVWに乗っていらっしゃらないかぎり、この車のフル・シンクロメソシュ・トランスミッションのことはおわりにならないかもしれませんね。
また、私たちのエンジンが、より完全でより強力になったことも。
そのほか、3,012ヶ所の内部の改良のことも。
外観についてだけいえは、VWは同じに見えますが、その内部は変わっているのです。
VWがあまり値下がりせず、くる年もくる年もスタイルを変えていない理由もここにあります。
鼻を含めてすべてのことが。


「なぜ、この鼻がずんぐりしているかって?」の場合は、(2)の米国的大型乗用車の虚飾とゼイタクと、(4)の必要な改良は即刻行なう---といった項目をミックスしてテーマとしてるハズです.

この方は、33年後にかぶと虫を手に入れました。


1台目のフォルクスワーゲンを買うのに、33年間もお待ちになる方がめったにいらしゃらないのは、私たちにとって幸いなことです。
けれども、アルバート・ギリスさんはお待ちになったのです。多分、いつも正しい考え方をしていらっしゃったのでしょう。ギリスさんの場合、33年間、新車の必要がなかったのです.
ギリスさんと1929年A型フォードとは、お互いにうまくやってこられした。
ギリスさんは、修理をご自分でなさり、夜中にタイヤを直すためにジッキを持ちだしたこともありました。
去年、新車が必要になったとき、出かけていってフォルクスワーゲソお求めになりました。
「長持ちするって聞いたので」とギリスさんは説明しました。
ギt)スさんはVWが好きなんでしょうか?
彼は78歳の治安官。せっかちな判断はしません。
「お宅の検査員はまったくよく検査しますね」ギリスさんが言ったのそれだけ。
けれども、ギリスさんは、奥さんと54回めの結婿記念日に旅行をしたとつけ加えました。
お2人は10,800km走り、ガソリン代62ドル、オイル代55セントを払ったそうです.
「オイル焼けするかもしれないとは思わなかった」そうです。


「この方は、33年後にかぶと虫を手に入れました」の場合は、(1)の検査システムと、(2)と(8)の空冷式エンジンの経済性の項目をミックスしているハズです。
W・ダンの目的の種類からいえは、心理的目的の(ロ)、(ニ)、(ホ)、(-)、(チ)、(リ)、(ヌ)に関係し、M・デポーの広い層を相手とした間接的広告をつくることを目的としています。
しかも、その目的達成のための手法としては、じつに申し分がありません。
ボディいっぱいにチョークで印をつけた、 「VWの検査回数」の広告にしても、車の前部だけがあって全体を見せない「ずんくりした鼻」の広告にしても、視覚的に読みも手の目を止め、かつヘッドラインが興味深い書き方で、しかも謎めいているので、読み手はついボディ・コピーに誘いこまれてしまいます。広い層を相手とする広告は、リーダシップを高めるコピー・テクニックを用いなければなりませんが、この2点の広告は、その責めをりっぱに果たしているといえましょう。

さて、私はいま、 コピー・プラットフォームという言葉を使いました。日本では耳なれない用語ですが、コピー・ライテイングの上から、大切な用語です。
コピー・プラットフォームというのは、広告の目的書や企画にしたがってコピーライターが作成しなければならない表で、製品利便(ベネフィット product benefits)を製品特質(アトリビュート productattributes)で証明した、 コピーの貸借対照表とでもいいましょうか.
フォルクスワーゲンの例でいいますと、「検査回数」と「不良品」のヘッドラインおよびコピーは.

製品利便  ┃  製品特質
不良品をつかまされる不安がまったくない  ┃  徹底した検査システム(具体的事実)
長持ちする(維持数が少なくてすむ)  ┃  入念な仕上げ(具体的事実)
売るときに有利  ┃  中古価格が高い
現在乗っている車が旧型ににならない、
したがって肩身のせまい思いをしないです
 ┃  外観のモデル・チェンジは20年間していない


といった、コピ−ライターのつくったコピ−・プラットフォームによっていると想像されます。
コピーライターは、 コピーを書きはじめる以前に、 コピー・プラットフォームを作成しておくと便利であるばかりか、1つ1つの広告が、ワーゲンのいくつもの広告のように、制作する時期が異なっても、同じ基調のコピーを書くことができるので、印象の積み重ねがきき、有効です。


【第2章は、明日の[コピー・フォーマット]の項で終わります。】