創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(271)ダヴィッド・オグルビー氏とのインタヴュー(5)

このインタヴュー記事は、5人のトップをきって、1965年3月16号の週刊『アド・エイジ』誌に掲載され、大きな反響をまきおこしたと、当時の記録にある。『アド・エイジ』誌は、米国の広告代理店の経営陣が読む新聞形式の雑誌である。ふつうのクリエイターはあまり手にとらない。1人1号の大特集であった。5週が終わると、単行本にとの声が、クリエイターたちからも起こった。経営層・クリエイターたちが一致して求めたのである。極めて異例の事例であった。
今日の章もC.E社の制作プロデューサー水口さんと黒木さんの志願による入力です。これを読んで有意義のアーカイブと感じた人は、若いご両所へ感謝の言葉をコメント欄へ残してください。


>>ダヴィッド・オグルビー氏のインタヴュー 目次


 例を一つ話してくれませんか。
オグルビー 人によっては評判が悪かったと思うかもしれませんが、私は15年ほど前に、オースチンの自動車の広告を書いたことがあります。ヘッドラインはこうでした。「オースチンに乗って節約したカネで、息子をグロトンへやっています。」この例は、ある外交官の場合として書いたものです。当時、私はワシントンのイギリス大使館をやめたばかりで、私自身が「ある外交官」だったわけです。車はオースチンを使っていましたが、学校へやる年齢の息子がいたので、経済的なオースチンなら、乏しい中から子どもを寄宿学校へいれる余裕ができるだろうと思ったからです。これはほんとうの話でたしかです。最初の話にもどると、どんなコピーライターでも、興味のない場所や商品について、説得力のあるコピーを書くのは難しいことです。不運なことに、大部分のコピーライターは仕事を選べる立場にありません。もっとも、成功して名を成した連中なら、ある程度その自由もあるでしょう。代理店の経営者になると、自分の仕事を選べるという点ですばらしい立場です。コピーライターに仕事を与えるときは、彼らがうんざりするアカウントでなく、感覚的に熱中できるアカウントを担当させるべきだと思います。
つまり、あなたの家族、妻、友人、ディナー・パーティーで会った人、世間一般の人に、その商品を使うように説得したいと心から思わなければ、どんなセールスもできないということです。本気で信じていなければ、説得できるものではありません。本当の気持と関係なく、生活のためだけでは、いいコピーは書けません。商品を信頼することです。青くさいと思われるかもしれませんが、これはきびしい現実です。
 広告業界でのご経験から、またコピーのスーパーバイザーとしてみて、これが創造的な人間だとわかるような、はっきりした特長に気づかれましたか。実際の作品以外にですが。
オグルビー 16年間も、そうしたすべての創造的な人間に共通の特色がないものかと探しましたが、やはり見つかりません。もし、5つか6つの特長が見つかれば、人を雇う場合にもうまくいくでしょう。たとえば、
(1)好奇心
(2)豊富なボキャブラリー
(3)視覚面に強い……
といったリストをつくり、こうした特長をもった何百人と面接して、適任者を雇うことができるはずです。しかし、共通の特色など見つかりませんし、どんな教育を受けた人が優秀なコピーライターになるかも知りませんね。
たとえば、クロード・ホプキンスの説では、大学教育を受けた者には大衆向けの広告は書けないということでしたが、これは馬鹿げています。
むしろハードワークこそ優秀なコピーライターの特質でしょうが、それも確信はありません。当社には50人ほどいますが、一年をとおして一つでもほんとうに成功したキャンペーンがあれば、優秀な人材だと思います。これ以上はわかりません。
私の代理店では、コピーの書き方、優れたコピーライターの資質について、一般的法則を懸命に探していますが、どうもハカバカしくいきません。
(つづく)


chuukyuu注】このインタヴューの訳者は、TCCの大ヴェテラン・清水啓一郎さんです。清水さんにも労を謝するコメントを。