創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(152)『コピーライターの歴史』(番外−2-2)

50年近く前、ジーグリード『現代』(紀国屋書店(?))をむさぼり読んでいた。「広告の時代」「秘書の時代」などの章につづく、「大衆遊覧旅行の時代」に、1年間に国境を越える国民の人口比が記されていた。米国人とカナダ人が40%台(カナダ、米国、メキシコ・南米、カリブ海、アラスカなどが互いに隣接している)、インド人が3%(パキスタンミャンマーなどが隣接)だったのに、日本人は0.3%だった(四辺が海のほか、300ドルの外貨持ち出し制限中)。そんな中でのELALイスラエル航空の、このトラベル・エイジェントの広告は高嶺の花だった。それから数年後には『繁栄を確約する広告代理店DDB』(1966)に、ELALのキャンペーンについての下のような解説を書いている。世は、「ノーキョー群団各国を巡る時代」になっていた。


>>『コピーライターの歴史』目次

旅行代理人は何をしてくれるのでしょう?
(そして、払うのはだれでしょう?)

→上段・左から右へ→

彼は、あなたの頑痛のタネを全部,引き受けてくれます。

旅行代理人は、パスポート用の写真を撮る以外のことは、ほとんどどんなことでもして差し上げるためにあります。 どんな連絡でもつけてくれます。あらゆる予約を取ってくれます。あなたが空港で落ち合えるように手配してくれます。詳しい旅程表を手渡してくれます。キッブといっしょにね。その旅程に見合っただの証明書のつづりも。このタイプの特別注文の旅行(計算するのに最も時間のかかるタイプ)には、旅行代理人は、サービス・チャージを加算してしいま。もしあなたが彼を通じてパッケージ・タイプの旅行をお買いになるんでしたら、そのきまった料金だけをお払いになればよいのです。


彼は、あなたの飛行機のキップを取ってくれます。

旅行代理人は、すべての航空会社に関する最新の情報をもっています。どの航空会社が最も親身なサービスをしてくれるか、どこの社の飛行機が最も速いかを、さっと教えてくれます。途中下車を最大限に利用して、予算外の市を見物するにはどうしたらよいかを教えてくれます。等級によるサービスの違いを説明し、いちばんおトクな等級も教えてくれます。旅行代理人の手数料は航空会社か船会社から払われるのです。旅行代理人を通じてキップを買っても余分なお金はかかりませんよ。


彼はホテルを予約してくれます。

旅行シーズンにヨーロッパ-行ったことのある人ならみんな、予約なしで行けばロビーで寝るはめになるよと忠告なさいますね。旅行代理人は、予算にあったホテルをさっと書き出してくれます。そして、どんな部屋を注文したらよいかも知っています。しかも、彼のサービスに対して、ちゃんと引き合うだけの歩合が返っていれば、ホテル予約の手数料をあなたからいただくこともありません。そうでない場合に限って、サービス・チャージを加えるだけです。


彼は、あなたの財政顧問として活躍します

あなたの旅行代理人は、各国の税関や通貨にも精通しています。あなたが持ち込めるもの、特ち出せるものについても、あなたが外国でお金を節約できるように外国の交換事情の摘要も喜んでつくってくれます。予防接種についての正確な知識ももっています。どこの国がビザが必要かも。旅行者用小切手や、荷物や旅行者保険の手配もしてくれます。しかも、出発前にあなたがご自身で走り回らなくてもいいようにちゃんとしてくれるので、ゆったりと待っていらっしゃればいいのです。


彼はいちばんいいところを知っています。
今度のバケーションでなさりたいこととそうでないことを、はっきり彼におっしゃってください。どれぐらいお金をかけるつもりかも。つぎに彼の案を出させてどらんなさい。あなたが考えてもみなかったようなすぼらしいアイデアを。、いくつももってきますよ。すてきな場所(まだ荒らされていない土地)のいくつかを、旅程に組み入れてもくれます。それから、どこは避けたほうがいいとか、レストランのチップ、チップのチップなど---。旅行代理人は、その任務を全うするために自分でもよく旅行をしているプロだということをお忘れなく。


彼は期待すべきことを教えてくれます。

旅行代理人から得られる最も価値あるサービスは、体験に基づいた公平なサービスです。たとえば行先を欲ばりすぎて無理していないかどうかもみてくれます。パリのそのホテルのサービスがよいか悪いか.あるいはよくも悪くもないか、リビエラのその場所は公式の場かくつろげる所か---つまり、あなたのご希望どおりの旅行の仕方をちゃんと教えてくれます。よい旅行代理人は、あなたのバケーション・ミステークに対する最高の保険です。




Just what dose a travel agent do for you?
(and who pats him?)


>> uper from left to right >>

He has all your headaches.

The travel agent is prepared to do almost everything for you but take your shats. He figures out every last connection. He makes all the reservations. He arranges for someone to meet you at the airport. He hands you a step-by-step itinerary. Your tickets. A book of vouchers to match the itinerary. For a custom-built tour of this type (the most time-consuming to work out), the travel agent adds a service charge. If you buy a package tour through him, you pay only the established price.


He gets your plane tickets.

The travel agent has the latest information on all the airlines right at his finger tips. In a few moments, he can tell you exactly which airline has the most direct service, the fastest planes. How to see extra cities by taking full advantage of free stop-overs. He can explain the difference between euch class of service, and how to get the best buy. The travel agent receives his commission from the airline or steamship line. It doesn't cost you a penny more to buy your ticket through a travel agent.


He gets your hotel reservations.

Anyone who's been to Europe during the peak seasons can tell you that if you haven't made reservations in advance, you may wind up sleeping in the lobby. Your travel agent knows the most desirable hotels in each price class, and he knows what kind of a room to ask for. He won't
charg you for making hotel reservations if the commissions earned are enough to cover his out-of-pocket costs and give him a reasonable profit. Otherwise it may be necessary (or him to add a service charge.


He acts as your financial advisor.

Your travel agent is familiar with each country's laws on customs and currency. What you can take in. What you can take out. He'll be glad to give you a briefing on the foreign exchange situation that will save you money abroad. He has accurate information on inoculations. Which countries require a visa. He ananges for traveler's checks, baggage and travel insurance. And he can get you the forms you'll need so that you can relax before you go, instead of running yourself ragged.


He knows the best places.

Tell him exactly what you want out of your vacation, and what you don't want. How much you want to spend. Then let him give you his recommendations. He'll have some good ideas that may never have occurred to you. Exciting spots (some off-the-beaten-path) that you can fit into your itinerary. Places to avoid. Tips on retaurants (and not necessarily the most expensive ones). Tips on tipping. Remember, the travel agent is a pro who makes frequent trips himself to keep posted.


He can tell you what to expect.

The most valuable service you get from a travel agent is impartial advice, based on first-hand experience. He should be able to tell you, for instance, whether you're trying to cover too much territory. Whether the service in that hotel in Paris is good, bad or indifferent. If that spot on the Riviera is formal or informal. He can tell you which tour is most likely t.o have what you're looking for. A good travel agents just about the best insurance you have against vacation mistakes.


【『繁栄を確約する広告代理店DDB』(1966)より】
ELAL イスラエル航空 解説 ELALは、1957年春、DDBのクライアントになりました。そしてその年の12月5日付けのニューヨークタイムスに「広告:海がちぢまる」と題するカール・スピールポーゲルの記事が載りました。
「ELALの幅広いキャンぺーンは明日から始まる。広告は、同社が12月23日から就航させる大西洋横断の新しいタービン・プロペラ機に人びとの目を集めるであろう」
という書き出しで、例の海の写真を破った1ぺ-ジ広告を紹介し、これがDDBによる最初のキャンぺーンである旨と、1ヶ月の大量出稿のあと、もうすこし小さな広告による定期出稿が準備されていることを報じています。
海の写真を破るという、直截で大胆で新鮮なアイデアは、バーンバック社長のものらしく、ホテルのレストランで両親との昼食を終えてオフィスに帰る途中に思いついた---という伝説が伝わっています。また、氏はこの広告について、「私たちはいま、たいへんすばらしい機会をもっていると思う、というのは、ELALはたしかに何か新しいものをもっているからである。ほとんどの航空会社の広告が[より早い]と言っている以上、私たちはそれを、視覚的に、印象的に描写することにしたのである」と、スピールポーゲルに語っています。
1966年5月に来日したときにも、バーンバック社長は海の広告を示して「この広告が出るやいなや、ELALに電話が殺倒して、6本増設しなければならなかった」と打ちあけました。
同じ会場でバーンバック社長は、この広告について「旅行代理人が航空会社例側を支持してくれれば、 これほど有利なことはない、と考えて、 この広告をつくった」と言って、「消費者のために、もっとも確実な、もっとも信頼される情報を流す広告をつくることこそ重要」との考えを具体化したものだと言いそえました。
それほど強力な航空会社でもなく、それほど充実した路線を所有していなかった当時のELAL にとって、この旅行代理人に味方した広告の効果は大きかったろうと、容易に想像できます。
最近、ELALのピーター・ブラウンズウィック広告部長(米国地区)が、『アド・エイジ』誌の「DDB方式論争」に参加して、 こんなことをコメントしていました。
「この7年間、DDBは私たちのアカウントを扱ってきた。彼らは驚くべき変化に富んだ広告、創造力に満ち、注目をひき、そして売れる広告を私たちに提供してくれた」と前置きして、「DDBルックについての広告人仲間のうわさ話の中で、つい最近までほとんどの広告が陥っていた陳腐な泥沼、悪い趣味、同じことのくり返しや確実性のなさなどを破って、DDB の楽隊車が進み、かつ成功してきた唯一の理由について、ことさらにそらしているのは奇妙である」と言い、「私は、DDBのこの秘密は、 この代理店が創造力に富んだスタッフのために、それにふさわしい雰囲気を用意しているからだと思う」「DDBは、ある種の広告人を集めるのに成功した。彼らは自分の信じるものに立ちむかい、戦おうとする有能な人たちである」とほめあげています。そして、DDB のクライアントたちの目には、黒いアザができているが---と結んでいます。
ELALの広告は、最初、ビル・トウビン副社長によってアートディレクティングされていました。海の写真を破った広告も、旅行代理人の広告も彼の手になるものです。

【chuukyuu推薦】[6分間の道草]ビル・トウビン氏のエッセイ (1) (2) (3) (4) (了)
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