創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(129)『コピーライターの歴史』(7)

 「セリング・ポインツ(=セールス・ポイント)」とはどういうものかが、デベル氏によってきちんと定義されたのです。この章の入力には転法輪(プロデューサー)さんのお力を借りています。転法輪さんに感謝。 


『コピーライターの歴史』(7)
クライド・ベデルの「販売戦略」


ベデル(Clyde Bedell)は、ノース・ウェスタン大学で5年間にわたって講座を受けもっていましたが、そのとき書いた『売れる広告の書き方 (How to Write Advertising That Sells)』は、1944年から15年間もベストセラーをつづけました(15年間---この拙稿を書いた時点--1961年までの計算です。実際には、さらに読まれつづけていたでしょう)。
同書を執筆するにあたり、ベデルは通信販売広告と小売店コピーによって得た現実的で実践的な経験と、通信販売広告と調査によって得られた結果を考察しました。
彼は21歳のときから広告界に入り、シカゴのマーシャル・フィールド百貨店でコピーライターとしての経験をつみ、大会社の広告部長を歴任、N・W・エイヤー代理店在職時には、フォードの広告を担当しています。
つまり「小売店コピーによって得た」経験というのは、マーシャル・フィールド百貨店時代を指すのでしょう。
ベデルの広告コピー哲学の基盤は、ホプキンスやラスカーのそれとおなじように、販売という点におかれています。
彼の著書の中では「証明ずみの販売戦略」という章に重点がおかれており、コピーに関した法則は「広告を書く16の試金石」というタイトルのもとに論じられています。
ベデルは、商品利点に関してニつの特質があるという説を立てています。
すなわち、一つは商品利点に関係のある特質で、これをセリング・ポインツと呼び「顧客に利益と満足を与えることのできる製品またはビジネスに固有の性質」と定義しています。もう一つは商品利点に関係のない性質です。
私たちコピーライターが、いまでは何気なく口にしていることば・・・セリング・ポインツ・・・は、ベデルによって意味づけられたわけです。

1957年に来日したとき、彼は「事業というものは商品あるいはサービスを、利益を得て売るための、ひじょうに複雑な有機体または組織体のような機械であると考えます。
販売というものは、ある人がもっている何物かを他の何物かと交換することをその人に説得するための技術だ、というふうに解釈されます」と講演していますが、これは本書のウィリアム・バーンバック社長の解説のつぎに引用した「広告は基本的には説得です・・・・・・そして説得は、科学ではなく、アートである、ということです」という考え方と符合します。

また、ベデルはこうも講演しました。

「長年の間、いろいろ経験したことから、物を売るためには三つの方法しかない、ということを知りました。その三つというのは、商品の展示と、セールスマンの販売術と、広告の三つです。このうち、広告というものは、三つのうちでもっとも柔軟性をもち、融通のきくものです。というのは、もっとも多くの利益を得るためには、いちばん早く、しかも同時に大多数の人に対して、その人びとが必要としているところのものを売り込むことができる、ということです」

「広告とは売ることであり、それは倍加されて売ることであり、しかも広告の仕事というものは、ただ商品を提供したり、あるいは商品というものを表示したりするようなことだけではなくて、人びとにその商品を欲しがらせ、しかもなんとかして行動を起こさせることを説得することです」

「人びとというものは、ただ利益だけを与えられるがために物を買うのではありません。なにかを得たいというそれだけの理由で、お金を使うものではありません。人びとは、なにか他のものを欲しがっているのではありません。むしろ、その物から得られる利便というものを欲しがっているのです。
人びとは、その利便のために説得されるのであって、利便というものが与えられなければ、けっして物を買うという気持ちは起こらないでしょう。
利便というものは、この地球におけるただ一つのセールス・アピール(販売訴求)です」


>>『コピーライターの歴史』目次


※ 明日は臨時に、ジョージ・ロイス氏からの、日本の若手アートディレクターへのメッセージと若干のインフォメーションを挟み込みます。