創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(250)『メリー・ウェルズ物語』(25)


ポートレイトは、1970年秋のラヴ・スティック・ガールに選ばれたキャミラ・スパーヴ(Camilla Sparv)。ほかの2人も1970年には20代の女性を代表する映画女優---広告は時代を反映するというメリーの考え方によっています。それはさておき、日本経済新聞社から出た『メリー・ウェルズ物語』は、元原稿は日本ダイナースクラブの45万人(当時)の会員の家庭へ郵送される会員誌に連載したものです。広告関係誌ではないので、広告用語やマーケティング用語はほんの2,3語しか使わず、あとは、ふつうの言葉でふつうの読み手にも理解できるように、特別な事例をあたりまえふうに書いています。 (この章の入力には、女性対象の製品なので、アド・エンジニアーズの有能な女性デザイナーたち---H.英子さん、O.歌織さん、K.明子さんのお力を借りています。感謝)

第8章 化粧品は「ラヴ」の2文字(4)

▼化粧品の広告効果は週単位


メンJ側のマーケテイィング担当のサミュエル・ルロン・ミラー副社長、広告担当のウィリアム・ホー副社長に向かってメリーはこう言った。
「やってしまたことはとやかく言ってもはじまりません。
それよりもこんどの反撃期を機会に、『ラヴ』をドラッグストアだけでなく百貨店でも売るようにしましょう。
私たちの会社の調査部がドラッグストアの店主たちを調査したところ、彼らは『ラヴ』が百貨店でも売られればプレステージとイメージが高まると答えています。
もちろん、ドラッグストアを販売の中核にすることには変わりありません」
ミラー副社長とホー副社長は、結局、メリーの提案をのんだ。つづいてメリーは言った。
「すぐに広告を再開しましょう。効果は目に見えて現れるはずです。航空会社や自動車の広告だと広告効果は一年単位でなければわかりません。しかし、化粧品の広告効果は週単位で読み取れます」
メリーのいうとおりであった。
広告を再開してみると『ラヴ』のどの製品も販売力を取り戻した。
死んでしまった商品は一つもなかった。
百貨店での販売は、まずカナダから始められた。
ただ商品を並べておいて客の方から商品に近づいてきてくれるのを待つドラッグストアの販売方法と、説明員をつけて実演販売をしていく百貨店での売り方とは明らかに違う。そこでカナダでテストしてみたわけである。
こうした努力の甲斐あって、1969年の「ラヴ」の販売実績は、当初の予想を100万ドル下回る900万ドル(32億4,000万円)に落ち着いた。
使われた広告費と販売開拓も900万ドルで、赤字は600万ドルを計上したといわれている。
もっともこの赤字の600万ドルは予定どおりの額であったということである。
そして、1972年には、30%増の1,200万ドルの売り上げを予想して、商品群も2、3点追加された。
もちろん、それでも赤字はつづき、1972年に5,000万ドルの販売高に達して、はじめて黒字に転化する予定だというから、遠大な計画である。
年間販売高が5,000万ドル(180億円)といえば、押しも押されぬ地位を化粧品業界に築いたことになるわけで、その時こそメリーの手腕が賞賛される時であろう。

▼メリーの『ラヴ・ストーリー』


映画『ある愛の詩(うた)』(原題『ラヴ・ストーリー』1969)をご覧になったであろうか? 世界中で大ヒットとした純愛ものでる。
この映画の主演女優アリ・マッグローをどうお思いであろうか?
そう、映画『さよならコロンバス』(1963)で登場してきたあのアリ・マッグローである。
大学で美術を専攻したり、高級服飾誌『ハーパーズ・バザー』のコーヒーガールやシャネル香水の広告写真のモデルをしたり、結婚して2年で離婚したりという経歴に加えて、飾りっ気のない態度とやや神経質な性格が彼女を今日の若い女性の一典型としている。
メリーは『さよなら、コロンバス』でアリを発見するや、この女優こそ「ラヴ」のモデルにふさわしいと感じてさっそく契約を結んだ。
アリがばらしたところによると、モデル契約料は5万5,000ドル(1,980万円)だった。
こうしてできあがったのが「ラヴ・ソフト・アイズのアリ・マッグロー」と題するテレビコマーシャルである。

「わたしはマラリアの熱」「私は太陽」というナレーションにのって、そのイメージに扮装したアリーを映し、カメラは彼女の目をクローズ・アップする。
「私は煙」「私はミンク」「私は狐」---「太陽」も「煙」も「ミンク」もラヴ・ソフト・アイズにつけられた呼び名である。
毛糸の帽子で目を隠したアリーは「私はのら猫」といたずらっぽく言って、帽子のツバをめくり微笑する。
ラヴ・ソフト・アイズ。8種類のマスカラと10種類のアイ・ライナーとアイ・シャドーが揃っています。ラヴ化粧品のソフト・アイ・メークアップほど魅力的な目にするものはありません」


アリーのほかにも、口紅のためには『白銀のレーサー』に出演したキャミラ・スパーグが起用されて、こんなコマーシャルがつくられた。
戦いに出撃する男に、あわただしく何回もキスをするキャミラの画面に、次のようなコメントがはいる。

「12時1分。フロイトにお別れのキスをしました。そしてラヴ・スティックで口紅を直しました。12時7分。フロイトにお別れのキスをしました。そしてラヴ・スティックで口紅を直しました。12時19分。もう一度フロイトにお別れのキスをしました。そしてもう一度ラヴ・スティックで口紅を直しました。こうすれば男の人はいつもフレッシュな甘さを感じるのではないでしょうか。ラヴ・スティックはキスしても落ちない口紅ですが、いつも塗り直して、唇をフレッシュでなめらかにしておきましょう」


全商品を『ジェラルデン』と題したコマーシャルには<『ドクトル・ジバゴ』で好演したチャップリンの娘ジェラルディンが使われた。
門の前に立って恋人を待っているジェラルディン。
その前を彼女を無視して通り過ぎる青年。
通りすがりの娘にチラッと関心を示す。
「最初に私はラヴ・ソフト・アイズを使ってみました。
次に口紅を---」
彼女には目もくれずに門の前を行きつもどりつする青年をうらめしげに見つめるジェラルディン。
「ついにラブ化粧品のすべてを使いました」 ようやく立ち止まり、
「どうやら君を好きになったようだ」と言ってくれる青年。
「1970年に500万の男性が恋のトリコとなるでしょう」とアナウンス。

こうした映画スターの起用に関して、メリーは「私たちは古い『映画スター・ルック』のおさらいをやっているのではありません。
新しい『ラヴ』のスタイルを表現することができる女性ばかりを選んだつもりです」と説明している。
化粧品のような商品は内容に特別な新発明とか新工夫があるというようなものではない。
だから、その銘柄の性格づけをよりはっきりさせて「ああ、この銘柄は私の個性に似合っているわ」と消費者に信じこませることが重要なカギである。
つまり、シンパをつくるわけである。
発売当初の『卒業』のキャサリン・ロスにしても、2年目のマリ・マッグローにしても、ジェラルディン・チャップリンにしても「ラブ」を性格づけるための起用である。
ファッション・モデルではなくて映画女優のほうがなぜいいかというと、彼女たちのほうがよりはっきりした性格をすでに映画で与えられているからである。
とにかく、商品開発面、流通対策、広告表現---とメリーが深く関係したのは、「ラブ」が最初の仕事であり、それだけに「ラヴ」はメリー抜きには考えられない商品となった。


続く >>


これが1970年のラヴ のやり方です。 


あなたは1940年から1950年の間に生まれましたか?
次に、私たちは、あなたが40歳でないことを知っています、そして、あなたの皮膚もそう
ではありません。
そこで私たちは、製品企画の段階から、愛をこめて、あなたの年令の女性のための化粧品を作りました。
ラブです。 20歳から30歳までのすべての若い女性のための化粧品。 セクシーであって、劇的です。(略)
そして、私たちの化粧品のできばえは、このページの3人を見てください。
3人とも有名な女優さんです。あなたと同じ年代です。彼女たち、セクシーでしょう?
あなたは映画の中で厚化粧しているアリを想像できますか?
唇からはみでた口紅を塗っているカミラを?
目の周りの黒々とさせたジェラルディーン・チャップリンを?
私たちにはそんな無様な彼女たちを想像することはできません。
私たちがラヴを作った所以(ゆえん)です。




This is the way Love is in 1970.

Were you born between 1940 and 1950?
Then we know you're not 40 years old, and neither is your skin.
So we started from scratch and created Love, just for young women your age.
Love. The cosmetics for every young woman between 20 and 30. They're sexy, dramatic, but free as a bra-less body and a newwashed face. We don't make anything heavy or greasy. Or anything with masky color.
Love's Basic Moisture is pure moisture, with none of the heavy goo you don't need.
Love's Fresh Lemon Cleanser with fresh lemon leaves you immaculate but never greasy which other cleansers sometimes do.
Even our fragrance, Eau de Love,TM is sensationally sexy, but not like a dozen gardenias in full bloom.
And if you want to see what our make-up looks like, look at the 3 faces on this page.
They're all famous actresses, they're all your age, they're all sexy, but none of them would be caught dead looking like she just spent an eight hour day in a makeup salon.
Can you imagine Ali painty, even in a movie?
Or Camilla with a lipsticky mouth on top of her own mouth?
Or Geraldinewith black smudges around those Chaplin eyes?
We can't imagine such atrocities.
That's why we created Love.



掲載誌---1970年8月号(2ページ見開き)
Cosmopolitan, Redbook, Glamour, Mademoiselle, Seventeen, Ladys Home Jaournal