創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(238)『メリー・ウェルズ物語』(13)

メリーがこのブログで発言していると、WOWOWOWを見つけてくださったのは、盟友のatsushiさん。最近の発言ではWRGがやった"I love N.Y."キャンペーンの成功を語っていた。「そうだったのか」とはじめて納得。30数年前にニューヨークを何年ぶりかで訪れたら、街からゴミが消えてキレイになり、 "I love N.Y."のTシャツやバッグがやたら目についた。もちろん、love は赤いハート絵文字。あのTシャツなんかのロイヤリティもWRGに入ったのだろうか? ポートレイトは、ことし80歳になるはずのメリー。何年前のものかは知らない。

第11章 メリー・ウェルズ語録(6)

▼大衆のセンス

「大衆はよいコマーシャルを見分ける目をもっています」(「AA」1966.4.18)
広告界には、大衆の知性を低くみてセンスの悪いコマーシャルをつくってしまった言い訳にする傾向がある。彼らは言う。「芸術的なコマーシャルが商品を売ったためしがあるかね?」そういうわけで愚にもつかないフィルムの洪水となる。
メリーの言い分はこうだ。「消費者はたくさんの映画を見、たくさんのテレビを見ているので、コマーシャルを際立たせるために苦労すれば、ちゃんとわかってくれます」(「AA」1967.5.29)
「このごろの平均的消費者の広告鑑賞力のレベルはすごく高くなっているので、そのレベルを尊重してことをなすべきだと思います」(「AA」1971.4.5)
しかし、これもメリーの発明ではない。オグルビー・メイサー広告代理店のオグルビー会長が「消費者はバカではない。消費者とは君の細君のことだ。彼女の知性を辱めてはいけない」と1950年代から力説してきていることは有名なはなしだし、DDBバーンバック会長も「米国の大衆は、広告に対してまったく無気力であるかのように見えます。彼らは今や、広告にうんざりしているのです」 (「講演」1964)と言って、クリエイティブでない広告の氾濫をいましめている。
したがってメリーの「今日のような時代では、高度にクリエイティブでなければ人びとの関心を集められないのです」(「AA」同)という言葉も、ニューヨークの広告界のあるグループの思想傾向の代弁といえよう。
もちろん一つの思想は突発的に生まれるものではなく、時間的空間的断絶があったとしても何らかの影響を受けて結晶するものだから、メリーの価値を下げることにはならない。
「製品が似かよっている時代にあっては、製品の相違点がアッと言わせるようなものでない場合は、広告や製品などについての感じ方を区別することはできますが、いい気分にさせることはできません」(「AA」1967.5.29)
むしろ広告に対するメリーの独自の見解はこの小文にいいつくされている。
DDBバーンバック会長は「売ろうとしている商品について言わねばならない重要なことを発見すること---その商品が競争商品に立ち向えるだけの優秀性あるいは相違点を真剣に追求すること---です。それがない場合には、クライアントと相談してそけをつくるのです」 (「DDBニュース」1969.7月号)と言い、あくまで商品自体の中に相違点を見つけようとする。それが見つかるかつくりださーれると、「それを独創的で新鮮で想像力豊かに表現する方法を捜し求めます」 (同)
メリーのやり方は、相違点が見つけられないかあるいはつくりだせなかったら、大衆を「いい気分」にさせる方法を捜すやり方である。
「いい気分」についてメリーは「今日の消費者は広告に関して非常に洗練されています。広告代理店のみなさんはそういう消費者を楽しませなくてはなりません。そして第六感を大いに働かせて商品を忠実に紹介しなければなりません。ちょうどジェイムズ・ボンドの映画がしたように」 (「ニューズウィーク」1966.10.3)と説明している。
つまり、「いい気分」とは「娯楽性(エンターテインメント)」のことだと解釈しておく。
たしかにWRGのコマーシャルは娯楽性の強いものが多く、しかもそれは求めてそういう要素を付加したものである。コマーシャルを企画する時から視聴者が喜んで見てくれることをねらっている。
メリーとWRGにとってのよいコマーシャルとは、娯楽性が強いものだ。「何度も何度も同じ広告を繰り返して使うわけにはいかない」し、「視聴者の注意を何度もひくためには、絶えず違ったアプローチの仕方をねらわなければなりません」 (「ニューズウィーク」同)という結論がでてくるのも当然である。
繰り返されるギャグやユーモアは衝撃力が弱まる。しかもなお視聴者に娯楽性の強いコマーシャルを提供しようと思えば、第2弾第3弾のフィルムを用意しなければならない。
こうした循環が視聴者にコマーシャル・フィルムの娯楽性への期待をいっそう与えているともいえる。


敬称略
続く >>


既出の[メリー・ウェルズ語録] (1) (2) (3) (4) (5)


ベンソン&ヘッジズ100の味を満喫しましょう。多くの人たちが煙を出しているのをご覧ください。