創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(232)『メリー・ウェルズ物語』(日本経済新聞社 1972年刊)(7)

第3章 「豊かで新鮮な泉」--- 

退屈させない空港ロビー


大きな成果があがったといっても、オン・タイム運動などというものは、所詮は運輸サービス企業としては当然そうあるべきはずのものである。プラニフのゲデス宣伝部長もそこのところは十分に心得ていて、「いつもやっている10ばかりの社内キャンペーンの一つ」と説明してくれた。
ところが、これから紹介する空港ロビーや手荷物受取所の改造は、他の航空会社がまだ手をつけていない、いわゆる運輸サービス業にとっては本質的なアイデアである。メリーが「ブラニフ第2期刷新」と名づけて強調したのもうなづける。
ジェット機を7色のパステル・カラーで塗りわけたり、スチュワーデスのユニフォームを新調して空の旅の単調さを緩和しようとしたメリーが、空港ロビーでの待ち時間の空虚さや着陸後の手荷物を受けとるまでのいらだたしさの解消に挑戦したとしても、それは当然すぎるほど当然である。
メリーの言葉によると、こうなる。
「この世の中の最低の時間は、飛行機への搭乗指示を待っている時間です。私がやりたいのは、乗客にいましばらく搭乗したくないなと思わせるほど魅力的なターミナルです」
そしてそれがどんなものになったか、ぼくのダラス空港での体験を紹介しよう。
空港に降りたぼくは、手荷物受取所までの通路を歩きながら、一歩々々の歩調にあわせるかのように装飾が変化していく天井に、思わず見とれてしまった。それは、不規則な波型に切って天井に配された多色パネルがかもしだす萬華鏡のような千変万化の風景であった。
見とれて歩いているうちに、あっという間に手荷物受取所へ着いた。
手荷物受取所でも新工夫を発見した。トランクが出てくる例のターンテーブルの上部に多面鏡がつけられていたので、ターンテーブルの間近で待たなくても、鏡への映りこみによって自分のスーツケースが確認できた。
また、メイン・ホールには天井に鏡とパネルを飾ったボールをぶらさげて華やかさを演出していた。
搭乗待合室の壁面にはブラニフの主要航路であるメキシコ・南米の観光写真パネルを配して待ち時間の退屈さをカバーしていた。このほかにも、ぼくの気づかなかった新工夫がいろいろあったかもしれない。
しかし、以上だけでも、ぼくには他の航空会社とは違う配慮がよく理解できた。
ゲデス部長にぼくの発見と感想を告げると、彼はニッコリ笑って、つぎの3年間に空港パーキングと空港ビルとをモノレールでむすぶ計画があると打ち明けてくれた。
それはともかく、空の旅を感覚的に、より楽しくしようとしたメリーのアイデアもそしてそれを実現化していくロレンス社長の意欲は、誉められていい。

スチュワーデス・カレッジ(訓練所)

この記事にアクセスなさっていて「こんど米国へ行ったら、ブラニフに乗ってストリップを見てやろう」とお考えになった人は遅すぎる。
彼女たちの制服は、1966年のサイケ調になり、1969年には逆にピンクを基調にしたワンピースの着替えなしに変わった。つまり、もう「空中ストリップ」はやっていないのである。


chuukyuu注】上記は、『メリー・ウェルズ物語』の記述です。ウィキペディアで「ブラニフ航空」を検索し、

1.歴史
  1.6 破産
をクリックしてください。1978年に、ジミー・カーター政権が導入した民間航空自由化政策(ディレギュレイション)の導入後、価格競争などの激化や、イラン・イラク戦争による原油価格の高騰、乗客減などで経営状態が悪化、1982年に破産宣告を受けたと。
ブラニフ航空は、みんなの心に強烈な印象を残して、華麗な花火のように消えたのです


当時の、ぼくのたびたびの米国旅行の経験に照らしてみて、この時(ブラニフ本拠地訪問のために)乗ったブラニフのスチュワーデスは、ぼくのえこひいきもあるが、米国の全航空会社のスチュワーデスの中で最も魅力があり、美人ぞろいであり、粒がそろっていた。
客あしらいのうまさやサービスの手ぎわよさなどを、日本航空の日本人スチュワーデスとくらべると、残念ながら、まるで大人と子どもほとの違いがあった。ブラニフ娘たちのしっかり訓練はできている。
というわけで、同航空のスチュワーデス・カレッジ(訓練所)の見学は、ぼくには大いに興味があった(別に、空中ストリップの実習鑑賞を期待していたわけではないが)。
行ってみて、驚いた。
ロビー、サロン、食堂のインテリアがまずみごとであった。これを担当したのは、ジェット機内のインテリアをデザインしたアレキサンダー・ジラルドで、ハーマン・ミラー社とノル社の椅子で美しくまとめられていた。
寝室、教室の設備も趣味のよい調度品で仕上げられていたが、とくにサウナ・バスつき3壁面が総鏡張りの美容センターとロビーに飾ってある南米美術品には目をみはった。
要するに、スチュワーデスの趣味(センス)を高めるために莫大な投資をしているわけである。
ところが、ハーディング・ロレンス社長に会うために本社の役員室を訪問して2度びっくり。ここの調度品ときたら、日本のちょっとした中小企業の社長室よりももっとひどい什器で古くさい感じ。
スチュワーデスはブラニフを代表して客に接する要員たちだから、その感覚(センス)と趣味(テイスト)と教養(カルチャー)を高めるためにはいくらでも投資をするが、役員室は見せるためのものではないのだから実用一点張り---というところである。
まさに、サービス企業のあり方の手本を示されたような気がした。
(この章・了。明日からは、第11章 メリー・ウェルズ語録>>


アンディ・ウォーホルソニー・リストンも、ブラニフで飛びます。
(うまく乗りあわせたら、吹聴ものですね)。


2人がいつも飛行を楽しんでいるのを、よく見かけます。
彼らは、私たちの活気と、迫力が好きなのです。
すばらしい。 機体に異なった色塗り、機内を見栄えよくしているわけもここにあります。
見つけることができる中で最も気のきいた女性を選び、プッチ・デザインの制服を着ているのもそう。
航空会社たるものは、サービス、サービス、サービスにつきます。
飲み物にはすべて氷を入れて。
食事は熱く熱くして出して。
雑誌を持って来て。 枕をとって。
頼まれたら即座にやります!。 ほかにご用は?
ただちにご用をこなします。
どうぞ、お近くの旅行代理店にお尋ねください。
ブラニフはそこへ飛んでますか? 乗りたいんです」と。




Andy Warhol and Sonny Liston fly on Braniff.
(When you got it-flaunt it.)


We see them a lot,and they always enjoy themselve.
They like our vigor,and they like our verve.
Good. That's why we paint our pfanes different colors and make the lnteriors so plush.
That's why we pick the sharpest grls we can find and dress them in Pucci's.
And that's why the whole airline harps on Service, service, service.
Make every drink ice coJd.
Serve every meal piPing hot.
Bring them a magazine. Fling them a pillow.
Get them there on-tame. And guess what.
lt works.They keep coming back.
They keep asking their TraveI Agent:
"Does Branlff fly there too?
Put me on it."