創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(221)ディック・リッチ氏とのインタヴュー(3)

      Wells Rich Green 社 共同経営者兼コピー・チーフ(当時)


インタヴューは、当然のことですが、テープ起こしをした英文をご当人に郵送してチェックを受けます(40年も前、インターネットなんかないない時代でしたからね)。ご当人の推敲が来るのを待つ間に、こちらでは和訳をすすめています。というのは、もともとは月刊専門誌『ブレーン』に連載していたもので、いつも締切ギリギリで進行していましたから。で、ディック氏から返送されてきた英文には、ここに掲出した日本文の末尾のブロックが削られていました。米国での反応に配慮したのでしょう。しかし、W.R.G.という代理店の新しい性格を日本でわかってもらうには、必要と判断し、日本文ではそのまま、掲出しました。

コピーライター採用に客観的な基準はない

ウェルズ・リッチ・グリーン社は、1966年4月に創業し、1967年には4,180万ドルの扱い高と米国内で第38位の大型代理店にのし上がっています。従業員数も225人。

chuukyuu 「リッチさん。あなたは今日でもコピーを書いていますか?」
リッチ 「イエスでもあり、ノーでもあります。ご存じのように、ベンソン&ヘッジズ100の広告は、私がはじめたものです。ブリストル・マイヤーズの新製品のための仕事、それにゼネラル・ミルズのキャンペーン、プロクター&ギャンブルのグリーン歯みがきの新キャンペーンなどもやりました。
いまでは、グリーン(Stwart Greene)氏と私の共同責任でクリエイティブな面の監督をしています。ですから、机に向かってコピーを書く機会はなくなりました」
(写真:作品の点検をするグリーン氏(左)とリッチ氏)
chuukyuu 「それじゃあ、この代理店にコピーライターを採用なさる時 どんな点をチェックなさいますか? たとえば、才能とか個性とか---」
リッチ 「それは、もっともむずかしい、かつ、もっとも興味ある質問ですね。いま、この代理店には12人ぐらいのコピーライターがいます。私のところぐらいの規模の代理店でこんなに少ないのは珍しいんですよ。DDBが私のところほどの規模の時は80人のライターがいたと思いますよ。
ところで、コピーライターの採用ですが、簡単にいえば、彼の作品を私が気に入るか入らないかということですね。ですから、こういうと変に聞こえるでしょうが、なんらかの客観的な基準があるわけじゃないんです。直感といますか、そういうものでわかるのです。そして時々それがはずれることもあってガッカリしますがね(笑) 。
でも、いまののところ、これ以外に方法がないようですね。
ところで、私が望む作品というのは、ブロダクト・オリエンテッドというか、製品中心の作品です。どういうことかというと、製品の物語、あるいは製品の利点に関する刺激的なもの冒険的なものを含んでいるような作品ということです。
私は、ファニーなものは好みません。それから、ギャグもも求めません。私たちがやろうとしていることは、消費者の注意を、広告にではなく製品に対して向けるということなのです。ですから、私たちがそこにつくりだしたいと思っている感情は、ファニーとか、シリアスとかといったものではなくて、ナイス、つまり非常にいい気持ち、ナイスで、楽しくて、好意的な気持ちをつくりだそうということです。
きらびやかなものは嫌いです。装飾的だが内容がそれほどなく売り上げに結びつかないものは嫌いです。しかし、どうも、現在ではそういう広告が一般に受けているようですね。そして、そういう広告が持っている欠陥にみんなは気がついていないようですね」

ライターとアートディレクターのコンビについて

chuukyuu 「あなたはグリーン氏と共同責任でクリエイティブな面を監督していらっしゃるということでしたが、グリーン氏とコンビをお組みになったのは---」
リッチ 「ジャック・ティンカー社時代にアルカ・セルツァーの仕事で初めて披と組みました」
chuukyuu 「能力のあるコピーライターであれば、どんなアートディレクターと組んでも、うまくやっていけると思いますか。あるいはあるタイプのアートディレクターとでなければ、良い広告がつくれないとお考えですか?
もし、そうであれば、どんなタイプのア一トディレクターがお好きですか?」
リッチ 「これもむずかしい質問ですね。これはいわば、ジョー・ルイスが片腕を背中にしばりつけてポクシングンができるかという質問に似ています(笑い)。
良いコピーライターであれば、良いアートディレクターと組まなくても、良い仕事ができるとは思いますけれど、まあ、相手がより良いほうがいいわけで、腕の良い写真家であれば、悪いレンズの力メラでも良い写真を撮ることができるけれど、良いレンズを使えばより良い写真を撮ることができるわけでしょう?
とにかく、アートディレクターとコピーライターは協力しあってやっていかなければならない。 これだけは必要なことです。
でも、時々は、両者の個性が違うことが、より良い結びつきをつくるということもあります。実際、スチューと私とは、全然タイプの違う人間なんですが、ひじようにうまく結びついています。むしろ、タイプの違いというものが、建設的に働くことだってあるでしょう? でも2人の間に、エゴがぶつかりあったり、力関係で対立したり、それぞれの観点が違ったり---ということはあります。
私自身の立場からいえば、私は監督する立場にあるわけですから、タイプの違うどんなアートディレクターとでもやっていかなければならないし、やります。
私は、アートディレクターにでもコピーライターにでも、同じようなことを要求します。商品を売るということだから、売るためには、商品に対して一般大衆の注意を向けなければならない---ということです」

私たちが気に入った広告がクライアントも気に入った

chuukyuu 「あなたの好きな文句は? モットーとか、座右の銘とかいった---」
リッチ 「以前は、[もし私たちが謙虚だったら、完全だったでしょう]とよく言ったものですが、いまはもう、ロにしません(笑) 。ですから、とくに気に入っている言葉というのはありません。
そうだ、『アナタハ、タイへン魅力ガアリマス』というのが、ご婦人に対しての言葉として好きです(笑) (注・リッチ氏はこれを日本語で言った。) 私は、日本には行ったことはないのですが、日本が非常に好きです。かつて日本のカメラの仕事をした時、もうすこしで日本へ行くことになっていたのですが、残念でした。
さて、広告一般に関しての私の意見を次にお話しましょう。
私たちの代理店は、いわゆるクリエイテイブ・エイジェンシーだと呼ばれていますし、実際そうなんですから、そのかぎりでは喜ぶべきことですが、ほかにも、クリエイティブ・エイジェンシーと思われている代理店がたくさんあるわけなんです。そのグループの一員というふうには私たちの代理店を思われたくないんです。
2,3年前、そうですね、アルカ・セルツァーの広告が出るころまでは、小さなクリエイティブな広告代理店は、非常にスマートで良い広告をつくるけれど、それらは必ずしも売り上げには結びつかないと思われていたんです。そこへ、アルカ・セルツァーの広告が出て、そういった一般の考え方を破ったわけなんです。
保守的な人びとの中には、『売り上げと結びつかない、スマートな広告には飽きた』という人が出かかっていました。『そんな広告は、良くないし広告だ』ときめつけて---。
まあ、広告というのは、基本的には、何かを売らなければならないというビジネスですから、セリングということにいつも関心を払わなければなりません。私たちに関して、私たちが誇りうることは、私たちが気に入った作品が、同時にクライフントにも気に入り、しかもそれが売り上げに結びついているということです。
秘書かなんかに見せて、彼女が『すてきな広告ですわ』と言ったから良い広告だと思いこんでいる、たくさんの代理店のやり方に、私は、疑問を持っています。広告の良し悪しのほんとうの基準は.、その広告がどれだけ売り上げに寄与したかということでなければならないと思います」


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これは、不利益


私たちは、タバコ界を風靡するつもりだったのです。
新しくて、もっと長いフィルターつきタバコで。
手ごろな値段。
すてきな味わい。
事態はかなりうまく行っているように見えました。
こんな場面を除くと---
エレベーターのドアがタバコをはささんだのです。
中で広がったくすくす笑いに、喫煙者は当惑。
ご婦人がブロードウェイでの幕間にベンソン&ヘッジス100に点火して、
2幕目の始まりまでに吸い終えられなくなったし。
朝食後の一服だったのに、8時5分の通勤電車に乗っている間中吸ってたとか。
私たちの新しいタバコはキング・サイズよりはるかに長いです。
そんなこんなもありましたが、
いったん不都合を感じなくなると、別の面も見えてみきます。
さあ、次のページをお読みください。


これこそが、利点(新製品・長いシガレットの)


こんどは、いくつもある、利点のほうをお聞きください。
私たちの新しいベンソン & ヘッジス100は、
キングサイズより長いので、点火回数が減り、マッチの節約に。
火口が離れた分、煙が目に、まあ、沁みません
そう、長いってことは、灰皿が近づくってこと。
吸いきるのは、ちょっと、しんどいかも。
おお、これも言っとかなきゃあ---
私たちの新しいベンソン&ヘッジス100は、
キングサイズより、3服、4服、
いや、5服---多く吸えます、
吸い方にもよりますがね。
余禄は私たどもからのプレゼント。
だから、お値段も、いまお吸いの(短い)のと
新しい(長い)のとは変わりなし。
あなたなら、こう、ブレンドなさると予想して
私たちは、そう、ブレンドしました。
もう、きっと、お気に召すはず。


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