創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(205)ロバート・ゲイジ氏のスピーチ(下)

(1963年 モントリオールのアートディレクターズ・クラブの会合で)

Mr.Robert(Bob) Gage
Doyle Dane Bernbach Inc. Senior Vice President, Head Art Director

50年以上も前にDDBが提唱した新鮮で有効な広告をつくるための最小で最強な単位〔コピー=アート・セッション〕を、日本の広告界はそれを形式として易々と真似た。本質まで咀嚼したかというと、どうでしょう? 調査マンやメディア担当までが顔をそろえる会議にまで発展させたと自慢する人もいた。違います。〔コピー=アート・セッション〕は、クリエイティブのための、最小にして、これきりの単位なのです。ボブ・ゲイジの真摯な発言を、いま一度、謙虚に受け止めてみましょう。

私は、広告が好きだ


  

イデアにつまった時の、私の脱出法

私は、(ほかのアートディレクターの方々もそうでしょうが)キック(kick) をやります。そんなときには、キックが唯一の思考法です。私が取りかかっている仕事の中の広告アイデアがどんなものであっても、このキックは、 ビジュアルに、また、ほかの面にも何か影響を与えます。やがてすぐに、それはあまりにも安易になりすぎて、私はひどくそれにウンザリし始めます。そのとき、私は突然、もう一つのキックを発見したい気持にかられるのです。
何か空虚な気持ちになり、元気がなくなるのはこのときです。
しかし、やがて私はそこから登り始め、そこに新しいアプローチ、あるいは新鮮な見方があることを発見するのです。そして車輪は再び回り始めます。
人が登り始めるとき、必ず今までよりも高く登れるものかどうか、じつのところ私にも分かりません。アートというものには、ほんとうに進歩があるものかどうかも分かりません。でも自分のアートを支配する能力という個人的な範囲においては、進歩ということもありうると思います。
この仕事を長い間やってきて、よかったと思われることの一つは、自分にとって最もよい仕事ができる条件というものが分かり始めるということです。
私は、自分が困難のいっぱいあるときに最もよい仕事をするということを知っています。仕事が急を要しないときでも、私はそれを急いでやらなくてはならなくなるまで、わざと引き延ばしているようです。なぜならジュース(精粋)が流れ出し、私がもっとよく考えることができるのは、こういう時だからです。
私は多少怠け者のようです。ですからこの外側からやってきて私を助けてくれる方法を見つけたのです。
私は朝早く起きて仕事をする、ということに、たいして心を留めてはいませんが、自分の仕事が9時から5時までの仕事とはつゆ思っていません。やらなければならない仕事がたくさんあるとき、私は徹夜だってやります。
また思うのですが、どんなアーチストでも決して自分の仕事からのがれることができないのではないかと。私は家庭へは、いかなる仕事をも持ち込まないように努めています。しかしその仕事が、ふと心をよぎる瞬間があり、いつもあれこれとその解決をさがしているように思われます。そしてドキドキするような解決法が見つかると、それが心をすっかり占領してしまって、ほかのことはいっさい考えられなくなります。

仕事がたくさんある時が、いちばん幸せ

もう一つ気もづいていることは、私は仕事がたくさんあると時がいちばん幸せだということです。忙しいと自分自身について悩む時間がありませんし、私の心はその問題でいっぱいだからです。そして仕事をたくさんすればするほど、もっとたくさんの仕事ができるような気がします。これが、私が前に言った---車輪の回転を早めることです。
さて、夜、家ですわってテレビを見ている時(ときどき、そうするのですが)、コマーシャルを見ます。
一般的にいって、コマーシャルほど、世の中でうんざりさせるものはないと思います。今や米国の経済は前進を続けなければなりません。そして広告は商品を動かすための最大の武器だと思います。しかし大衆をうんざりさせていては、商品を動かすことはできません。たとえあなたがどんなに多くのセリング・ポイントを詰め込もうともです。
コマーシャルを作るとき、人びとをうんざりさせないようにしようという努力が、私によりよい仕事をさせることになります。私は人間が大好きです。シニカルなアプローチで彼らに近づくのが好きです。彼らの知性を過少評価したり、だまそうとはしません。つねづね、自分は平均的な男だと思っています。ですから、私の創るものが自分にアピールするならば、ほかの人もそれによって動かされるだろうと思っています。
私はものごとを客観的に見るということができません。それは専門家にまかせています。自分自身の本能に従わないで、ものごとを客観的に見ることは、自分のアートを破壊します。
アーティストとして、私たちはまわりのあらゆる変化にいつも敏感です。普通の人より敏感だと思っています。もし私たちがその感覚を失えば、滅んでしまいます。私たちが調査マンよりも直観力にすぐれているとすれば、まさにこの点においてなのです。
最後に、これから申しあげる日々は過去のものになったと、私は思いたいのです。そう、長いことかかって苦労して作品を作りあげたアーティストがだれかのところへ行って、「これです。あなたがこれを気に入ってくださるといいのですが---どうぞ好きになってください。もしお気に召さないなら変えましょう。それでもお気に召さなければ、自殺します」と言っていた日々のことです。
仕事をする人が、すなわち、どんな仕事をやったらよいかを決めるのに強い発言力をもつ人でもあるという日が、ついにきた---と私は思います。(了)



彼女の眼から数秒間でも視線視線をそらすことができたら、あなたは絹の格安品を掘り出すこともできるし、ローライフレックスだって買えるかも。


ジャマイカでは、じっと見つめることは失礼にはあたりません。
あなたが出会ったこともないような顔立ちがたくさんあるのですから。初めて見たものというのはさまざまな印象を残しますね。目、ほお骨、肌、唇、髪の毛…それぞれ別の世界に属していたものが、ここではひとつの顔の中に存在しているのです。
あなたは、絹を売る店のカウンターの向こうに、ひとりの娘をごらんになる。そして驚きになるでしょう。あの可愛らしさにはアフリカがずいぶん入っているのかな。中国系でもあるが、インド的でもある。ヨーロッパも相当あるな。でもはっきりとはわかりません。アフリカが中国に、中国がインドに、インドがヨーロッパに、混じり合っていることがあるのです。境界が不明瞭となるまで、国籍が消え失せるのです。そして現れるのは、それらのどの国にも属さない、ジャマイカだけの美しさです。その美しさが最高に現れたケースでは、繊細で、夢のような、この世のものとは思えない美しい美女の出現です。(略)
けれども、もし絹へ目を向けることがおできになりさえすれば、これは「いい買物」ということがお分かりになるはずです。アメリカでお払いになるよりも6割もお安いのです。それから、フランス製ドスキンの手袋、エジプト綿も4割方お安い。
ジャマイカの免税率は、世界でも最高の部類に属しています。シーヴァス・リーガル$5.50、 シーグラムV.O.$2.50、 12年ものジャマイカ・ラム$3.00。プロの演奏家用のジョージ・ヘドレイ手作りのコンガ・ドラム$22.00、ニコン、ツァイス・イコン、ローライ45%オフ。(略)


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〔6分間の道草・ロン・ローゼンフェルド氏とのインタヴュー〕(1) (2)