創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(197)チャック・コルイ氏とのインタヴュー(2)

Doyle Dane Bernbach Inc. Vice President, Copy Group Supervisor

『劇的なコピーライター』誠文堂新光社 ブレーンシリーズ 1971.3.10 絶版 からそのまま転載)。
公共奉仕広告(public service ad)」から一歩進んだ「抗議広告(protest ad)」の実際を示して、今後のコピーライターのあるべき姿を教えてくれた点で、本書の2番手においた。
オリン企業広告(corporate ad)でも、社会教育的な情報を中心にすえたコピーで、ライターの思想・社会とのかかわりあいといったものを暗示している。



信じられない製品のための広告はつくりたくない


ところで、抗議広告がなぜ盛んになってきたかを説明しましょう。
心ある広告人---コピーライターやアートディレクターたちの中に、信じることのできないもののために仕事をしてはならないという気運が高まってきて、製品を売るための広告をつくるのにうんざりしてきたからだと思います。
抗議広告に関係したことのあるコピーライターは、「私は、いかなる時にも私の魂を清めてくれるようなものを求めているのだ」と明言しています。「私たちは問題にたいする抗議を行なうのではない。私たちは解決法を提案してるのだ。それは社会変革のための広告なのだ。私たちが行なう論議のすべては、個人の権利の擁護という問題に関連している」ともいっています。
別のコピーライターは、「ニューヨーク市で生活していると、個人の権利が侵害されているということを1時間ごとに思い知らされる」と発言し、「腹の立つ問題にたいする自分自身の義憤と広告づくりの興味とを結合させたいと熱望して」抗議広告をつくったといいます。
ニューヨークに住んでいなくても、この東京にも、腹立たしいことは山ほどあります。
ただ、日本の商業紙の中には意見広告の掲載をしぶるものもあるかもしれないし、もともと掲載料も安くはないので、抗議広告をつくって訴えるというわけには、おいそれとはいかないかもしれません。しかし、専門誌かなんかを利用する道はあるでしょう。
いずれにしても、お金(生活)のためだけに、信じることのできない商品を売るための広告をつくるコピーライターは、今後は少なくなってくるでしょう。



もっとも気に入っている作品は『ねずみ』とオリン


chuukyuu「これまでの仕事の中で、もっとも気に入っている作品を2点あげて、その理由をお話しください」


コルイ「もっとも気に入っているものの一つは、もちろん、『ねずみ』です。
この広告は2,3の賞を獲得しました。
もう一つは、ビル・トウビンと私とでやって賞をとった、オリンのための広告です。南米が舞台になっていて、ここでオリンがどんな活躍をしているかを説いています。
このオリンの広告については、私たちは常にある問題をかかえていました。
というのは、この企業は、塩素とか肥料といったように、まったく基礎的な物をつくっているのです。実際エキサイティングな、あるいは革命的なものなどなんらつくっていないのです。そこで、この広告をつくるためには、深く掘り下げていって、この広告の基礎となるように、よいストーリーを見つけなければなりませんでした。 そしてその結果、私たちはほんとうに実のあるものを見いだしたのです。


それは15年以上も前にいかにしてオリンがラテン・アメリカにおける動物の健康問題というものを開拓したかというストーリーでした。また、オリンが家畜学の専門家たちを小さ村々へ送って、小農夫たらの農法改良、農産物の増加などに貢献したというストーリー、そして、ラテン・アメリカ人ではもう手におえなくなっている展開しつつある産業において、オリンが、いかにしてラテン・アメリカ人のために、何千種類もの仕事をつくり出したかというストーリーです。


私たちは、そのスト一リーをその時まだできあがったばかりの進歩同盟、そして、ラテン人自身の共同市場をつくろうとする拭みと結びつけて広告を完成させたのです。そしてその広告は、企業としてのオリンのためによい仕事をしたということのみではなく、貧乏とインフレーションの問題を解決しようとする際の、政府と企業との間のよりよい協力という効果的な例をつくり出したのです。
私にとってこの広告は、よいストーリーがある場合、よい広告をつくるということがどんなに易しいことであるかという好例なのです、たいへんな仕事というのは、よいストーリーを持っていない場合に、それをどうやってよい広告にするかというものです」


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この平均的アメリカ人は1日に175セントかせぎます.


この家族は、ラテン・アメリカ人です。そして、 これが彼らの平均的なかせぎ高なのです。
いかなる標準と比べても、少なすぎます。けれどもこの場合は、とくに責められるべきです。というわけは、貧困の原因が、インフレ、革命の長い伝統に対する中南米の闘いのひどさに拠るからです。
もちろん、合衆国は進歩同盟(Alliances for Progress)を通じて援助しています、そして中南米の人びとも共同市場をつくることになり、前進しようと試みています。
けれども、こういうことは本質的に政府対政府の計画で、上から下へ働きかけるものです、実質的な効果が普通の人びとにまでしみわたるのには一世代もかかるでしょう。
しかし、彼らはそんなには待てないのです。
平均的な中南米人の食料事情は25年前よりも悪くなっています。加えて、世界でも高い出産率を考えると、中南米の人口はあと35年もすれば2倍になると予想されます。
彼らがもっとも必要としているのは、 もっと早く効果の現われる援助なのです。それも今、明日ではないのです。そのためには、私企菜が援助するのが一番です。
オリンの子会社であるE・R・スキップ&ソンス社は、15年も前に中南米で動物の健康管理を主唱した時、すでにそのことを知っていました。
すぐに家畜の飼育の専門家たちを、農民たちを助けるために村々へ送り込みました。教師兼相談相手として働きながら、彼らは昼間はともに働き、夜は彼らに教えたのです。
彼らは部落集会を開き、映画、外部からの講演者、その他、彼らがその方法を改善し、家畜をふやすことを援助できるものなら、どんなものでも使いました。
結果として、スキップ社は現在、中南米最大の動物の健康に関する商品の生産者となっています。
けれどもその商品を使っている15ヶ国の人びとにとって大切なのは、私たちの150以上の家畜飼育の専門家がみな中南米人だということ、そして、ほとんどの、結局はすべての、スキップ社の商品は、その地方で、そこの人びとによって製造されていることです。このようにして、発展して行く事業によって何千もの職が中南米人のために、中南米人によってつくられているのです。ほかの多くの会社もこのような計画を立てたら、 どんなにより多くのことができるか考えてみてくだい。そして、彼らはそうするべきなのです。なぜなら、私たちの隣人を助けるだけでなく、よいビジネスにもなるからです。


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