(164)ジュディ・プロタス女史とのインタヴュー(1)
DDB 副社長兼コピー・スーパバイザー
DDBに入社した2人目のコピーライターとして、20年以上も現役をつづけている彼女は、東京に着くなり、 「スシが食べたい」とねだった。ニューヨークでもよく食べているのかと思ったら、たった一度、ロール・パーカー夫人のパーティーで食べたきりだと言う。奇抜な人だ。
オーバックスのライターとして18年間働いた
chuukuu「あなたはオーバックス百貨店担当のコピーライターとして有名ですが、今でもオーバックスの広告を担当していますか?」
プロタス「1968年の12月に降りました」
chuukuu「オーバックスの仕事を何年ぐらいやっていましたか?」
プロタス「1951年からかな、それより前からかもしれません。ずっと長い間バーンバックさんと(ボブ)ゲイジさんがすべてのコンセプトをやっていました。
あの有名な猫の広告もじつはお2人のコンセプトで、私はそのボディ・コピーを埋めていただけ。アカウントが成長し、バーンバックさんの仕事や義務、責任が重くなるにつれて、バーンバックさんは私のクライアントの仕事に対する職務を徐々に大きくしてくださり、ついにはこの広告すべてを任されるようになったのです。
ミズ・プロタスと話し合ったのは、じつはこれが5度目ぐらいでした。DDBを訪問するたびに会い、また彼女が休暇で日本を訪ねてきた時も数日間、いろんなところを案内してまわりました。
しかし、インタビューをしてみますと、また新しいエピソードをいろいろと聞くことができました。彼女は、しごくくつろいだ態度で、 しかもニューヨークっ子特有の早口でしゃべり始めたのでした。
ミズ・プロタスの話の中に出てくる猫の広告というのは、ホルダーをくわえた貴婦人ふうの猫が「ジョーンの秘密がわかりましてよ」という見出しの、それこそオーバックスの広告中の傑作といわれている1958年の広告です。
ジョーンの秘密がわかりましてよ。
彼女の話すのをお聞きになったら、あなただってきっと、この人ったら名士録に載るほどの人だなってお思いになってよ。でも、私、彼女の秘密をつかみましたことよ。ご主人が銀行家だろう---ですって? とんでもございません。銀行口座すらありませんわ。それに彼女の住んでいるあの邸宅だって抵当に入っているのよ! 想像できて? それなのにあんなにたくさんの衣装! ええ、もちろん、彼女は着こなし上手ですわ。 でも、ほんとうのところ、ミンクのストールやパリ製のスーヅや、あんなにたくさんの衣装が、ご主人の収入で買えるとお思いになれる? そこなの、私の発見は---ジェーンを尾行しましたのよ、そしたら彼女、オーバックスから出てきましたわ!
18年間も一つのアカウントを担当しても全然マンネリ化しなかった
chuukuu「一つのアカウントを長い期間担当している場合、それに飽きたとか、マンネリ化してしまったということはありませんでしたか?」
プロタス「オーバックスの場合に、飽きたとかいう次元の問題はありませんでした。このアカウントは、しだいにとても複雑で巨大なアカウントになっていきました。この百貨店は、とても多くの部門をプッシュして、これまでにないほど広告を出し始めました。
私は指揮権を持っていたので、もっとたくさんのコピーライターを集めて一つのグループをつくり、比較的小さな仕事を彼らにまかせて、いいもの、面白いもの、地下鉄のポスター、パリ・コレクションなどを自分でやるという方法をとることができましたが、それではこのアカウントのために働いている若い人たちに気の毒です。
とにかく長い間このアカウントのために仕事をしてきたのだから、このアカウントを辞めていい時期だ---などとも考えました。そんなふうに、かれこれ1年考えていました。
これまでにこのアカウントに専念し、常につきあってきたおかげで、私の名前はかなり名高くなっていましたから、このアカウントを降りて、フレッシュなチームにやってもらうのがいちばんいいことなのだというふうに決心したのです。
それでできたスタッフは,とてもエキサイティングなもので、このデパートはとても喜んでくれているようですし、DDBももちろん喜んでくれているはずです」
ロビンソン夫人の教育法
chuukyuu「あなたが入社なさった当時のDDBの規模は,どのぐらいでしたか? コピーライターは何人ぐらいいましたか?」
プロタス「私が入社したのは,DDBが設立されて1年目でした.1951年に入社した時にはコピーライターは一人しかいませんでした.そして私は,コピー部がふくれあがっていくのを見つめてきました。
今ではたぶん、70人から80人いるでしょうそのほとんどを、私は知りません」
chuukyuu「入社した時、あなたに書くことを教えたのはだれでしたか?」
プロタス「ロビソンン夫人が最初に雇ったコピーライターが私だったのです。彼女が調教師でした」
chuukyuu「ロビンソン夫人の教育法は?」
プロタス「ロビンソン夫人はとてもすばらしい人でした。決して拘束したりせず、私から抽き出そうとしてくれました。
そしてコピーとは、質問でもなく気の利いた言いまわしでもなく、それはものを売ることであり、しかもフレッシュに売ることであると私にたたき込んでくれました。
そして私がいおうとしていることからそれてまわり道をしないように、常にポイントをひきつけておいてくれました。
彼女は、決して圧力を加えない、すばらしい先生でした。私をすわらせて、『さあ見てごらん、こんなふうにやって』などとはいいませんでした。
彼女に私が従うべきルールを設けたりしないで、私がやったものを見て指導するという真の教育法をとってくれました。彼女は優秀な先生です。
こんなに大きくなった今でも、とてもうれしいことなのです」