創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(142)レン・シローイッツ氏のスピーチ(2)

当時---DDBクリエイティブ・マネージメント・スーパバイザー兼副社長
(1969年退社し、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者)


"My Graphic Concept" Lecture by Leonard Sirowitz in Zurich 1967 Spring
1967年春、チューリッヒでの「マイ・グラフィック・コンセプト」と題するスピーチ。氏の快諾を得てDDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳掲載したものの転載。


人びとが感じるように感じる

皆さんはアイデアを一つの巧妙なシンボルと考えています。しかし、一般の人たちはそのようには考えません。
皆さんは暖かみとか感情とかを、ほとんど表現していません。これではコミュニケーションとはいえません。広告ともいえません。
もしあなたがこのように行動するなら、あなたは広告人ではありません。あなたはデザイナーです。ページデコレーターです。
あなたは、あなたの言葉ではなく、彼らの側の言葉で彼らと話し合うことを学ばなくてはいけません。人びとが感じるように感じることを学ばなくてはなりません。
時代の大勢を見のがしてはしてはなりません。時代とともに動き、できることならそれより一歩先んじていなくてはなりません。
あなたの仕事をもっと邪魔しているものは、私にレわせれば、あなたが自分自身を自分の作った広告を読む人たちとは異なった種類の人間だと考えていとことです。
多分あなたは、自分ほうがより上等の人間だと考えているのでしょう。
あなた自身とあなたの創る広告を読む人たちとを同等に考えなさい。そうしてこそ、必要なコミュニケーションを始めることができるでしょう.
アメリカで最良の仕事をしている人びとは、皆さんが考えているような、華々しい哲学者たちではあtません。彼らはどちらかといえば普通の知性を持った人間で、ただ他の普通の知性を持った人たちの心や頭脳を見抜く才能を育てた人たちなのです。
この世の中での最良のアイデアとは、現実とまったくかけ離れたものでは、断じてありません。それは大多数の人びとに親しまれているコンセプトをほんの少し向きを変えてみたものにすぎません。
あなたがよいアイデアを追求して行けば、よいデザインはよい広告の中に自然に表現されるものです。もちろん、芸術的効果ということも大切ですが,それのみにとらわれてしまってはいけません。始めからデザインに夢中になっているアートディレクターは、広告制作上の本質を全く欠いているといえます。
そしてよいアイデアを持ちながらデザインしているうちにそれを忘れてしまうアートディレクターは、さらに大きな罪を犯しています。

DDBの重要な2つの機能

さて、今まで私たちの確固たる信念および基本的な考え方についてお話してきましたが、ここでDDBの仕事の機構について少し話させていただきます。

よい広告の創造のためには3つの重要な役割が必要です。

まず第ーにアカウント・エグゼキュティブがいます。
尊敬すべきビジネスマンであり、その役割は、クライアントの持つ問題や要望について、私たちが知らなくてはならないすべての事柄を代理店に持ち帰ってくることです。
それらの要望を公正かつ適切に伝達することも彼の役目です。
そしてまた常に100パーセント代理店側の見解に立って問題を処理することも彼の役割です。

残りの2つはアートディレクターとライター。
先にライターについてお話しましょう。彼もまた、尊敬すべきビジネスマンであり広告人です。高度に熟練した専門家であり、才能が強く要求されています。
なぜなら彼は、どのようにすれば人間を人間的言葉で結びつけられるかを知っているからです。彼は、詩人でも挫折した劇作家でもありません。
彼は、製品の販売のみを目的とする高度に専門化されたコミュニケーションの分野を学んでいるのです。彼は、アートディレクターといっしょに、一つのチームの中の対等の一員として仕事をします。

DDB社におけるアートディレクターとはいかなる人間でしょうか。
彼もまた、尊敬すべきビジネスマンであり、広告人です。と同時に高度に熟練した専門家であり、才能が強く要求されています。
なぜなら彼は、どのようにすれば他の人間を人間的言葉で結びつけられるかを知っているからです。
彼は、挫折した画家ではなく、製品の販売を唯一の目的とする高度に専門化したコミュニケーションの分野を学んでいる一員なのです。
しかし、大部分は現実の社会の中で生活し、彼らと同じ社会に住む人びとに語りかける現実の人間たちなのです。

【作品】
今日のシローイッツ氏の背後にピンナップされている自作品の一つ---レイニアー・ビールの広告



よいプレッツェルには、塩がたっぷりきいていてます。よいビールには、ほんの少しきいてます。

レイニアーの昔かたぎの醸造マイスターは、工程の最初のところで塩をほんのひとつまみ、水に加えます。料理人なら誰でも打ち明けるます、わずかにふった塩がほかの食材の香りを引きだすということを。



レイニアーの醸造マイスターは、タフで頑固で、迷うことがなく、意見を曲げず、屈服なんかせず、御し難く、考えを翻すことのない、昔かたぎの強情っぱりです。私たちのビールがおいしいのは、そのためです。



雨の日はレイニアー     晴れの日はレイニア
高山の清く甘く冷たい水がビールになり、陽光で育ったホップと小麦がビールになります。


続く(ベター・ヴィジョン協会の広告) >>