創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(132)広告はアートである(了)ウィリアム・バーンバック

(Mr.William Bernbach  President, DDB

1961年AAAA(米広告代理店協会 American Association of Advertising Agencies)年次総会でのスピーチ(1)(2)(3) 

(スピーチは拙編・著『繁栄を確約する広告代理店DDB(1966.10.1)より転載)

[クリエイティビティ]の経済性

DDBの最初のクライアントは、オーバックス(衣料中心の百貨店)でした。皆さんは恐らく、オーバックスがニューヨーク・マンハッタン地区14丁目で商売を始め、のちに安いことで有名になった店だということはご存じじゃないでしょう。
まったく驚くべきことが起きたのです。
今日オーバックスには一種の反スノビズム(虚栄的俗物主義)が存在します。そしてこの店は社交界のもっとも魅力的な人びとを顧客に持っています。
昨年、『ライフ』誌が米国におけるパリ・ファッションの特集記事を組んだ時、この国際雑誌はその全ストーリーをオーバックスの店を舞台に作りあげました。
なぜでしょう? 始めは、つつましやかったこの店が、どうしてファッション界における高い位置にまで達することができたのでしょう? 
その答えは、疑いもなく[クリエイティビティ]です。
マーチャンダイジング、広告における[クリエイティビティ]です。
最初から私たちは、安いファッションは悪いという観念をなくするには、広告はできるだけスマートや絵やコピーにしなくてはならないと言ってきました。15年間、私たちは一つのセリング・プロポジション(販売命題)でやってきました。
ロー・プライスのハイ・ファッション。
とはいえ、私たちは決して単にそれをスローガンとしてだけ使うということはしませんでした。私たちは人びとがその広告のアイデアから自分自身の結論を得られるようにしました。
私は、ありふれた広告のテクニックを皮肉っているオーバックスのキャンペーンの一つを思いだします。それは、男性に女の写真が載った新聞ページを破って腕にかかえさせました。見出しは叫んでいます。「特価提供! 奥さんをお連れください。ほんのわずかのお金で見違えるような女性にし立ててみせます。約束はちゃんと守るようにというきつい電話をたくさんいただいています」
このシリーズの別の広告では、白衣を着た医師があなたを指さしています。見出しは「もしあなたのお歳が35以上か以下なら、”ンゲーバ”が必要です(バーゲンりスペルが裏返しになつている)」。そして次の行は「もしあなたが35以上か以下なら」に星印をつけて「もしあなたが35なら、お誕生日おめでとう」
広告における[クリエイティビティ]の経済性の古典的例といったら、さしずめこれでしょう。

ジョーンの秘密が分かり分かりましてよ。

彼女の話すのをお聞きになったら、あなただったらきっと、この人ったら名士録にのるほどの人だなってお思いになることよ。でも、私、彼女の素性をつかみましたことよ。ご主人が銀行家だろう---ですって? とんでもございません。銀行口座すらありませんわ。
あなた、想像できて? あんなにたくさんの衣服! ええ、もちろん彼女は着こなし上手ですわ。でも、ほんとうのところ、ミンクのストールやパリ製のスーツやあんなにたくさんの衣服が、ご主人の収入で買えるとお思いになる? そこなの、私の発見は---ジョーンを尾行しましたのよ。そしたら彼女、オーバックスから出てきましたわ!

I found out about Joan.
The way she talks, you'd think she was in Who's Who. Well! I found ound all those dressest what's what with her. Her husband own a bank? Sweetie, not even a bank account. Why that palace of their wall-to-wall mortgages! And that car? Darling. that's horsepower, not earning power. They won it in a fifty-cent raffle! Can you imagine? And those cloth! Of course she does dress divinely. But really---a mink stole, and Paris suits, and all those dresses---on his income? Well darling, I found out about that too. I just happened to be going her way and I saw Joan come out of Ohrbach's!

オーバックスは、ニューヨーク市にあるもっとも大きなデパートが費やしている広告費の約30分の1しか使っていません。オーバックスの広告費は他のどのデパートよりもはるかに少ないだろうと思います。それにのに、ニューヨーク市に住んでいる人を対象にしたある調査で、どのデパートが広告にもっともお金を使っていると思うかという質問に対して、オーバックスがトップにランクされました。

大衆は、皆さんが行なった広告の数は数えません。彼らはその印象ほ記憶するだけです。
これまで[クリエイティビティ]は、売ることだけを目的にしてきました。しかし、本当に[クリエイティブ]な人びとのもっとも大切な責任は、[クリエイティブ]な自由を行使することだけでなく、何が本当の[クリウイティブ]な仕事で、何が見せかけのアクロバットであるかを知ることです。
政治的、社会的制約の急激な増加とともに、いたるところで私たちの直面する暴力とともに、広告主の間の手ごわい競争者とともに、オーディエンスに触れ、オーディエンスを動かすには、もっともっとすばらしい言葉や写真の技術が必要になるでしょう。
オーディエンスは、彼の注意を引こうとする、あまりにも陳腐であまりにも自意過剰の作為的試みにとりかこまれているので、眺めはするが心して見ようとはせず、聞こえていても進んで聞こうとはしないのです。そしてもっと悪いことには、彼は感じないのです。
[クリエイティブ]な才能の持ち主にとって、これほど大きな挑戦はかつてありませんでした。この挑戦にいどみ、その才能の魔術をもってオーディエンスに見させ、感じさせることのできる人にとって、その報酬はさして大きくはありません。、なぜなら、それは広告主が大衆に教えたいと思っているすべての事実にかけている保険だからです。
正直に、想像力豊かに働く人にとってのみ、この死んだ事実に生命が与えられ、それを見る人に忘れられないものになるのです。そんな人だけが、よい趣味、よい文章が、よい広告だということをみんなに証明することができるのです。

参考;
>>オーバックスの広告
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