(112)ハワード・ゴーセイジ氏とのインタヴュー(2)
(Mr. Howard Gossage President, Freeman & Gossage inc. Advertising)
「サン・フランシスコのソクラテス」との尊称をたてまつられている偉大なコピーライター---ゴーセイジ氏との対話です。
紙飛行機を折るのも仕事のうち
ゴーセイジ氏が送ってきてくれた『紙飛行機の国際試合の本 The Great International Paper Airplane Book』は、じつに楽しい本です。氏のほかに2人が加わって作ったもので、世界中から紙飛行機の作り方を応募させて、その中の数10機を紹介しています。
日本からも、福岡市の三角君が少年らしい手で、「僕は英語が話せません。だから日本語で書かせていただきます。僕は6日の西日本新聞でこの事をしりました。興味がとてもわき出し、いてもたってもいられず、紙でこんな飛行機を作りました。僕はこのコンテストの規則を全々(原文のまま)しりません。もしさしつかえなければこのコンテストにくわえてください」と書いて応募した手紙がそのまま収録されてもいる。
この時は、ゴーセイジ氏自身もたくさんの紙飛行機をデザインし、オフィスの中を飛ばして遊んだという。しかし、それは仕事だったのです。
洗練された科学雑誌『サイエンティック・アメリカン』の出版人が、サン・フランシスコの広告主に、この雑誌を広告媒体として周知させてほしいと、ゴーセイジ氏に依頼してきたのです。
「『サイエンティック・アメリカン』をより多くの人びと知ってもらうための、創造性に富む手段は、飛行機旅行にあるという結論に達しました。それは、飛行機に乗るということが科学時代である現代を知る最短コースであり、また飛行機に乗ったことのない人がたくさんいるからであります。
この人たちに共通していることは、みんな飛行機を設計したことがあるということです、紙の飛行機を---ね。
だれでも作っているくせに、だれもが他人の設計を知らない---ということもじじつでしょう?
とにかく、超音速機のデザインは、80年も昔に私たちが折った紙飛行機にやっとたどりついてる段階ですよ」と、ゴーセイジ氏は語りました。
募集広告が『タイムズ』ほか数紙に載るや、たいへんな反響がまきおこり、日本でも西日本新聞をはじめ数紙が紹介記事を載せたほどです。
しかし、ゴーセイジ氏は広告代理店の社長ですから当然媒体マージンとクリエイティブ・フィーをもらっています。媒体費を含めて総額4万ドル(1,440万円 1ドル=360円時代)がシフリーマン・ゴーセイジ社に支払われたはずです。ところが、同社は15%というきまった手数料をとっていません。フィー制なのです。
氏はいいます。「大きな広告代理店は、慎重にふるまわなければならないという危険をはらんでいる」から、フリーマン&ゴーセイジ社が小さくっても、ちっとも気にしていません。むしろ、それに満足しているようです。
1968年秋、サン・フランシスコで同社を再訪しました。
chuukyuu 「サン・フランシスコに住んでいらっしゃる理由をお聞かせくださいますか?」
ゴーセイジ「ほかへ住む理由が見つからないからです。戦争が終わった翌年の1946年に、ここへ来ました。その前の3,4年は、海の上にいましたし、それまでに住んだどこよりもサン・フランシスコが好きですし、魅力的な町ですからね。それで居ついてしまったのです。
chuukyuu 「ニューヨークかロサンジェルスへ進出なされば、会社をもっと大きくすることができるでしょうにね」
ゴーセイジ「どこでだって大きくできるでしょうよ。でも、小さいままでいることのほうが難しいですよ。いま以上に大きくしようとは思っていないのです。ちょうど手ごろな規模です。
もちろん、サン・フランシスコにいること利点のひとつは、ここが大広告都市じゃないってこともあります。うちのクライアントはみな、ニューヨークやヨーロッパのそれとは、どこか違うわけです。人びともぼくの言おうとする以上のものを信じてくれるのです。ですから、仕事も効果的にできます」
chuukyuu 「ぼくも、小さい代理店のほうが大きい代理店よりも生き生きとしており、少なくとも人間味があると信じているのですが---」
ゴーセイジ「そう、たしかにそのとおりだと思いますよ。大きな代理店で、生き生きしたものがでてくるとしたら、それは、その中にいる誰かが、その人自身の小さな王国をつくりあげて、その中で積極的に動いているからでしようね。
そして、他の人びとは彼を放っておくでしょう。だって、その人のやっててることが分からないんだから。でも、そういうふうに振るまえる人は、大きな代理店の中にはまれにしかいません。ところで、クライアントはその小さな王国がしているすぐれた仕事に目をつけるようになるのです。これは、どこの代理店でも同じことだと思いますが、でも、人びとが、小さな王国のっていることを公式化しようとするので、まもなくそれは、魔法でもなんでもなくなってしまいます」
chuukyuu 「あなたは、大規模であるよりも、小さくて生き生きしたほうを選ぶと言われましたが、これは、米国では一般的な考え方じゃないんじゃありませんか?
ゴーセイジ「戦術的に小さいままにしているのです。あなたもご存じのように、フレキシブルにしておきたかったら、大きくしてはいけないのです。なぜって、人がふえると、その一人一人に対して、突飛なことをやってはいけないとか、あたり前のことをやるべきだとかと、いちいち説いて回らなければならなくなるでしょう?
とにかく、二流の人材、平均的な人間の数を増やすことだけは避けるべきです。しかるに、広告代理店は平均的な人間をどんどん増やして大きくなり、その凡庸化に拍車をかけていく傾向にあります。
小さいままでいるというのは、きびしいことですよ。特に、一度成功してしまうとね」