創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(100)いわゆる「DDBルック」を語る(10)

     前DDBクリエイティブ・マネジメント・スーパバイザー ポーラ・グリーン
     (1969年退社 グリーン・ドロマッチ社をDDBの隣のビルに設立)


『MC』誌1969年6月号の記事、ご当人の了解をとって拙編DDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳・掲載したものです。


<<いわゆる「DDBルック」を語る(1)

DDBには成長をうながす雰囲気がある


問いDDBでコピーを書くということについて、何が話していただけますか?」


グリーンDDBには成長をうながす雰囲気があります。ビル・バーンバックさんのような人には、『ここをこんなふうにやれ』と主張する権利があると思います。でも、バーンバックさんは、そんなことはしません。
DDBはあの人の会社です。でも、信じられないことですが、DDBにはとてもたくさんのスタイルがあり、いろいろなライターがいます。そしてそれがいいもの、正しいものであるなら、あの人はいろいろなことを許しています。
バーンバックさんは、私たち自身が個人的に成長することを許してくれるのです。
そしてアカウント(得意先)が私たちが感じたような形をとることを許してくれます。
つまりバーンバックさんは、ここにいて、指導しています。そしてあの人はたいへんに知覚力を備えた人です。
バーンバックさんはご自分の部下に前に進むことをさせます。これはとってもユニークなことです。というのは、そのように強い人物、っていうのは自分自身の方法をつくり出すか、自分に従うことを望み、自分がつくり出した方法のほかは持とうとしないものですからね。
バーンパックさんのクリエイティブに対する包容力・許容力は、すばらしいことですよ。いろんな人が入ってきて、その人たちといっしょに成長して行くことができるのですから。常に進んでいるわけです。
アートディレクターは、常にフレッシュさを求め、コピーライターもフレッシュさを求めているのです。フレッシュさを求めますが、何か目新しいことをするために、売るべきものを犠牲にしたりはしません。フレッシュといっても目新しさのことではありません。再度目を向けさせ、それでいて『ああ、すごい!』といわせるようなことです」


エイビスは、”We try harder”という広告に使ったスローガンを、エイビス社のスローガンとし、エイビス・カラーの赤色で白地のボタン(ピン・バッジ)に印刷したものを、透明半球容器に1/3ほど入れ、全営業所のカウンターに置き、面白がり屋たちの誰でもが取って持ち帰れる(give a way)のノベルティとした(1/3というのがニクイと思った。山盛りだと最初の取り手に思えて手を出しにくい。1/3だと早く取らないと無くなりそう---と思う)。
広告から誕生した会社のスローガンを、さらに社会化したのである
面白がり屋さんは、いつの時代にも、どこの国にも、けっこう、いるものだ(面白がり屋が流行の尖兵となってくれる)。ぼくもコピーライターの端くれとして、当時、旅行中の米国のあちこちの空港のエイビス・カウンター(というより)、営業所の入口脇の透明容器からボタンをいただいた。カウンター・ガールの横だと、ちょっと照れくさくて、手を出さない人もいるから、その配慮であった。
ボタンを取って、カウンターのエイビス・ガールと目が合うと、彼女はにっこり笑顔を返してくれた。
(このボタンのアイデアは、DDBセールス・プロモーション部K・ギブソンの提案による)。


>(了)に続く



このエイビス・ボタンを
大学生の息子さんへ送ってほしいと
お思いになりますか?


あるいは、お宅へ皿洗い機を設置にきた人に? または、あなたのシャツのボタンがとれたままで渡したクリーニング屋に?
この「もっと一所懸命にやりますボタン」は、あなたのお知り合いのだれかの目を覚まさせます。
私たちをそうしたように。
このボタンは、私たちをふるい立たせました。レンタカー業界で2位にすぎないということを私たちに思い出させました。あなたに、ぴかぴかのスーパー・トルクのフォードののような新車を新車をお貸しするだけでなく、とてもたくさんしなければならないことがあったのです。
私たちは、あなたに、またいらしていただくようにするために、もっと一所懸命にやらないといけませんでした。
私たちのみんなが、です。
受付カウンターの女姓も、ガソリン・タンクを満タンにする従業員も、技術者も、そして事務所にいる者も。私たちは依然として2位にすぎないのです。けれども、目に見えて向上していています。
どこのエイビスのカウンターでもけっこう、ボタンをお取りください。
もし、スローガンが効力を発揮していなかったら、裏がえししてボタンのピンをお確かめください。


エイビスの持ち帰り自由のボタンは、
ほとんど
底をつきました


左:古き良きボタン 右:簡素な新しいボタン


ボタン5,000,000個以上。
1個2.5セント、合計で125,000ドル。2位にすぎないということをいうための大出費。
だから、ボタンを補給する私たちの担当者は、簡素なバージョンに切り換えました。しかし効果は相変わらず誰にでもあることを保証します(担当教区の300人を良い行いへと導こうとするアフリカの司教さんでも)。
単にボタンをつけているだけで、世界は自然に住みよい場所になっていくかもしれません。
しかし、ボタンをつけるよりもっと肝心なこと。
エイビスは、受付の女性がボタンをつけたからといって、奇跡を期待してはいません。エイビスは、勝つ意志を持っており、それがみんなの胸に刷りり込まれています。受付の女性にも、葉巻の吸い残しをフォードからつまみ出す男子従業員にも。
エイビスのボタンはお望みの方には差し上げています。
このボタンが効果を発揮するのは、書いてある言葉どおりに、身につけている人がしっかり働いているときにだけですから、念のため。


(訳:梅地沙史&chyuukyuu)



エイビスの広告キャンペーンために下のエイビスの広告は、
よくある、
マジソン街流の誇大広告だった?


はい、その通り。
だから、広告はすばらしい効果をあげました。
第1弾の広告は、実に多くの人を引きつけました。
私たちはレンタカー業界で2位なんだから、お客さまのために一所懸命にやりますと宣言したのです。
お客さまは、すべての言葉を信じてくださいました。
お客さまは、私たちが広告で約束したすべてのこと---清潔な灰皿、満タンのガソリン、きちんと動くワイパー、心からの笑顔、ピカピカのフォードの新車---が実現されていることを期待なさいました。
ほとんどの方は、失望されることはありませんでした。
その方々は、再度、車を借りに見えました。さらに、くり返しくり返し。お友だちも連れて。
あなただって、冗談でお店を幾度も訪れたりはなさいませんよね。
ましてや第1弾が、誇大広告だったりしたら。
広告は真実でした。


(訳:FuFuFu & chyuukyuu)


Was this Avis ad just another Madison Ave. gimmick?


エイビスの”We try harder”シリーズ・キャンペーンのために、独特のレイアウト・フォーマットを創造したDDBのアートディレクターであるH・クローンの全業績を記録したC.チャリス編・著『ヘルムート・クローンの本。クリイティブ革命』(未訳)によると、引用の第1弾「エイビスはレンタカー業界で2位にすぎません。なぜ、お使いただきたいか」の広告を、DDBに広告を任すことを決めたエイビス社の新社長ボブ・タウンゼントは「好きではない」 といったそうです。
バーンバック氏もいいました。「わたしも、好きではありません。でも、わたしが認可しました。ものすごくパワフルだし、正直な訴求だからです」


これまでにアーカイブしたエイビス・キャンペーン

[DDBの広告]エイビス(01) (02) (03) (04) (05) (06) (07)


>(了)に続く