(96)いわゆる「DDBルック」を語る(6)
前DDBクリエイティブ・マネジメント・スーパバイザー ポーラ・グリーン
(1969年退社 グリーン・ドロマッチ社をDDBの隣のビルに設立)
『MC』誌1969年6月号の記事、ご当人の了解をとって拙編『DDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳・掲載したものです。
相手によって異なったライターになる
問い「ヘッドラインはコピーが浮かぶ前に出来上がりますか、それともアートディレクターがあなたに向かって言った言葉の場合などもあるのですか?」
グリーン「ええ、そういうこともあります。時によりけりです。チームを組んでいる相手次第です。
(コピーライターはアートディレクターとある状況におかれるたびに)相手のアートディレクターが違うたびに、ライターは、それまでの自分とは変わった人間になってしまうものだと思います。ですから、ライターが多分アートディレクターに作用を及ぼすのと同じように、アートディレクターもコピーライターにさまざまな異なった局面を引き出してくれるものです。
だから、常に異なった自分を持っているわけです。異なったコピーライターとなるわけです。気性の違った人と組めば、違った雰囲気が生まれてきます。
問題自体も一つの気流を生みます。たとえば、現在、わたしはクエーカー・オーツを受け持っていますが、これはエイビスとは根本的に異なったアートディレクター、異なった問題、異なった対象を与えられています。そこで私は変わるわけです。
これは八方美人となるためにではなく、ある方向に拡大して行くため、あるいは移って行くため、その問題に合わせて自分の思考を切り替えて行くために必要なことなのです。
いろいろな状況下で常に同じ自分であるということはできません。台所にいる自分と、エイビスのガレージにいる自分と同じでありうるはずがありません」
こちらのシリーズは採用されませんでした。
エイビスは、汚れたミラーを
許さない。
あるいはサンバイザーのほこり、泥つきのフロアー・マット、生きのいいスーパー・トルクのフォードの新車みたいじゃないの。
なぜ? って---。
あなただって業界最大手でなきゃあ、もっとしっかりやるでしょう。
私たちはやってます。
私たちは、2位にすぎないのです
エイビスは、エア欠けタイヤを
許さない。
あるいは生きのいいスーパー・トルクのフォードの新車みたいじゃないの、満タンじゃないタンク、つかないライター。
なぜ? って---。
あなただって業界最大手でなきゃあ、もっとしっかりやるでしょう。
私たちはやってます。
私たちは、2位にすぎないのです。
エイビスは、いかれたワイパーを
許さない。あるいは生きのいいスーパー・トルクのフォードの新車みたいじゃないの、きちんと夏用オイルに入れ替えられていないの。
(以下同文)
エイビスは、満タンになってないタンクを
許さない。あるいは発電量不足のバッテリー、甘いブレーキ、生きのいいスーパー・トルクのフォードの新車みたいじゃないの。
(以下同文)
エイビスは、水不足のラジエーターを
許さない。あるいは満タンになってないタンク、生きのいいスーパー・トルクのフォードの新車みたいじゃないの、ピカピカじゃない車体。
(以下同文)
【chyuukyuu自戒】
エイビスのスローガン---"We try harder"を、これまで「一所懸命にやります」と、関東武士の心構え用語で訳してきましたが、この、不採用のシリーズを眺めているうちに、どうもニュアンスが違っているような気がしてきました。
そこで、「もっとしっかりやる」としてみました。
というのは、不採用シリーズでとりあげているのは、100項目近く書きあげられた点検マニュアルをきちんとやるという意思表示だからです。
実際にラン(出稿)した"We try harder"の各国語版ボタンを並べた広告で、日本語は「もっと頑張ります」となっていたが、これは、まったく見当はずれの訳語だと思います。そういう抽象的なことをいっているのではなく、エイビスのこのキャンペーンは、点検マニュアルの1項目1項目のすべてに、きちんとOKマークが入れば、客への完全なサービスになるという仕組みになっているんです。
政党なんかが、集会で、腕を突き上げて「頑張ろう」と大合唱しているが、あれくらい、具体性に欠けたスローガンはありません。何を、どういう手順で、一つ一つやりとげていくかを明示しないかけ声だけの頑張りは、結局は、何ももたらさいのだということを、この不採用シリーズから学びました。
これまでにアーカイブしたエイビス・キャンペーン
[DDBの広告]エイビス(01) (02) (03) (04) (05) (06) (07)