創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(92)いわゆる「DDBルック」を語る(2)

 前DDBクリエイティブ・マネジメント・スーパバイザー
 ポーラ・グリーン
 (1969年退社 グリーン・ドロマッチ社をDDBの隣のビルに設立)


『MC』誌1969年6月号の記事、ご当人の了解をとって拙編『DDBドキュメント』(誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳・掲載したものです。


<<いわゆる「DDBルック」を語る(1)

ナンバー・ワンでないということはどういうことか


グリーン「アイデアというんです。アイデアという言葉が、『私たちはサービスする準備が整っている』そしてなぜ『私たちがサービス精神が整っているか』ということをいちばん要約し、とらえていると思います。
わたしは、このアピールこそ、私たちが対面することになっているマーケットにピッタリしていると強く感じました。
私たちは、主としてビジネスで旅行をする必要のある人、必ずしもその業界でナンバー・ワンの会社ではない企業で働いているビジネスマン向けに語りかけることにしました。
彼らは、ナンバー・ワンではないというのはどういうことか、何を約束しなければならないか、余計に努力をしなければならない---を知っている人たちに共鳴みたいなものをいただいていました。
というのも、エイビスもナンバー・ワンではなかったからです。


注:キャンペーンの開始当時のエイビスは、1位からはるかに引き離されていた2位---人によっては「3位じゃなかったっけ」と思っているほどのあいまいな2位---経営的には4位ともほとんど差のない団子状態の2位でした。
キャンペーンによって、イメージ的には決定的な2位、3位を引き離している2位---経営的には1位の背中が見えている2位の位置につけることに成功しました)。


そしてこれは、セールスマンの武器でもあると、わたしは思うのです。
たとえ『いいですとも、あちらは偉大でしよう。ですが私たちが小さいからこそ、私たちがあなたのためにしてあげられること、私たちがあなたのことをもっと心配してあげられることを考えてみてください』といって巨人と競っているにしてもです」


問い「これはある意味では、いわゆる不利な点を利点に変えるというクラシックなアイデアですね?」


グリーン「ええ、まあ、それを不利な点と考えればのことですが。変な話です。私たちは、『アド・エイジ』誌のクリエイティブマンズ・コーナーにいろいろなことで引っぱり出されました。実際のところ、彼らは、この広告を広告の最も痛烈な例として採り上げ、憎んだのですよ。わたしは思いましたよ。これ以上アメリカ的で、これ以上フリーな企業心と競争心に満ちた精神はないのじゃないかってね。
それに、私たちは袖をまくりあげて、あなたのために仕事をしてあげると言っているのですよ!
それも、そうしなければならないから、繁盛してもいないし、あなたのビジネスが必要としているからなのですからね!
これは、『偉大なるアメリカの真実』だと思うんです。
ただ、これまで広告で、これほど率直にそれが述べられたことがなかったということだけのことです」


問い「それだけのことです、それこそキー・ワードですよ。実直と質朴」っ


グリーン「そうです、これには全然手管は含まれてはおりません。偶然それが、このストーリーの真髄となったのです」


問い「そうですね。率直に言って、わたしの知っている多くのコピーライターと同じで、あなたの最初からあなたの主題には賞賛をおしまずにきました」


グリーン「ありがとうございます。でも、ご存じかともおもいますが、DDBでは決して一人の仕事といったものは存在しないのですよ。これも偉大なるアートディレクター、ヘルムート・クローンとの共作です」


>>(3)

この広告のコピーライターが
最近、エイビスの車を借りて、
そこで見たものは----


私は、生活のために、エイビスの広告を書いています。しかし、私は金もうけの嘘つきになったことはありません。
あなたがエイビスに最低限期待できるのは、あらゆる点で申し分のない、きれいなプリマスだと私が保証しても、エイビスは決して私を裏切らないと信じていられます。
吸殻でいっぱいの灰皿があるなんて、思いもよりませんでした。
あの会社は、上は社長から、全員が一所懸命やっていることは、私もこの目で確かめて知っています。
「私たちは一所懸命にやります」というのは向こうのアイデアで、私がつくったものではありません。
ですから、困ったのは向こうで、私ではありません。
もし、私に、今後ともエイビスの広告を書かせるのなら、そのとおりにやってもらわなければなりません。そうでなければ、別のコピーライターを雇ってもらいましょう。
まさか、この広告は、使わないだろあな。


注:コピーのパワー
実は、いま、グリーン夫人の口から名前の出た、アートディレクターのヘルムート・クローン氏は、もう一つのフォーマットを用意していたことがC・シャリス編著『クローンの本・クリエイティブ革命』で明かされています。それは---)

エイビスには、そんな余裕はありません
−−−汚れたままの灰皿−−−

それに、満タンにしないでお渡しするとか、生きのいいスーパー・トルクの車じゃないとか、笑顔抜きとか。
なぜって---
あなただって、レンタカー業界の最大手でないがきり、もっと一所懸命にやるしかないでしょう。
だから、私たちはそうしてます。
私たちは、2位にすぎないんですから。


↑これと、きのう引用した吸殻のコピーを比較してみてください。
エイビスへの親しみというか、協力してやろうって感じの深さが、まるで異なりますね。
同じように、事実をいっているのに。


「レイアウトを語る」ヘルムート・クローン インタヴュー(1)(2)


>>(3)