創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(86)バーンバック氏、広告の書き方を語る(3)

東京コピーライターズ・クラブ編『5人の広告作家』誠文堂新光社1966.3.25)からの転載。

バーンバック氏、広告の書き方を語る』
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 バーンバックさん、私たちがいま話していることは、業界の見解というよりはむしろ、個人としてのものの見方です。
さて、広告界にはたくさんのライターがいます。そんなにうまくはないけれども、よりうまくなろうとしているライターもいます。
これらの人たちへ、どうしたらその技術を進歩させることができるかということについて、広告界のベテラン・コピーライターとしてのあなたから助言をいただきたいのです。
バーンバック そうですね。これを使いさえすれば安心というような方程式でもあれば教えてさしあげるのですがね。そんなものはないのです。
しなければならないことは、
絶えず働くこと、
絶えず考えること、
自分がしていることにできるだけ誠実であること、
絶えず練習すること です。
 ものの見方を新鮮に保つためにどのようなアウトサイド・ソースを用い、どのような興味を追求しますかと、インタヴューしたほかに人たちにも聞きました。あなたもこの質問に答えていただけますか?
バーンバック もし、これがあなたのおっしゃっておられることの一つだとすれば、私は、読書を大いにやります。
 どんな分野の?
バーンバック 哲学の本をたくさん読みます。
小説もたくさん読みます。人間のすることはなんでも、コピーのためになると、思っています。あなたのしたこと、経験したことはきっとあなたのコピーのためになります。もしあなたがコピーの中に、より考え深い、よりおもしろいことをいれることができれば、あなたはもっとプロポカティブ(刺激的訴え)になれるものです。
 あなたはいま、どれくらいお書きになりますか? よく書きますか?
バーンバック そうですね。こんにちではボディ・コピー(本文)はそんなには書きません。でも、DDBがつくるほとんどのものを校閲します。そして、いまもヘッドライン(見出し)を考えています。
ここで一つ重要なことをいわせてください。
こんな古いことわざがあります---それは確かに私のものではない。しかし、私は完全にそれに同意する---これは、あなたがなにか書くべきものを持っているときほど、よく書けるということです。
あなたの賢明さ、訴える力の強さ、イマジネーション、斬新さは、製品に対する知識から出ています。こんにち起こりつつあるもっとも悪いことは、グラフィック上の手品(ごまかし)だと私は思います。
イデアを得るということは、だれにとってもそんなに難しいことではありません。
重要なのは、そのアイデアがよいものかどうかということを見分けることです。
あなたはイマジネーションを持たなければなりません。
斬新さを持たなければなりません。
これは訓練されなければなりません。
あなたの書くすべてのこと、誌面に表現されたすべてのもの、すべての言葉、すべてのグラフィック・シンボル、すべての影は、あなたが伝えようとしているメッセージを助長するものでなければなりません。
おわかりのように、あなたはアートのできを、それがどのくらいよくその目的を達成しているかということによって測ります。
また、広告に携わる人で、自分の目的は一つの商品を売ることだといわないような人は偽者です。
また、あなたはできるだけ簡潔で、できるだけ素早くて、できるだけ鋭くなければなりません。そして、これは知識からくるものです
そしてあなたは、この知識を消費者に結びつけなければなりません。
イマジナティブということは、ただ出かけていって愛敬をふりまくということではありません。
広告でモデルの男性を逆立ちをさせることによって人びとの目を広告に引きつけることもできるという例を、私は何回も見てきました。しかしこれは、売ろうとしている製品が、ポケットからものが落ちないようなズボンでなければいい広告とはいえません。そのとき、あなたの斬新さ、引きつける力、賢明さが、あなたの商品の利点をさらにおしすすめ、記憶されやすいものにするのです。
こういうふうにやらないと、人びとをあなたの広告に引きつけることはできず、そして、つまりは、あなたが広告でなにをいっても、ただえお金を浪費しているにすぎないことになります。
たとえそうやったにしても、それらがあなたが広告している商品と関係のないやり方であると、人びとがその広告でだまされてその製品について読まされてしまった---という憤りを感じさせてしまうことになります。
ですから、あなたがやるべきことは、できる限りに安く、それでいてクリエイティブな手段で人びとを引きつけ、商品を印象づけることです。
ところが、これがむずかしい。骨が折れる。これこそ、広告創造ということです。
 簡単に、あなたのやり口をお聞きしたかったのですが---。
パーンバック (笑声)
 どうして笑うのですか?
バーンバック まるで私の説明に対する答えみたいに、あなたが、私のやり口について聞いたからですよ。
 いいえ、答えではありません。答えのつもりでないって、はっきり知っています。
バーンバック DDBには、コピー部に100人ほどの人がいます。この中で、同じようなやり口を持った人がいるかどうかは疑わしいのですよ。それどころか、てんでばらばらですよ。


つづく