創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(85)バーンバック氏、広告の書き方を語る(2)

東京コピーライターズ・クラブ編『5人の広告作家』誠文堂新光社1966.3.25)からの転載。
元稿は『アド・エイジ』誌(1965年4月5日)に、同誌・主任エディターであるデニス・ヒギンスによるインタヴュー。


 コピーライティングにもどりましょう。あなたは広い範囲からライターを求めているとおっしゃっていますが、どんな種類のライターをさがしておられますか?


バーンバック ええと、私は別に、この仕事にこういうライターをと、さがしているわけではないのですが---。


 では、もう一度いいなおさせてください。あなたは、これまでに多くの部下をもってこられましたが、そのうちの誰かに、なにかとくに目立った個性というものを発見されましたか? ひじょうに才能がある人とか、ひじょうにクリエイテイブな人とか?


バーンバック 前にも言ったことがあると思うのですが、もう一度ここであなたにお話しましょう。
ここで問題になることの一つは、私たちが一つの公式を探しているということです。なにが優れたライターをつくるか? これは危険です。まずいライターをつくるのがこういった態度なのです。ライターに向いていないような人たちをライターに育てることにもなるのです。
私は、むかしの『タイムズ』のインタヴューを憶えています。インタヴュアーが小説家だったか、短編作家だったかに聞いているものでしたが、そこで彼は、こんなことをいっていました。
「朝は何時に起きますか? 朝食には何を召し上がりますか? 何時に仕事をはじめますか?」 そしていわんとするところのすべては、もし、朝6時半にコーンフレークスを食べ、それから散歩をし、つぎにうたたねをし、それから仕事をはじめ、昼でやめるならば、あなたもまた偉大な作家に違いない、というものでした。
誰も、こんな数学的で、こんなに正確ではないでしょう。この、すべてのことを正確な言葉で測ろうという仕事は、今日の広告に関しての問題のひとつです。
これが、調査崇拝ということにつながります。私たちは自分の手にいれたファクトについては大いに関心を持ちますが、このファクトを消費者に向かって刺激的にするかということについての関心は十分とはいえません。


 バーンバックさん、ものを書く人は、アイデアを積み重ね、それらを将来のために貯めてかくための一定のやり方をもっています。あなたが活躍しておられた頃、すばらしいアイデアをたくさん持っていらしたと思いますが、あなたはクライアント(広告依頼主)によって確立された基本的ルールによって書く方がやりやすかったか、それとも、Carte blanche (白地書式、署名だけしてあって自由記入をする)の時に書く方がやりやすかったのでしょうか?


バーンバック クライアントが私たちに基本的ルールを与えることを私たちは決して許しません。それは、クライアントのために悪いと私たちは思っています。
それはこういうことです。
私たちは決して製品についてはクライアントとおなじには知ることができないと考えています。になしろ、クライアントは、製品と寝食をともにしているのです。彼はそれをつくったのです。生活の大部分をそれとともにすごしているのです。私たちは、どうしたって彼とおなじようにそれについて知ることはできないのです。
それと同じことで、彼は広告については、私たちと同じように知ることはできないのだと、私は確信しています。なぜなら、私たちは広告環境の中で一日中生活し、呼吸しているのです。
そして、私たちがそのおなじ製品をとり扱っているということと、それとは全然無関係なのです。
私たちは、彼のとは別の技術を必要とします。彼はその製品をつくり、マーケットする技術を必要としています。私たちには、それを消費者に伝え、説得する技術が必要なのです。
この二つは、違ったものです。全く別ものなのです

そして、すべてのことを数学的に(調査や指図によって)片づけようとすることの欠点は、誰もかれもが同じやり方をしだすということです。

DDB創設以来のアカウント---オーバックス百貨店の広告はバーンバック氏が手がけた。



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つづく



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