創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(70)『かぶと虫の図版100選』テキスト(15)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。そのテキスト部分の転載です。

DDBをコピーに重点を置く代理店にしたのはケーニグの功績

ジュリアン・ケーニグ(Julian Koenig)というコピーライターに、もう少し、こだわってみよう。
ケーニグは、1966年にニューヨーク・コピーライターズ協会から、史上第6番目の「コピーライター、名誉の殿堂」入りを許されたほどの人だから、一世を風靡するだけの実力の持ち主である。
彼の実力のほどについて、ジョージ・ロイス氏が、「DDBでは、アートディレクターが特別に大切にされたていたんだよ。コピーは、見出しとあと2,3行って程度だった。ボディ・コピーを長く書くようにし、DDBをコピーに重点を置く代理店にしたのはケーニグの功績だよ」と、ある時、ぼくに話してくれました(注:もちろん、ロイス氏がDDBを辞めて、ケーニグ氏とともにPKLを創設した後のことである)。
ロイス氏のこの驚くべき言葉は、若干の解説を要する。かつて---といっても、たかだか40年から50年ばかり昔でしかないが、クロード・ホプキンズ(Claude C. Hopkins)という傑出したコピーライターがいた。
彼は、「広告は印刷によるセールスマンシップである」と喝破して、長いコピーを書いた。絵や写真が趣味の悪いものであっても、コピーが力強ければ、それでよし---とする傾向が、太平洋戦の終わりまで続いた。
戦後、DDBを創業したバーンバック氏が、視覚尊重の時代が到来したことを見抜き、グラフィックとアイデアの結合を試みた---というよりも、よりアートに重点を置いた。DDBによって、広告の外観は浄化された。
そのかわり、コピーはますます短くなった。ホプキンズの流れをくむケーニグ氏が、長いコピーをDDBの中に広めようとしたのは、以上のような理由があったからである。


●米国VW社がクライアントに決まるまでの、代表的クライアントだったポラロイドの広告例。


写真が10秒で仕上がるとなれば、もっと楽しみが増えます。ご家庭のもポラロイド・ランド・カメラをお備えになったほうがいい時期がきているんではありませんか?


VWステーション・ワゴンの長いコピー例


「見て。ボクたち、尾行(つ)けられてるよ」

仲間から、キミは正しい---と認められるのは、いつだっていいものです。
全く正しい、と。
ちょうどそんなことが最近起きました。同業2社が「フォルクスワーゲン・タイプの」ステーション・ワゴンを発表したときのことです。
それらの新型車がヴェールを脱ぐや、多くの新聞記者が「フォルクワーゲン・タイプの」ステーション・ワゴンと紹介したものです。
私たちは、これをたいへんな賛辞と受けとりました。私たちのワゴンに対してばかりではありません。過去11年間にわたって、この車を買って下さった方々の勇気に対してです。
このことは、フォルクスワーゲン・ステーション・ワゴンが、もう、革新的でなくなったということでしょう。
今では、公然たる一つの傾向なのです。
VWステーション・ワゴンは、自動動物(automative animal)の新しい種です。---つまり、全身これステーキの雄牛とか、4本足の七面鳥などと同義語です。
(とはいっても、4本足の七面鳥のように、一見、奇妙にみえます)。
在来のワゴンよりも7フィートも短くても、収容力はもっとあります。定員も8名、それに28立方フィートの荷物(どちらかじゃなく、両方ともですよ)。
それでいて、VWセダンよりも9インチ長いだけです。並べて見ないかぎり信じられないでしょうが(このことで賭けをして勝った人がたくさんいる程です)。
両ウィング・ナットを外し、センター・シートを引き出してください(赤ちゃんを乗せたプレイペンを開いたままでも、ブリッジ・テーブルを開いたままブレイヤーごとでも入れられるだけのスペースができます)。サンフランシスコの繁盛しているモータープールの発見です。
両方のリア・シートを取りはらってください。簡易寝台を広げて、星を仰ぎながら眠れます。
空冷式エンジンです。
沸騰する水はありません。
凍結する水もありません。
エンジンは後部にあり、これが注目の牽引力のヒミツです。ぬかるみや砂地や氷上や雪道で、ほかの車がスキッドすもような場所でも走れます。
(ついでですが、これがVWワゴンがスキーヤーがお気に入りの理由の一つです)。
これで、このステーション・ワゴンの後ろについてくるものが多いわけがお分かりになったでしょう。
しかし、このことは心にとめておいてください。
フォルクスワーゲン・タイプの」ステーション・ワゴンは、フォルクスワーゲンではないということを---。
全く同じではないことを--。
フォルクスワーゲン・ステーション・ワゴンは、11年間生産されてきています。
毎年改良をつづけていますが、基本的デザインはずっと同じです。
長くつづいたので、品質も向上しました。
ドアぱぴたりと閉まります。
わが社が従業員に要求することは、自分たちがオーナーになるようなつもりで1台1台のフォルクスワーゲンをつくれ、ということです。
仕上げは愛情のいる作業です。頭からすっぽり塗料に漬け、入念な手磨きを2回やることを含めて、4重塗装します(塗料を44ポンド使います)。
また、VWのステーション・ワゴンだけが、VWの心臓を持っています。
つまり、シリンダーの過労なしにトップ・スピードで1日中走り、信じられないようなVW長距離走行性能を発揮するエンジンです。
部品の補給とサービスですか? 小さなものにいたるまでVWはセダンと同様に完璧です。
しかし、これが決め手です。
デラックスVWステーション・ワゴンは、スタンダード型の「VWタイプ」の他のワゴンと同価格か少し安いぐらいです。しかも、VWにはサン・ルーフとスカイライト・ウィンドウがあるんです。
デラックスVWステーション・ワゴンは、$2,620、スタンダードVWワゴン(サン・ルーフなし)は、$2,245です。
これは、イースト・コースト港陸揚げの指示販売価格です。
また、両VWとも、ヒーター、デフロスター、バカンパー、オーバーライター、4スピード、フルシンクロナイズド・トランスミッション、リアの3シートが装備され、室内は完全に仕上げられています。
VWタイプの」ワゴンでは、これらはみな、オプション装備です。
VWステーション・ワゴンが、1950年に紹介されたときは、11年間だけ進みすぎていたようです。
そのときが、今こそ来たのです。


>>(16)に続く。