創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(66)『かぶと虫の図版100選』テキスト(11)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。そのテキスト部分の転載です。

賞をとる広告ははたして商品を売るか?


「小さいことが理想」と書いた紙片を、ケーニグ氏がクローン氏の部屋へ届けたと書いた。
なぜ、クローンの部屋へ---だったのか。それルールだからである。
DDBでは、アートディレクターとコピーライターの2人がペアになって広告をつくる。2人の関係をたとえれば、ピンポンのゲームだ。球を相手に打ち返すように、アイデアの行き来をさせる。ピンポンと違うところは、相手が落とすような球を打ってはいけないことになっている点である。
そして、アートディレクターとコピーライターとのピンポン・ゲームは、アートディレクターの個室で行われる。なぜかというと、交流するアイデアを簡単にスケッチする用具や机がそこにあったほうが便利でからである。
こうしたつくり方を〔アートとコピーの結婚〕という。
この「小さいことが理想」の広告こそ、〔アートとコピーの結婚〕の典型例と主張する広告人が多い。つまり、見出しに合わせて、商品写真を小さくあしらっている、その外観的な点を指摘するのである。
なるほど、そういう見方もあるが---と思うが、前面的には賛成しかねる。浅薄すぎる見解---というと語弊があるが、〔アートとコピーの結婚〕の意味するところは、外観よりももっと本質的なもの、すなわち、創造作業のペア・システム化にある。しかし、このことはあとで詳述するとしよう。
とにかく、不朽の名作といわれる「小さなことが理想」は、こうして生まれた。


エピソードの幾つかを加えよう。
その1.『フォーチュン』誌のために発想されたこの広告は大評判になり、いろんなところへ記事として引用。体裁された。その後、『ライフ』誌や『ニョーヨーカー』誌のような大部数の一般誌にも掲載され、より多くの人びとの目にとまった(注:ボディコピーは一般の人用に代えられた)。


(『ライフ』誌に送稿された、いわゆる画面指定用トンボつき清刷り)


小さいことが理想


当社の小さな車は、もう、そんなに新奇なものではなくなりました。
1ダース以上もの学生が中に入ろうとして押し合いしあいをするようなこともなくなりました。
ガソリン・スタンドの店員が、ガソリン注入口を探すこともありません。
私たちの車の形に目を見張る人も、今はいません。
まったく、私たちの小さな自動車を、運転する人の中には、1ガロンあたり32マイルがたいした数字だということさえ考えない人もあるのです。つまり---
オイルはも5クォートじゃなく、半分の5パイントですむこと。
不凍液がいらないこと。
タイヤは1セットで40,000マイル突っ走れること、なども考えないようです。
それは、この車の経済性にひとたび慣れてしまうとそのことについてはもう考えようともしなくなるからです。
ただし、次のような場合を除いてはね---
小さな駐車場にはいりこむ時、


少ない保険料を更新する時、
少ない修理費を払う時、
古いVWを新しいのに乗り換える時。
この点をよくよくお考えいただきたいのです。


その2. 1966年のある会合で、ケーニグ氏はこう講演した。
「『不良品』とか『小さいことが理想』などを含むVWの広告が初めて出た1959年に、広告の仲間たちは、その年の最優秀キャンペーンとしてルノーを選びました。
ルノーの多彩なタイポグラフィと風船を使った、しごくフランス的な広告で、みんなを華やいだ気分にさせました。
一方、VWはみんなの考え方を足が地についたしっかりしたものにしました」
これは、広告界に対する強烈な皮肉である。大半の広告人は、たとえ彼らが高い地位についていたとしても、広告のなんたるかが本当のところはわかっていない---と告発しているのである。
その3. 「小さいことが理想」の広告の中に、「エコノミー・ランで、VWは、1ガロンあたり、平均約50マイル弱(1?あたり35.7km)の記録を出します。あなたには、ちょっと無理な数字です。プロのドライバーは、職業上のすてきな秘訣を持っているんですから(お知りになりたい? では、VW,Box 65,インクルウッド,ニュージャージー州へお手紙をどうぞ)のフックに対して、この広告がでた時点で4,000通、それ以後もボツボツと舞い込んでいるという。



1959年8月から60年初頭へかけて、米国VW社のよるビートルの広告が6,7点、人びとの目に触れた。それらはセダンの広告にしては、車の外見同様に一風変わっいたので、車好きの人たちには強く印象に残った。
そこへ、この広告。
本文末のロゴ・マークの?にもご注目。


この知的遊びに参加してくださる方。車の名前をコメント欄へ。締め切り7月31日(火曜日)午後5時。
正解者には、当ブログの「名誉メンバー」の称号を進呈。



この車の名前、わかりますか?


ヒント 最高に熱い日でも、この車がボンネットをあけているのを見ることはない(水冷式でばなく、空冷式エンジンだからで、オーバーヒートなし。凍結もなし)。
ヒント 自足110kmwで1日中走っても、汗を流すような作業はなし。
ヒント ほかの車がスキッドするような、ぬかるみ、砂地、氷上、雪道でも、この車だけは走る(リア・エンジンだら)。
ヒント すべて気密にできているので、浮くんじゃないかとの手紙をいただいたこともある。
ヒント 変更のための変更をやったことなし。これからもそう。
ヒント ボディつきで1,565ドル。中古の値下がりは、ほかのどんな車よりも少ない。
ヒント イニシャルはV.W.




Can you name this car?

Clue: Even on the hottest day, you won't see this car with its hood up. (The engine is cooled by air instead of water. Won't overheat, won't freeze.)
Clue: It cruises at 70 miles an hour all day long without working up a sweat or running up a repair bill.
Clue: In mud, sand, ice or snow, where other cars skid, this one will go. (The engine in the rear does it.)
Clue: It's put together so air-tight, there have been persistent reports it will even floot.
Clue: It's never been changed for the sake of change-and it won't be, either.
Clue: It sells for $1,565, compiete with body. And a used or ciotes less than any other car.
Clue: Its initials are VW.


>>(12)に続く。